003

2024年 1月 14日 14時00分 病室にて


「なんなんですかこの人は!私は病人ですよ!そんな事件貴方に言われるまで知らなかったんですよ!」


 声を荒げながら皆元さんは彼女に怒りをぶつけていた。

 そりゃそうだ、僕が皆元さんの立場だったらそう思うに違いない、違いないのだろうがこの時点で彼女の負けは確実になってしまった。


「本当にこの事件に関りがないとおっしゃいますか?」


「そうですよ!失礼な警察さんですね」


こんな状況であるが彼女の事について少し説明しないといけない事があるのでよくある副音声というやつみたいに解説していこう。

 彼女、皐月原安吾は変人であるという事を、

 変人行為その壱


「それはあり得ないことですね、私が貴方を犯人と言っている以上、貴方は殺人犯で間違えないのですから」


 確固たる根拠もなく彼女は誰が犯人なのかある程度の現場証拠で導き出せる処。


「頭可笑しいんじゃないですかこの人!」


 皆元さんは僕の方に向き、彼女を指さしながら言った。

 うん、僕もそう思うよ。可笑しくなきゃ警視監なんて階級になっても現場に来るなんて奇行はしてないだろうに・・・・・・

 

 プルルルルとスマートフォンの鳴動がこの張りつめた空気で満たされた病室に響いていた。


「安吾だ。―――そうか分かった。ありがとうな」


 音の犯人は安吾の様で、弐〇秒ほど軽く電話した後に電話を自ら切った。

 変人行動その弐


「さて証拠品が見つかった。お前の彼氏さんの頭とジャックナイフ、それと小型のチェーンソー」


 不可解ともいえる程、安吾が犯人を予測したと同時に見つかる証拠品の数々。

 微妙にではあるが口元がピクリと痙攣した様に上に釣りあがったのを確認した僕はどうやら今回も事件は幕引きの時間になった事を予期した。

 元演技者の前でその動揺は自白してるも同然の様な者だった。


「さて、パズルを完成させるためのピースは揃いつつあるのだがこれでもまだ貴方は犯人でないと言えますか?」


「言えます!だってまだ何も私がその事件に繋がっている事なんて無いのだから」


「そうか、なら・・・・・・」


 手に持っていたスマートフォンを軽く操作した後、彼女に向かって一枚の写真を見せた。


「え・・・・・・」


 そこに映るのは先程までいた浮橋の上でピースする花摘さんとタブレットに映し出された指紋鑑定による結果だった。


「さて、パズルのピースはまだ全て揃ってはいないが組み立てといこうか」


 スマートフォンの電源をオフにして彼女、

 皐月原安吾は語りだす。

 変人行為その四

 自身の欲求に純粋である事。


「死亡した男性についてはまだ調べがついていないからパスとして死亡推定時刻は死後硬直から計算してざっと今日の一時から二時の間。つまりはその時間皆元さんは彼に会い、殺した時間でもあるという事だ」


「だから私は―――」


「まあ良いから聞け、病人である皆元さんはその時間にどうにかして病院外に出て犯行に使う道具をバッグに詰め込み彼と会い、ジャックナイフで彼の意識を無くしたところでチェーンソーを使って首を切断。理由は知らんが切り離された頭部の代わりに石膏で作った猫の頭をきっちりとくっつけた後、ジャックナイフの中に入っていた砂を奥多摩湖に捨て、その中に彼の頭を入れて縛った後、バッグごと奥多摩湖に沈めてはい完了。ってとこかな」


(「なんだこの推理は!雑過ぎて根拠のこの字もない程の代物だ!」)


「うるせえ!刑事らしくやってみたかったんだよ!悪いか!」


 後頭部をはたかれて彼女のきつい目線がこちらに向けられていた。

 どうやら心の声が漏れてしまっていたようだ。

 推理小説ならクソ小説確定事項だが大丈夫。何故なら推理風だから!推理してる様な物語だから!


「そんなんで納得できるわけないでしょ!」


「そうか、じゃあ私達は帰るから」


「ちょっと待ってよ、ちゃんと説明しなさいよねえ!」


 彼女は皆元さんの言葉など聞かずに外に出ていった。


「すみません」


 僕も謝罪を述べた後に病室から出てドアを閉め、彼女が居る場所まで駆けていった。


「良いんですかあんな事して」


「良いんじゃないの?まあこの事件は一課のものにするつもりだから私には関係ないし、それに彼女、臓器提供待ちの患者さんだからあの部屋からはもう一歩も出れないだろうしね」


「ならなんで殺人なんてできたんですか」


 僕が疑問点を突いてみると


「それは今日が入院日だったから、八時ごろに受付した後、即入院。余命が差し迫った中での犯行だったってだけさ」


「そうなんですか」


 彼女は自身の言葉に付け足す様にして話した。


「彼女はあの殺人で彼を臓器提供者に仕立て上げようとしたんだろうね、人は死んでしまえば後は灰になるか土に埋もれるか命を助けるかの三つしか選択肢がないからな、まあ死後硬直が始まってから時間が経ちすぎてる上に彼は血液型がA型、彼女はAB型だから無駄な殺人だったがな」


「はあ・・・・・・」


 彼女の言葉に僕は何も言葉を返せなかった。

 自信を救うために愛する者を殺し、自信の身体の一部としてずっと生きていく。

 あまりに自分勝手すぎる犯人に僕は言葉がでなかった。


「そんじゃあ残りは一課と鑑識課と科捜研に任せて私らは帰るか」


「そうですね・・・・・・」


 チラリと僕の方を向いた彼女は足並みを僕に合わせながら聞いてきた。


「犯罪についてお前はどう思う」


「そりゃあ許せない事です。その中でも殺人は絶対に許せないものです」


「そうだな、でも私達はそれを止められはしない、何故なら刑事事件のほとんどは人が殺されてから動き始めるからだ。だからこそ殺した奴に罰を与える為に私らは必死で犯人を捜し捕まえるんだ。当たり前の様な事だけど大切な事だ」


「そうですね」


「故にお前は私を見て学べ、きたる日の為に何か役立つものがあるかもしれないからな」


「学べることなんてあるんでしょうか?」


「知らん、自分で見つけてみろ」


 まったく、勝手な人だ。


「そうします」


 少し落ち込んでいた気持ちが軽くなった気がした。


「そうだ。帰りにマナ寄って行こうか」


 彼女は僕にそう提案する。

 マナ、彼女が愛してやまない喫茶店で僕が豆を買い付けに行っている店でもある憩いの場。


「なら安吾警視監のおごりでお願いしますね」


「おうよ」


 病院を出た後に僕と彼女は覆面パトカーに乗り込み、喫茶店マナへ向かって行った。

 今回の事件、僕らにできる事は何もない、故に結果報告はまた次の回にという事にしておこう。

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ミステリアスシンドローム 柊木 渚 @mamiyaeiji

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