第28話「エピローグ」

 あれから数日が経った。


 プキトル国の再建されていくのを見守る。

 まあ、再建と言ったって、プキトル城くらいだ。

 相手国の被害が少なく済んで良かった。

 けれどゼロではないし、日本だったら連日報道されてもおかしくないくらい、人は亡くなっている。

 戦争だからって納得しているつもりだけど、なかなかそう簡単に割り切れるもんじゃないね。


 目の前では、壁に手をかざす人が集まっている。

 俺は座って、干し芋をかじりながら、それを眺めていた。


 土魔法で外壁を作っていて、火魔法で乾燥させている。

 壊れた壁を撤去するツルハシとか、壁を支える鉄骨とか、そんなものは必要がなく。

 おおよそ魔法で造られていく。


 いいねえ。

 魔法が暮らしに息づいているねえ。


「あんたね……、顔が幼女誘拐犯だからやめなさいよ」

 いつの間にシェリーヌがいたのか、そう俺に声かける。

「顔が幼女誘拐犯って、どんな顔だよ」

 そもそも、やめなさいって、何をやめればいいんだ。

 顔はどうしようもないだろ顔は。


「再建現場を見て、ニヤニヤしているのが気持ち悪いのよ」

 おお、ニヤニヤしていたのか。

 そりゃそうだろ。

 こんな魔法と融合した建築技術を見たら、興奮しないほうがどうかしてるぜ!


「何しにきたんだよ。俺をののしりにきたのか?」

「違うわよ。逆よ」

「逆?」

 俺が意味が分からないでいると、シェリーヌは俺の隣に座った。

 なんだなんだ。気持ち悪いぞこいつ。


「ありがとう。あんたのおかげで、国を護れた。感謝してる。遅くなったけど、それが言いたくて」

「で、デレた! シェリーヌさんが俺にデレたやでえ! 怖!」

「怖、ってなによ! 感謝の言葉くらい、素直に受け取りなさいよ!」

 そうして俺は、シェリーヌの感謝の意とともに、わき腹に重いボディーブローを受け取ったのだった。

 女性が放つようなパンチじゃねえぞこれ……。




「お前ね……。感謝している相手に、なんで腹パンすんのよ……」

 しばらく悶絶したわ。

「あんたが悪い!」

 ほんとにこいつは、隊長のクセして間違いを認めないからほんとに。


「あああああ!」

 やたらでかい叫び声が聞こえる。

 この聞きなれた言葉は、あいつだな。


「止まらんですーーーー!」

 後ろから聞こえると思ったら、メルが荷台みたいなのに乗ってこちらに突っ込んでくる。

「あんたの弟子はあいかわらずね」

 シェリーヌがそう言って立ち上がり、手をかざす。

「おいおい、お手柔らかにな。死なすなよ」

「当たり前でしょ」


 メルは氷漬けになった。


「寒ぐで死にます……!」

 氷魔法アイスプリズンが解かれ、ガタガタ震えているメル。

「何やってんだお前は……。再建現場で、そんな速度でつっこんでいったらテロだと思われるだろ。せっかく和平したのに、また戦争になったらどうする」

「ずみまぜん……。ヒーロー殿から受け継いだ技術、1秒たりともムダにしたくないと思い、復興作業に役立つだろうと思い作ってみたのですが……」


 荷台にエンジンを取り付けたらしい。

 なるほど。軽トラか。

 飛空船でしかエンジンを見せてないのに、よくこの応用を考えたな。

 まあ、ハンドルもなければ、ブレーキもない。

 直進しかできねーじゃねーか!


