第7話 科学の力
「本当に大丈夫? 俺、わざとあいつらの攻撃を受けようと思っているんだけど」
その一言に更に声を震わせるティア
「あいつらの能力を見極めるには一度攻撃を受けてみるのが一番だからさ」
「魔獣は、通常の獣の攻撃に魔法の力を加えてくるの。だから本当に強いのよ。こんな乗り物じゃ一瞬で破壊されてしまうわ………」
ティアは必死に止めようとするが、全く聞く耳を持つ様子も無く淡々と作業をする正人を見て、本当にここで死んでしまうかもしれないと言う恐怖を覚えていた。
その様子を見た正人は、変に焦らすより早めに始めてしまった方がいい、と判断し、敵前方に極めて出力を弱めたレーザーを打ち込む。
バシュッと言う音と共に一番近い敵の直前。地面が爆発するように弾け、土煙が舞う。
一瞬の事に驚いた魔獣だが、もちろん魔獣にはかすり傷一つつけていない。
魔獣はこの行為を敵対行動と判断したのか、今までにも増して怒りを伴いこちらをにらんでくる。
確かに生身の身体であの魔獣と対峙するのは想像以上に恐怖だろうが、ブラックキャットの堅牢性には絶対の自信がある正人には、彼らの攻撃に対する恐怖は全くなかった。
まず先頭の魔獣が切り込んでくる。
全身が紫の毛におおわれた、トラの様なスタイルを持つガブレスと呼ばれる魔獣。だがそのサイズは大人のトラの三倍から四倍と言う巨大なものだ。
大型の魔獣なのに、トラと遜色ないぐらいに素早い事も分かった。
ガブレスの初弾がブラックキャットを捉える。
魔力が宿った鋭い爪と牙は、確かにその一撃一撃が現代の戦車の砲弾に匹敵する強烈な破壊力を持っていた。
ブラックキャットの装甲にその一撃一撃が伝わり、それは全て様々なセンサーを通してゆかりにデータ入力され続ける。
同時にその攻撃は全て分析され、敵の持つ攻撃力が丸裸にされていく。
もちろん全ての攻撃はその装甲がはじき返している為ブラックキャットに傷などは全くない事が分かる。
「うそ…」
正面の窓も装甲もバシバシと攻撃されているのに、全く衝撃が伝わらないその様子にティアが驚く
「あのガブレスの一撃は、要塞の壁すら破壊するって言われてるのに……」
メアリも驚いてる。
「驚くのはこれからだぞ」
正人はそう言うと窓の外、奥の方を指さす。
岩陰に隠れていた真っ白いライオン。通称ディガルド。そしてクマの様なベラドアもこちらに迫って来ていた。
どちらも動物園で見かけたライオンや熊の三~四倍のサイズだ。そして素早い。
あっという間に間合いを詰め、ブラックキャットを取り囲むと、彼らは総攻撃を開始する。
機体各所に設置したカメラやドローンのカメラ映像を見て、敵の配置と攻撃の様子をモニターから観察しつつ、ゆかりに分析させる。
敵の最初の攻撃から、数分。カップラーメンが少し伸び始めるぐらいの時間が経過した所で、ゆかりの敵データ分析が完了した。
個体差はある物の、おおむねガブレス、ディガルド、ベラドアの順に所持する魔力が強くなり、つまり攻撃力も強い。
ガブレスだけでも戦車の砲弾程度の破壊力はあるが、ベラドアに至っては小規模なミサイルぐらいの破壊力はある事も分かった。
確かに近代的な素材も技術も無いこの世界において、この魔獣達の破壊力は恐怖でしかないだろう、と言う事は分かった。
だが、正人は今、ブラックキャットに乗っている。
地球であっても、最強と言える武力を持つこのブラックキャットにとっては、彼らの魔力を込めた攻撃も、蚊に刺されるようなものだった。
「んじゃ、分析は終わったのでそろそろやっちゃうね」
正人はそう言うとコンソールを操作し、二十匹の魔獣を同時にターゲットにした。
「これでよし。出力は絞って……発射」
正人がタッチパネルの発射ボタンをタッチすると、ターゲットした二十匹の魔獣に向かって、一瞬フラッシュのように閃光が走り、バババッと何かの破壊音が響く。
次の瞬間、正面にいた魔獣が一斉に地面に倒れこむ。モニターに映る周囲の魔獣も全て一斉に倒れこむ。
「えっ……」
「何……これ……」
呆気にとられるティアとメアリ。
「さて、任務完了。 倒れた魔獣の後始末ってどうすればいいの?」
「……」
「って、おーーい。 ティアさん?」
突然の出来事に理解が及んでいないティアに声をかける正人。
「えっ? わ……私?」
「そう。ティア。 この魔獣、どうすればいいの?放置してていいの?」
「ってあの魔獣、どうなったの?」
「どうって、見たままだけど」
「倒したの?」
「うん」
「あの一瞬で?」
「そう。同時に二十体」
「あんなに強い魔獣を、一瞬で二十体倒したって言うの?」
「まぁそう言う事になるね。このまま放置してると通行人の邪魔でしょ。 だから処理方法を知りたいのよ」
「信じられない…本当にあの魔獣を一瞬で倒すなんて…」
目の前で起こったことが未だに信じられないと言った口調のティア
「それに…魔獣の攻撃が何度も当たってるのに全然壊れなかった…」
恐る恐る口を出すメアリ
「んー。まぁあのぐらいの攻撃なら、バンカーバスターの直撃の方が余程破壊力あるかな。バンカーバスターでもこいつには傷は付けられないけどね」
「バンカー…バスター?」
「あぁ。元いた世界にある貫通力の高い爆弾だよ」
「バクダン?」
「そっか。爆弾も分からないか。うーん、火薬がいっぱい詰まった塊で、火をつけると火薬が爆発するんだ」
「それって火の魔法みたいなもの?」
「まぁ似たようなもんかな」
この世界の火の魔法とは微妙に違う気もするが、説明するのも面倒だったのでとりあえず日の魔法の一種と言う事にした。
「で、話を戻すけど、あの魔獣達はどうやって処理するんだ?」
「あ、あぁ。あのまま放置していれば他の獣や魔獣が食べちゃうと思うけど、街の素材買取店に持っていくと高く売れると思うわ」
ティアはそう答える。
「あんな巨大なのを二十匹も持っていくのか?」
「そんなの、魔法で一時的に収納しちゃえばいいのよ」
「魔法で…収納?」
魔法で収納、と言うティアの言葉に驚く。
空間転送か何かの魔法なのか? それとも密度を変えたりする魔法があるのか? いずれにしても、原理が全く分からない魔法がある事に少々驚く。
「あんな強い魔物を一瞬で蹴散らしちゃったのに、それは知らないの?」
「ま…まぁ……」
「いいわ。私がやってあげる。よく見ててね」
ティアはそう言うと、シートベルトを外し、椅子から立って機体の出入り口に向かって行った。
正人も後を追うように移動し、メアリもその後を付いてくる。
ティアがドアを開けると、正人は一言いう。
「一応周囲を警戒しろよ」
「分かってるわ」
そう言ってティアは機外に出ていく。正人もメアリもその後を追うように機外に出て、まずは機体右舷に倒れているガブレスの前に立つ。
ティアは倒れたガブレスに向かって手のひらを向け、魔法の詠唱。次の瞬間ティアから放たれた光は、ガブレスを包むように光ると瞬間的に強く光り、消えた。
「消えた……」
異世界をブラックキャットと行こう @kazu36
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。異世界をブラックキャットと行こうの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます