第8話「助手」

 この街灯が魔物を呼び寄せていたことが発覚した。

 街灯に魔力を補充する際、魔導石と反応して神秘的で芸術的な魔力を発生する。

 魔物は人の魔力に反応している。

 たまたま近くを通りかかったサラマンダーとか言うA級?モンスターが反応してしまったのが、この村の命運を決めてしまった。


 この街灯は、プキトルとかいう国から輸入している。


「今すぐ! この事実を村に伝達するわよ! デヒキ隊はアイシクルエリアへ! ベンカ隊は-」

 女王が素早く指示を出していく。

「あなたは街灯の撤去よ! 早く!」

「待て! 女王よ! そしてその他の部隊も! 街灯は重要なインフラだろ? そう簡単に奪う決断をしちゃいけないだろ」

「そんな悠長なこと言っているヒマはない! こうしている間に救われる命があるかもしれないのよ!」

「女王よ、一つ確認したいんだが、街灯は城でも使われているんだろ?」

「そうよ」

「城壁に囲まれているのか?」

「もちろんよ。それが何か?」

 明らかに女王はイライラしているな。

「城では比較にならないくらい街灯が使われてると推測するが、モンスターは頻繁はやってくるのか?」

「やってきたとしても、見張りの兵がすぐ返り討ちにしているから分からないわよ。けど、モンスターの大群で押し寄せてきたってきたって話題はなかったわね」

「やっぱりそうか」

「また、推理ごっこ? 結論を言ってくんない? 人命がかかってるのよ!?」

「おそらく、何か遮蔽物(しゃへいぶつ)があれば、モンスターは気づかない。おそらくプキトル国は、補充時は、何かで覆っているか、もしくは屋内で補充しているはずだ」

「……! デヒキ、街灯を一本持ってきて! ベンカは土の小屋を建てて!」


 すぐに実験は行われた。

 このフットワークの軽さは女王のいいところだな。


 結果、モンスター達は反応しなかった。


「伝言の内容を変えるわよ! 街灯の補充はくれぐれも屋内でおこなうこと! これを徹底するように伝えて! 守らなければモンスターの餌食になると!」

 伝者が散っていった。

 四方へ、そして城へ。


 ただの不運な事故だ、とプキトル国は言うだろうな。

 だって証拠がない。

 街灯に仕組まれたものではなく、補充するときに偶然魔力を発生してしまっただけだから。

 それは知らなかった、と言えばそれが通る。


「ぷきとる国が、お母さんとお父さんをころした」

 ネネが目を見開きながら、そうつぶやいた。

「ころした」

 ネネから目がこぼれ落ちた。

 まばたきをせず、大きな黒い瞳が黒々としているように見える。

 思わず目をそらしてしまった。

 かける言葉が見つからない。

 犯人を捜し当ててしまって、良かったのだろうか。

 ネネは、恨みを一生抱えたまま生きていくのだろうか。。


 さっと人影が目の前を通り過ぎた。

 女王だった。

 女王はネネに駆け寄り、抱きしめた。

「この仇は命に代えても!このシェリーヌがとる!」

 ネネは驚いた顔をした。

 さっきまでの無機質な人形のような表情から、人間らしい顔に戻ったような気がした。

 何か言葉を発したいのか、口が震えていた。

「ありがとう」

 やっとそう言えて、泣き出した。

 ギャン泣きだった。


 何もできなかった自分が恥ずかしくなった。

 ネネはずっと泣きたかったんだ。

 そうか、抱きしめれば良かったのか。

「ありがとう女王さん」

 ネネは何回も感謝の言葉を述べた。

 女王は、わたし女王じゃないんだけどなという顔を一瞬見せたが、空気を読んでそっとネネを抱きしめていた。



「かわいい子ね」

 女王は泣き疲れて寝たネネを抱えている。

 ネネは女王に抱きしめられている最中に眠りに落ちた。

 よっぽど疲れたんだろうな。

「なんで、こんなことが起こっちゃったんだろうね」

 女王はネネに言うでもなく独り言のようにそう言った。


 元凶であるプキトル国のせいだな。

 友好国だと言っていたが、こんなことをするのは友好的であるとは言えないな。

「ねえ、これって事故の可能性はないの?」

 その女王の質問は意外だった。

 あれだけいきり立っていた女王が、冷静に事故の可能性を考えている。

「まず無いだろうな」

「そうよね」

 分かっていて質問したのか。

 それは、プキトル国への配慮なのだろうか。

 仮にも友好国だからか。

 こいつ、仮にも隊長だもんな。

 冷静な判断くらいできるか。

「ぶっ殺す。制圧してやる」

 全然冷静じゃなかった。


「積み込みが終わりました」

 女王の部下がそう報告に来た。

「ごくろうさま」

 馬車が2台ほどが見える。

 馬車と言っても、馬に荷台をつけた簡素なものだ。

 その荷台には数名のけが人が座っていた。

 生存者か。


「どこに連れていかれるんだ?」