「全然止まりまぜんでじだあああ……」

 さめざめと泣くメル。

 当たり前なんだが……。

 魔法を止めれば、軽トラも止まると思っていたらしい。

 慣性の法則を知らないのか。

 ブレーキという概念がなさそうな性格してるからなこいつは。


「まあ気にするな。飛空船だって散々失敗してただろうが。お前はこの国の人を少しでも救おうとしたんだろ? その気持ちを忘れない限り、きっと成功する。自分を信じろ」

 俺がそう言うと、メルは涙をボロボロ流し、鼻水が大洪水した。

 わーお。ハナミズキ。

「ヒーロおお殿おおおおお!!!」

「わ! ばか! 鼻水たらしながら、俺に抱き着くな! やめ! やめろおおおお!」

 メルの鼻水が俺の服に大津波した。




「にぎやかな子ね」

 シェリーヌが言う。

「近所のおばさんが、よその子のことをそんなふうに良く言うよな」

「誰がおばさんだ!」

「お前がそうだとは言ってないだろ!」

 二度目のブローをくらった。


「あんな戦争のあとでも、ああやって前を向いている。強いなあ」

 シェリーヌが何事もなかったように言葉を続ける。

「ノンブレーキで突っ込みすぎるところあるからな」

 二度の被害を受けたわき腹をさすりながら、そう返す。


「うらやましいな。私も迷ってないで、前を向けたらいいのに」

 なにやら落ち込んでいるらしい。

 あの日なのだろうか。


「逆に、メルはお前をうらやましがってるぞ」

「そうなの?」

「そうなのって、お前。隊長様じゃないか。お前を慕う部下もいるし、王子のお気に入りだ。孤児だったメルにとって、まぶしい存在なんだよお前は」


「そうだそうだ。俺のお気に入りは、ノンブレーキで突っ込むやつでもなければ、王みたいに脳内お花畑でもない、慎重で、悩んで、考えて、しっかりした判断を出してくれる、お前だ、シェリーヌ」

 ミグラスだ。

 馬で来てたようだが、全然気づかなかった。


「久方ぶりだな、二人とも」

 王が後ろにいた。

 馬車の御者台ぎゃしゃだいから、王が顔を出す。

 

「王様! 王子!」

 シェリーヌが立ち上がり、叫ぶ。

「弱音など、大変失礼しました!」

 誰だって、プライベートでは弱音くらい吐くだろうに。

 王なんて、俺からしたらただの気のいいおじさんなんだが、シェリーヌにとっては緊張するらしい。


「今は平時へいじなんだ。いいじゃないか、弱音くらい。肩の力を抜けよ」

 ミグラスが馬から降り、王も御者台から降りた。

 シェリーヌに、立て!と言われて腕を引っ張り上げられる。

 優しくしろや!


「いやあ、俺の前では鉄仮面でお説教しか言わないシェリーヌが、ヒーローの前では弱音を打ち明けるんだなあ。これは尊いものを聞かせていただきました」

 ミグラスが手を合わせる。

「やめてください!」

「ごふっ!」

 なぜ、俺に3度目のブローが……。

 今回はどう考えてもミグラスだろ!

 俺のわき腹のHPはもうゼロよ!


「私は弱音なんか吐いてません! 独り言です! 小石に向かって独り言を言っていただけです!」

 俺は小石かよ。

 ははははは、と愉快そうに笑う王子。

 ほんとに愉快犯だからこいつはほんとに。


「王様がここに来るとは聞いていませんでしたが、何かあったんですか? 和平を結んだとはいえ、まだ納得していない兵から、何をされるか分かりませんよ。あまり気軽にこちらに顔を出されては……」


「そなたたちに褒賞を授けようと思ってな」

 シェリーヌの言葉に、王がそう答える。

「え? 私たちにですか?」

「他に誰がいる」

「は! 恐れ多いことにございます!」

 シェリーヌがひざをつき、こうべを垂れながらそう言う。

 俺もそうしたほうがいいやつ?


「そんな私たちのために、わざわざこんなところまで……、伝言でも良かったですのに」

「今のラピュンとプキトルがあるのは、そなたたちのおかげだ。少しでも感謝の意を示したいと思ってな」

 ほんとに気のいいおじさんだな。

 嫌いじゃない。


王は懐から丸められた大層な紙を取り出し、広げた。


『ヒーロー殿、シェリーヌ殿、こたびの戦争での活躍、大儀であった。今回の和平は、二国にとって、大きな意味をもつだろう。この大金星をあげた両名に、心から栄誉をたたえたい。よって、褒賞としてヒーロー殿に、紫綬褒章を授与し、国家技術者の長官に任命する。シェリーヌ殿には、ガバク城とその一帯の統治権を認める』


