第25話「合流」

 味方から攻撃されないように、自軍のかなり後ろのほうに着陸した。

 まあ、なんとかうまく行って良かった。

 さすがに死んだかと思ったが、なんとかなった。

 メルの機転のおかげだ。

 金属魔法で避雷針を造り、それを術士につなぐとか、発想が最高だな!


 ハッチを開ける。

 燃焼ガスや油の臭いのない、新鮮な空気が入り込んできた。

 ハッチから顔を出すと、数騎、こちらに向かってくるのが見えた。


「ヒーロー! やってくれたな!」

 ミグラスだった。

 喜色満面きしょくまんめんとはこのことか。


「まあ、これくらい当然だな。なんたって俺は、魔法博士だからな!」

 ハッチから降りて、ミグラスに声をかける。

「そうだな! ははは! さすがは魔法博士だ!」

 馬から降りたミグラスは、笑いながら俺を抱きしめ背中をたたく。


「それより、王子様がこんなところに来ていいのか?」

 戦いは続いているようなので、聞いてみる。

「お前のおかげで、この場は消化試合みたいなもんだ。他の隊長もいるし、だいじょうぶだろう。それより殊勲しゅくんをあげたお前を出迎えるのが大事だな!」

「ほほう。そうかねそうかね」

 この王子は俺の偉大さを良く理解しているな。


「まあ、俺が来たからには勝利は約束されたも同然。大船に乗った気持ちでいてくれたまえ」

「調子に乗るんじゃないわよ」

 シェリーヌがボディブローをかましてくる。

 そろそろ調子に乗っても許されるだろ!


「その者たちか」

 威厳のある低い声が聞こえて顔を上げる。

 大きな馬に乗った大男がいる。

 誰?


「王!」

 シェリーヌたちが、一斉にひざまづく。

 ほーん。こいつが王か。

 サンタクロースみたいなヒゲしてんな。

「おう、あんたが王か。苦しゅうないぞ」

「ひざまづけ!」

 シェリーヌから足払いをかけられる。

 ケツが地面にダイビングした。

 お前は言葉だけで伝えられんのか!