「隣の村よ」

 とうことは、この村は廃村か。

 この人数で復興は無理だろうしな。

「でも隣の村って言っても、親戚の寄り合いみたいなもんなんだろ? 住みづらいだろ」

「しょうがないわよ。大勢を城に受け入れることはできない。この人達だけを特別扱いすることはできないのよ」

 まあ分かるけど。

 あれだけ文明が発達した日本ですら、福島から避難してきた方達に同情するどころか排斥すると聞いた。

 この国の文明がどこまでのものかは知らないが、日本よりも進んでいるとは思えない。


「国としては補助金を出して受け入れてもらって、自立してもらうしかない」

 国としては最低限の保障はしているようだ。

 お金をもらっているからには、そこまで悪いようにはしないだろう。たぶん。


「さて、今度はあんたね」

「え? 俺? そうだ。俺、取り調べられるんだったな! よし行こうぜ!」

「なんでそう乗り気なのよ……」

「当たり前じゃないか! そのウソ発見器みたいな魔法を見るの、むちゃくちゃ楽しみにしてんだよ!」

「………」

 むちゃくちゃ呆れた顔をされた。

「こいつのために、そんな労力をかけるのが無駄に思えてきた……。どうせシロだろうし。報告しないで無かったことにしようかな」

「おい女王! そりゃあ職務怠慢ってやつだ! はよ連れてけ!」

 女王のさじ加減で俺の楽しみが奪われてたまるか!

 そんな俺に対し、女王は深く深くため息をついた。

「取り調べが終わったら、あんたどうするの? 無職なんでしょ? 狩りをして生きていけるほどの実力もないだろうし、飢え死にするわよ」

「俺を養ってくれるって話?」

「違う! 飢えろ!」


「ハカセはね、ネネが養うから大丈夫だよ!」

 いつの間に起きたのか、ネネがそんな主張してくれる。

 そうかそうか。

「それもいいな……?」

「おいクズ男」

 だんだん女王の突っ込みが鋭くなってきてるな!


「ネネちゃん。こんなクズに関わるとろくなことがないからやめたほうがいいよ? ネネちゃんは孤児院でお友達いっぱい作ろうね?」

「やだ! ハカセはパパとママに会う魔法を見つけてくれるんだもん! ネネはお手伝いするの!」

「それでこそ助手だ! 俺についてこい!」

 約束したんだもんな。

 本当は、蘇生魔法はないかもしれないけど、会えるかもしれないと希望をもつくらいいいだろ?

 少なくとも恨みを抱える人生よりかはマシなはずだ。

 もし蘇生魔法が存在しなくても、俺が恨まれればいいだけだからな。

 そして、ネネは俺の魔法の研究に、何の疑問も持たずに付き合ってくれる何とも都合のいい存在だ。

 逃す手は無いな。

「……あんたさ、こんないたいけな女の子を騙(だま)して、良心が痛まないの?」

「俺に良心あると思う?」

「おいクズ男。ぶっ殺すぞクズ男」

 おおー辛辣(しんらつ)ぅ☆


「ちょっと来なさい」

 俺の胸ぐらをつかんで、ネネのいない方向に俺を連れ去る。

 不良にからまれる気分ってこんなか。

「どういうつもりなの? あんな小さい子ふりまわして! あの子の人生がどうなってもいいの?」

「逆だろ。あいつの人生を考えたら、どう考えても俺が引き取ったほうがいいだろ」

「……どう考えても不幸な未来しか見えないだけど」

「いやだねえ。本質が見えない凡人というものは。話が進まないじゃないか」

 やれやれと女王の肩にポンと手を置く。

「“生きるには目的が必要”なんだろ? 俺が生きる意味を授けてやるさ」

「イラァ!」

「ふぐほっ!」

 な、殴られた! なぜだ!


「ハカセをいじめるな!」

 ネネが俺の前に立ち、女王の前に立ちはだかった。

「ネネちゃん。人を蘇らせる魔法なんてないの。こいつはネネちゃんを騙そうとしているだけなの。今はまだ分からないかもしれないけど、私を信じて」

 ネネは黙った。

 うつむいて、すそを握ってぷるぷるしてる。

「女王さんのこと信じてる。でも、ハカセのことも信じてるんだもん」

「このうさんくささ全開のこいつに、どこにそんなに信じられる要素が……?」

「ハカセはね、最初からダメだとか諦めないの。約束してくれたんだもん」

「それは詐欺の常套句……」

 はあ、と大きくため息をついた。

「分かった。あなたとネネちゃんが一緒にいることが認めてあげる」

 女王が観念したようにそう言う。

「ようやっと分かってくれたか」

「わかってくれたかー」

 俺の言葉にネネが続く。


「納得したわけじゃないんだからね! ネネちゃんにとって、今はあなたが支えになるんだと分かったという意味よ。こんな詐欺師でも、この子に危害を加えるつもりはないみたいだしね」

「なるほどツンデレか」

「つんでれかー」

「違うわ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る