「というわけだ。大躍進だな!」

 王が文面を読み上げたあと、ミグラスが俺らの肩をたたいてそう言う。


「私が……、一国一城の主……!」

 シェリーヌが目を見開いて、震えている。

「そんなに私を評価していただけるなんて」


「良かったな」

 ミグラスがシェリーヌの頭をなでる。

「まあお前なら、これくらい当然だろ。胸を張れよ。ちなみに、正式な授与式は3日後だ。明後日には城に帰って来いよ」


「恐れながら申し上げます! その褒賞、受け取れません!」

シェリーヌが言う。

一瞬、沈黙が流れた。

再建現場からの喧騒だけが聞こえてくる。


「なぜだ? 十分な褒賞を用意したつもりだったのだが」

 少し遅れてから、王がそう聞き返す。

「そうだぞ。城を任せられるなんて名誉、なかなかない。受け取っておけよ」

 王子もそう同調する。


「私は、ミグラス王子のもとで軍人をしているほうが好きなんです。それ以上の名誉も権威も、私には必要ありません」

 シェリーヌがそう言いきる。


 王子は、少し慌てたように、

「こんなことめったにないことだぞ。お前は、俺の下にいるだけじゃもったいない。それに、今の生活よりだいぶいい暮らしができるぞ。お前が欲しがっている鎧も剣も買い放題だ。アクセサリーもドレスも買ったらいい。似合うぞ」

 そうシェリーヌを説得する。


「前半の言葉だけ、受け取っておきますね。アクセサリーもドレスはいりませんし、鎧も剣はちょっと魅力的ですが、護るべき王子がないのにほしいとは思いませんから」

 シェリーヌの言葉に、一切の迷いがなかった。


「それとも、私が部下では、不満でしたか?」

 シェリーヌが殊勝にもそんなことを言う。

「いや」

 シェリーヌの言葉に、ミグラスは照れくさそうにほほをかく。

「俺は良い部下を持ったな」


「そうだな。俺も行かないわ」

 俺もそう言う。

 どう考えても、俺にメリットがない。

 断る一択だな。


「いや、あんたは行きなさいよ!」

 さっきまで神妙だったシェリーヌがのたまい始める。

「なんでだよ!」

「紫綬褒章よ! こんな名誉な賞、あんたが何度輪廻りんねしたって、もらえるもんじゃないんだから!」


「なんで自分のこと棚に上げて、ものが言えるんだよ! いらねーよ! 俺は王子の下で、好き勝手やって暮らしたいんだ! 魔法の練習だってしたいのに、国のお抱えなんて、窮屈なことやってられるか! だいいち、ダンジョン行くのに、お前が護衛してくれなくて誰がやるんだよ!」

「この王子の寄生虫! 四の五の言ってないで、さっさとどっかへ行け!」

「その言葉、そっくりお前に返す!」


「はっはっはっは」

 そんな俺とシェリーヌを見て、王が笑った。

「本当に、愚息にはもったいない者たちだ。ヒーロー殿、シェリーヌ殿。改めてお礼を言う。そしてどうかこれからも、この国と愚息のこと、よろしく頼む」


 王は帰っていった。

 ミグラスは残った。


「いや、お前は王と一緒に行かなくて良かったのかよ」

 俺がそうミグラスにつっこむと、

「別に俺は王の護衛できたわけじゃない。お前らに会いたいから来たんだ」

「そうなん」

 ミグラスはヒマなのかしらん。


「国からの褒賞を断るなんて、だいぶ思い切ったことやったな」

 ミグラスがそうシェリーヌに言うと、

「正直、緊張で死ぬかと思いました。心臓から魂抜けるかと」

 シェリーヌの顔が青白くなってた。

 そんな勇気を出して言った言葉だったのか。


「事前に言ってくださいよ」

 うらめしそうに、シェリーヌが王子に言う。

「サプライズプレゼントのつもりだったんだがな。断られるとは思わなかったぜ。さすがシェリーヌ」

 ミグラスは笑いながらそう答える。

 シェリーヌはため息をつく。


「昔の私なら、受けてたと思います。国の意向に沿うのが軍人としての使命だって思ってましたから」

「ああ、そうだな。だから、意外だった……、そうか。こいつの影響だな?」

 俺を親指で指差す。

 ん、俺?