「良い」

 王は馬上から降りる。

「ミグラスから聞いている。こたびは大殊勲であった。まだ戦は続いている。どうか今後も力を貸していただきたい」


 おお。この王、やっぱり人が好さそうだな。

 この時代ではなかなか生きづらそうだ。

 まあ俺は嫌いじゃない。


「まあ乗りかかった舟だ。ミグラスには世話になっているし、力を貸そうじゃないか」

 シェリーヌを見ると、唇を引きつらせながら静かにひざまついている。

 さすがに王の前ではツッコミもままなるまい。ざまあ。


 王はにっこりと笑った。

「異国の者はおもしろいな。戦場にて、その落ち着き。見習いたいものだ。その技術や文化もな。この戦争のあとにでも、余にも話を聞かせてくれ」

 戦争が終わったあととか、なんだか死亡フラグみたいなセリフだな。


「すぐに話をするさ。さっさとこんな戦争を終わらせよう」

「そう願いたいものだな」

 王は苦笑いをする。

「いや、終わらせるんだ。俺は言ったことは何とか帳尻合わせても守る主義でね。これからのザ☆最終作戦で、この戦争は終わる」


「最終作戦? そんなの聞いてないわよ?」

 黙っていられなかったらしく、シェリーヌが口を挟んでくる。

「今思いついた」

「適当すぎでしょ!」


「いや、ここまで上手くいくとは思ってなかったからな。機体はまだまだ動く。なら、有効利用すべきだろ」

「上手くいっている……? 死にかけたのに……?」

「敵の攻撃は想定の範囲内だろうが。しのいだうえに、飛行できるなんて御の字だろう? この戦争に命を賭けてるんじゃなかったのか?」

 そう言われて、シェリーヌは言葉を飲み込む。


「何をする気だ?」

 ミグラスが聞いてくる。

「本丸を叩く。プキトル国の中枢を攻めるぞ」

 一瞬、あたりが静まり返る。


「バカじゃないの!? それができたら苦労しない! 本丸はまだまだ先よ。そこまでにどれだけの兵が控えていると思っているの!?」

 遅れてシェリーヌのツッコミが入る。

 やっぱり、王の前だろうとツッコミを忘れたらあかん。


「おいおい。俺たちが何に乗って来たのか忘れたのか? それらを一瞬でクリアできるだろ」

「無理よ! 城には強固な結界が張られてる! それに、敵国の近衛隊が黙っていない! この船に乗れる人数でどうにかできる所じゃない!」


「残念だが、今回はシェリーヌの言うことがもっともだな」

 ミグラスがそう言う。

「お前と、お前の兵器は、この国の宝だ。無謀な賭けで失いたくない」

「無謀の賭け、ね」


 そうかもしれない。

 今回の成功でもだいぶ、味方を優勢にした。

 あとは本体を加勢しつつ、冒険をしないで着実に攻めるべきなのかもしれない。

 でも、できるかもしれない。

 どうにか戦争を早く終わらせられたら、無駄な犠牲を生まなくて済む。


「本丸を叩けば、戦争は終わる。今は、兵が前線に持ってかれて、城にいる兵は少なくなっているはず。どう考えたって、やってみる価値はあるだろ。それに、結界はなんとかなるだろ。俺とお前とメルとネネ、そしてミグラスがいる」


「それって、なんとかなるの?」

 シェリーヌが怪訝な顔をして聞いてくる。

「俺はお前を信じている」

「人任せかよ!」

 シェリーヌが叫ぶ。

 もう少し自分に自信を持ってもらいたいね。


「結界とか言っても、きっと解除魔法とかあるんだろ? もったいぶってないで俺に見せろ!」

「私がそんなに器用に見える? 攻撃魔法くらいしか使えないわよ!」

「お前にはガッカリだよ」

「なら、自分でやれよ!」


「結界魔法が使える部隊はいるが、向こうの結界を破るのに、10人ほどは必要だ。この舟に乗りきれるのか?」

 王がそう言ってくる。

 意外と王は乗り気だな。

 結界魔法使いを貸してもいいってことか。

 しかし、この舟に、動力部隊+10人は厳しい。


「しょうがない。やっぱりあれしかないか」

「どうするの?」

 シェリーヌが聞いてくる。

「だいたい分かるだろ? さっきの戦いでメルが教えてくれたんだから」

「わたすですか!」

 メルが驚いて返事をする。


「そうだ。お前がさっき雷を誘導したときに建てた避雷針、結界の空いている隙をついたんだろ。同じことすればいい」

「それは無理よ」

 シェリーヌが口をはさんでくる。

「兵は結界の外で戦うもの。だから、結界はずっと閉じたままよ。さっきのように、防御しつつ攻撃していた状況とは違う」

 そりゃ、そうなるか。


「でも行けるだろ。ちょっと考え方を変えればな。マジカはずっと使えば魔法量がなくなる。四六時中、結界を張るようなそんなムダなことはしないだろ?」

「……相手が反応して結界を張る前に、侵入するってこと?」

「そうなるね」

 シェリーヌは俺の言葉に、こめかみを押さえた。


「どんな速度で相手の城に乗り込むつもりよ」

「全速力で突っ込んだらいけるだろ」

「私たちが死ぬわよ!」

「大丈夫だ。俺を信じろ!」

「無理!」


 突っ込む前に、飛行機から降りれば死ぬことはないだろ。

 重力魔法もあるし。

 自分の体を持ち上げるくらいなら、俺でもなんとかなる。

 ふふふ。

 自分の体を持ち上げるくらい、か。

 俺の成長速度はすさまじいな。

 この勢いだと、この星を持ち上げかねんな!


「なんてな。そんな不作法なマネ、俺がやるわけないだろ」

 本当かよ、という顔をシェリーヌが俺に向けてくる。

 俺の才能を際立たせる、良いリアクションだ。


「まあ、聞けよ。これからの作戦は、きっとこの国の歴史に残る」

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