第12話「見える魔力」

「見えるか?」


 王子は両手を広げた状態で、そう聞いた。

 深い青色の瞳にヒゲづら、おまけに白い服だから、大聖堂の十字架にはりつけにされたキリスト像を思い出した。

 しかし、何を見ればいいんだ?

 俺の姿を見ろぉぉぉってことなのか?


「見えないか。そうだろうと思ったよ。じゃあ、こうしよう」

 王子はそう言って、手を下ろして俺の手をつかみ、手のひらを握る。

「自分の手のひら、見とけよ」

 なんのことかと思って手のひらを見ると、金色の糸みたいなのが出ていた。


 え、やばい。

 めっちゃきれい。

 ある映画のクライマックスを思い出した。

 決意を秘めた女王様の横顔が、金色の草原に映える。そんな映画を。


「これ、なんの魔法だ!?」

 驚いてそう言うと、

「これが魔力だよ。見たかったろ?」

「めっちゃきれいじゃん! 俺の魔力って才能あふれてんじゃね!?」

「そうだろ? 俺の魔力だからな」

「お前かよ!」

 ぬか喜びさせやがって……。


「じゃあ、俺の魔力はどこなんだよ」

 そう尋ねると、

「少なさ過ぎて探すの面倒」

「そんなレベル!?」

 俺の初期ステ低すぎだと思ってたけど!

 見つからないレベルかよ!


「まあ、そんな顔するな。最初はそんなもんだ。俺は違うけどな!」

 自慢かよ!


「で、なんで俺があんたの魔力が見えるようになったんだ? それと回復魔法が使えなかったことに、何か関係あるのか?」

「魔力が見えるようになったのは、俺の魔力が見せられるようにお前の魔力に同調させたんだよ。まあ、自分の魔力を探すのは、しばらくは諦めろ。俺でも探すのが難しいんだから、お前にはムリ。で、回復魔法が使えなかったことだが……」


 王子が俺の目をじっと見つめる。

「これからお前に回復魔法をかける。魔力がどう変化するか見とけ」

 おお、それは興味深い。

 魔力があれだけの多種多様で美しい魔法にどう変化するのか。

 ぜひ知りたかった。


「ヒール」

 王子がそういうと、金色の魔力が俺の手のひらに入り込んで、手のひらの細胞が淡い緑に発色し始めた。

 手のひらじゃない。その中の血管だ。

 手のひらの毛細血管が、緑の発色塗料を染みこませた細い糸がからまったかのように、光を発している。


 そうか。


「何か、分かったようだな」

「体に流すイメージと、体に流せるほどの魔力量だな」

 両方、俺には足りなかった。

「それだけだと60点くらいだな」

「残りの40点は?」


「まずは、魔力の枯渇だ。そして、タイミングと、相手への同調だ」

「どういうことだ? くわしく」

「使える魔力量は決まってる。聞くところによると、モンスターと戦ったんだろ? そこで使い果たしてるだろうな」

 ガス欠してたのか……。


「残りの2つは、まあ、そのうちな。まずは魔力がないと話にならない。今日はもう寝ろ。明日行くんだろ? 魔物狩り」

「いや、寝てるヒマも惜しい。いろいろと試したいんだ」

「いや、寝ろ。魔力の回復は睡眠によってなされるからな」

「なんだと! じゃあ寝るわ!」

「気持ちいいほどはっきりしてんな」

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