「ん、まあ、そうなんですけどね」

 シェリーヌは、苦虫をつぶしたような顔で答える。

 なんでそんな表情になるん。


「なんだか、こいつ見てたら、そんなに重々しく考えることじゃないというか、もっと、自分の信念や考えを大切にしていのかなと」

 シェリーヌの言葉に、ミグラスが笑う。

「そうだな。俺もそう思う。堅物のお前が変わるとはね。やっぱり、お前にとって、ヒーローは大きい存在なんだな。けるね」

「違いますから!」

「ごふっ!」

 なぜ、お前は執拗にわき腹を攻める!?

 ボクサーか? ボクサーなのか!?


「ヒーロー、改めて礼を言う。ありがとな。心の底から感謝しているよ。俺たちと、俺たちの国を救ってくれて。お前に会えて良かった。お前は本当にヒーローだな」

 ミグラスが俺の肩を抱きながらそう言う。


「なんだか、別れみたいな言葉だな。俺はさっき言ったとおり、ミグラスのところで今までどおり、好き勝手やらせてもらうんだからな」

「分かってる分かってる」

 笑いながら俺の肩をたたく。


「感謝の言葉は、なるべく言っておかないと、言いそびれちゃうだろ。言い過ぎるってこともないしな。期待してるぞヒーロー。これからも俺のもとで、好き勝手やってくれ!」

 ミグラスがそう言って、拳を突き出す。

 これ、ミグラスが出兵する前にやったやつだ。

 俺も拳をつきあわせる。


「じゃあ、俺もそろそろ行くわ。あんまり父上とその側近だけだと、何を言い出すか分からないからな」

「なんだかんだ、お前、父親のこと好きよな」

「やめてくれよ! ……まあ、嫌いではないがな。やっぱり父上の政治理念と俺の考え方は合わないが、まあ、学ぶことはある。どうせ兄貴が王になるだろうが、兄貴がふがいないことをしないように、俺がしっかりしなくちゃいけないしな」

 じゃあな、と言い残して、ミグラスは馬を走らせた。


「忙しいやっちゃ」

 俺がそうつぶやくと、

「当たり前でしょ! 王族は忙しいの。だから私たちは、少しでも楽になるように自分の仕事をまっとうするのよ。あんたもね」

シェリーヌは、笑ってそう言った。




「ハカセ! ちょうちょ! ちょうちょいる!」

 ネネが突如、俺の所に帰還したかと思えば、そんな報告だけを残して、またお出かけになった。


「ネネちゃんも来てたんだ!」

 驚いたように、シェリーヌが言う。

「置いていきたいんだけど、泣いてうるさくてな」

「目を離しちゃダメしょ! ネネちゃんに何があったらどうするの!」

「おかんみたいなこと言うなお前」

「私は独身よ!」

「ごふっ! 知ってるがな!」

 そろそろ破裂するんじゃないか、俺の脇腹!




「ネネちゃんはえらいね」

 シェリーヌが、そう言葉を漏らす。

「何が?」

「私はね、全然許せないんだよね……。頭では分かってるんだけど。お母さんの声を思い出しちゃって、こいつらさえいなければって思っちゃう。でもさ、ネネちゃんは、あんなつらい死に目にあったのに、憎むどころか、命を救っちゃうんだもん」

 かなわないよなぁ、とシェリーヌは言った。


「かなわなくたって、別にいいだろ。なんで張り合うんだ。お前はお前の考え方とやり方があるんだから。それで、今まで何人もの命を守ってきたんだろ。隊長さん」

 シェリーヌが驚いた顔でこちらに向いた。

「なんかこいつ、普通に私のこと慰めにきてる! 怖!」

「お前も素直に言葉を受け取れや!」


「ハカセー!」

 ネネが何かを抱えながら、走ってくる。

 声の調子が、何やらひっ迫している。

「何があった?」

 あわててそう聞き返す。


「ワンちゃんが! ワンちゃんが!」

 ネネが抱えたのは犬だった。

 ひどい。

 下半身が押しつぶされて、虫の息だ。


「これはひどいわね……」

 シェリーヌの言葉から、もう助からないだろうというニュアンスを感じ取れる。

 俺も前ならそう思うほどのケガだ。

 でも今は違う。


「ネネ、俺が教えてる回復魔法、使うぞ」

「うん! はやく! 」

 ネネが焦った様子で、犬を差し出してくる。

「いや、ネネがやるんだ」

 その言葉にネネが固まる。


「ネネが!? ハカセやって! ワンちゃん死んじゃう!」

 ネネは涙をためて、俺にそう訴える。

 俺がプキトル王に使った、内臓すらも蘇生させる魔法を、ネネに教えている。

 ネネはまだ、自分には使えないと思っている。


「ネネ、いつまでも俺に頼っちゃダメだ。お母さんみたいな人をいっぱい救いたいんだろ? できないのなんて、みんな一緒だ。だけど、やらなきゃ、誰一人救えないぞ。だいじょうぶだ。俺が支援する」

