第13話「実験すんぞ」
ベッドに向かうと、ネネは大の字にだらしなく手足を広げ、クププと寝息を立てているのが、ろうそくの炎の影に揺れて見えた。
わんぱくでもいい、たくましく育ってほしい。
明日のことを考える。
今さら回復魔法をつかえたところで、こいつの親は帰ってこない。
でもネネがケガしたときくらい、手当できるようにしとかないとな。
ベッドの枠の突起に引っかけて吊してあるバケツに砂を注いで、手のひらに炎をともす。
バケツに開いた穴から、さらさらと砂が落ちる音が聞こえる。
ベッドの上に腰掛け、じっと手のひらを見つめた。
どこからの風なのか、ゆらりとオレンジ色の炎が揺れる。
寝れば、魔力が回復するらしい。
早めに寝て、万全の体制で臨みたい。が。
調べておきたいことがある。
それは、どれくらいの時間で魔力が全快するか、だ。
明日に魔物狩りをしたとして、俺の魔力はすぐ枯渇するだろう。
じゃあまた明日、じゃ、いくらなんでも効率が悪すぎる。
どうにかして、魔力回復できないか。
3時間程度で済むなら、仮眠で済む。
8時間だとしても、朝と夜で2回鍛錬ができる。
俺の雀の涙な魔力なら、短時間で回復できるだろうか?
寝る時間帯や温度などの環境要因で変わるんだろうか?
睡眠の質で変わるんだろうか?
何もかも未知数だ。
「データ取りたいな……」
分析して、最適な魔力回復方法を導きたい。
そんで、最短で魔法がいっぱい使えるようになりたい……。
いろいろ調べたいことはあるが、今一番必要なのは、魔力が全快する睡眠時間だ。
必要なデータは、次の2つ。
(1)魔力を使い切るまでの時間と、(2)睡眠時間と魔力回復量の関係性だ
そのデータを取るためには、2つ条件が欠けている。
1つめは魔力の測定方法。
2つめに時間の測定方法。
1つめの魔力の測定方法は、こうして今、火を灯し続けているのがそうだ。
本当なら魔力が見えるのが一番だが、俺には見えない。
王子の話によれば、魔力量をあげられれば見えるかもだが、いつになるかも分からない。
そんな悠長に待ってられない。
だから、火を発生させて、それがどれくらいの時間で消えるか、時間を計っている。
今日は魔力を使っていないはずだから、その時間が俺の魔力量(基準値)となる。
この方法には、難がある。
今日、魔力を使っていないと思っているだけで、生活していて消費しているのかもしれない=基準値が明確でない。
炎の大きさを一定にするように心がけているが、一定の魔力消費量とは限らない=再現性がない。
とはいえ、これ以外によい方法も見つからない。
わずかな誤差であることを願うばかりだ。
2つめの時間測定は、砂時計を使うことにした。
この世界は日時計だ。
太陽とともに起き、日が沈めば、ろうそくや火魔法のぶんだけ夜更かしをして寝るという健康的な生活をしている。
つまり、機械時計みたいなしゃれおつなものは存在しない。
よし、砂時計作ろう。
というわけで、できたものがこちら。
材料は、調理室からもらった、バケツが3つ。
そして、ひも、さらさらの砂、板、丸棒、という簡単なもの。
このバケツには取っ手がないので、ひもを通すための穴を王子に頼んだ。
指で触っただけで、金属が液体になった。
金属の魔法だという。
この世界では金属原子も魔法で動かせるらしい。
これ、応用したらとてつもなく恐ろしいことできんじゃないか?
それこそ、原子爆弾みたいな。
楽しみがまた増えたな。
その穴にヒモを通して、ベッドの枠の部分の突起に引っかける。
要は宙に浮いていればいい。
そのバケツに、適当な量の砂を注ぐ。
径5mm程度の穴が開けてある。
ここから砂が落ちていく。
もう一つのバケツは、ただの砂受けだ。
水時計も考えたが、よく考えたら、蒸発するし、バケツが腐食してしまう。
こうやって使う砂を増やしていって、どれくらいの砂の量で魔力が全快するかが分かれば、これからの睡眠時間と仮眠時間を決定することができる。
問題は、砂が落ちきったときに起きれるかどうかだ。
アラーム機能が切に欲しい。
ネネに起こしてもらうという考えもあったが、寝た子を起こしたうえに俺を起こすために起き続けさすのは、さすがにかわいそうだ。
というわけで、もうひとつのバケツをつかう。
便宜上、こいつをバケツ3と名付けることとする。
板に、このバケツ3と砂受けのバケツを、両端にそれぞれ縛り付けて固定する。
バケツ3に、砂時計に使う量と同じ砂より、やや少なめの量を入れる。
その板の中心に、丸棒を置く。
これでバケツのシーソーができる。
最初は、バケツ3が砂の重みで地面に接しているが、砂受けの量がいっぱいになれば、砂受けバケツに重心が傾き、砂受けバケツが地面に接する。
その砂受けバケツの下に、俺の頭がくるようにして寝る。
時間になれば、砂受けバケツが俺の頭に直撃するって寸法さ!
さっそく制作し、試運転する。
丸棒がずれるので、板にナイフでくぼみを削る。
砂がつまって落ちないので、もう5mm穴を大きくする。
衝撃を大きくするために、丸棒の下にいすを置き、結構な高さから落下するようにする。
なかなかに痛いなこれ。
物理的なアラーム機能、完成。
というわけで今、もう一組、別に砂時計を作って、魔力量を測定しているというわけだ。
やがて、手のひらの炎は消えた。
すぐに砂受け用のバケツを離す。
吊したバケツの砂は、睡眠時間のバケツに移した。
ふう、と一息もらす。
ふと見ると、1cmくらいの細めのろうそくは、5cmほど無くなっていた。
視線をバケツに戻す。
砂が暗がりに、ろうそくの淡い光を反射した。
ここに入っているのが、俺の魔力量の時間だ。
ただの砂だが、宝物のように見える。
これからこれがどう増えていくのか、楽しみでしかたがない。
これを増やす前に、この実験を終わらせないといけないがね。
さて、実験スタートだ。
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