掌編 放課後の僕と彼女。

白原 文

放課後の僕と彼女

 放課後の教室。差し込む西日は心地よく、部活の喧騒がどこか遠くに感じられる。

 「ねえ、聞いてる?」

 「聞いてるよ」

 僕は彼女に視線を戻す。

 「嘘だ」彼女がつぶやく。

 「僕が好きって話でしょ?」

 彼女は少し驚いたように目を瞬かせ、「そうだよ」と満足そうに目を細めた。

 彼女はある日突然僕の前に姿を現し、僕を好きだと言った。その日から彼女は時々ここに顔を見せるようになった。だけど僕を好きって素振りを見せた事は一度だってない。

 「あ、猫」

 彼女の言葉に釣られて、窓の外に視線を移したその時───

 身を乗り出した彼女に視界を塞がれ、やわらかい感触が僕の唇に重なった。

 ゆっくりと唇の感触が消え、視界が戻る。

 「今のは指と唇、どっちでしょう?」

 夕日に頬を染めて、彼女は悪戯っぽく笑った。

 

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掌編 放課後の僕と彼女。 白原 文 @sirobara00729

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