 ネネは困った顔をしたが、犬を見つめ、顔をあげた。

 その顔は、泣きそうな目を隠し切れないまでも、きっと唇を結んで、決意をした顔をしている。

「良い顔だ。それでこそ、俺の助手だ」


 犬を柔らかいところに、寝かせる。

「ひーる!」

 ネネのヒールが、犬に循環し始める。

「思い出せ、ネネ。犬も人も、構造はだいたい一緒だ。イメージしろ。すべてのものに血管は行き届いている。そこを伝って、内臓の細胞にうったえかけろ。生物には、自分を治す能力がある。それを活性化するんだ。内臓をあるべき姿に戻すんだ」

 説明しながら、俺もヒールをかける。

「うん!」

 ネネは真剣に答える。

 

 血管が緑色に光り始め、内臓が光に包まれていく。


「すごい……」

 見守るシェリーヌが、そう言葉を漏らす。


 徐々に内臓が、骨が、皮が再生していく。

 やがて、犬は目を開いて、ワンと鳴いた。


「やったな! ネネ!」

「うん!」

 やっぱり、ネネは満面の笑顔を浮かべながら、涙と鼻水を大洪水させていた。




 ネネは、ワンちゃんのお布団探しに出かけていった。


「すごいわね、あんたの回復魔法。臓器まで再生するなんて」

 シェリーヌが言う。

「まあな、俺は魔法博士だからな!」

「本当にそうね。あんたって、本当に魔法博士だったのね」


「げええ! シェリーヌが素直だ! 怖!」

「あんたというやつは! 殴られたいの!?」

「ごふっ!」

 もう殴ってるから!

 わき腹殴ってるから!


「不思議ね。こんな魔法がみんな使えたら、きっとネネちゃんや私みたいな人がいなくなるのにね」

 シェリーヌは寂しそうに言う。

「みんな使えるようになるさ。いや、俺がそうする。一部の人しか使えない魔法なんて、俺に言わせれば、魔法じゃないね!」

「攻撃魔法しか使えない、私にも使えるかな?」


「ああ、もちろんだ。魔力量がカスの俺でも、幼いネネにだって使えるんだ。お前に使えないわけないだろ。ただ体の構造に沿ってイメージを重ねればいいんだよ。できなくても、だいじょうぶ。俺がお前に教える」

「それは、嬉しいわね」

「そしたら、お前は俺の第3助手だな」

「それは嫌」




 シェリーヌは、ネネが布団探しにあんまり遠くに行くから、心配になって追いかけて行った。

 なぜ母性に目覚めているんだ。婚期を逃すぞ。

「ハカセー!」

 ネネが遠くで、ぴょんぴょん飛び跳ねながら手を振っている。


 手を振り返す。

 ネネは、俺に魔法を教えてくれた。

 あの回復魔法も、あの風魔法も、ネネのおかげでできたようなもんだ。

 風魔法は、ネネを救いたい一心だった。

 回復魔法も、ネネのあの行動に心揺さぶられた。


 俺が追い求めていた魔法って、本当はあいつの心の中にこそ、あるのかもしれない。


 ふと隣に視線をうつすと、友達が立っていた。

 笑ってる。

 こんな顔、久しぶりに見たな。


 魔法を使えて、うれしいのかな。

 魔法はあいつの夢だったけど、同時に俺の夢でもあったから。


 でも、こんなもんじゃないぜ。

 まだまだ魔力も魔力量もあがるし、技のレパートリーも増えるだろ。

 なにより、試したいアイディアが山のようにあるんだ。


「俺たちの冒険はまだまだ始まったばかりだ」

 なあ、そうだろ?

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令和元年、晴れ、魔法が使えるようになる。 脇役C @wakic

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