第6話 ブラックキャット始動
「ねぇ。正人。もしかしてあの不思議な物に乗っていくの?」
ティナが質問する。
「あー、あれね。ブラックキャットって言うんだ。俺の作った最高傑作。あれで魔獣を全部抹殺してくるよ」
「あなたが本気で言ってるのは分かるけど、魔獣の強さは本物よ? それでもどうしても行くって言うなら、魔獣の特性を教えられる私を連れて行って。きっと役に立つから」
「なら私も行くー」
ティナの言葉にメアリも乗ってきた。
「ま、まぁいいけど、多分そんなに心配する事じゃないと思うぞ」
正人がそう言うと、本当に何も分かってないんだねぇと言う感じでドンナさんが呆れる。
ティナもメアリも苦笑しつつ、正一に付き合う事になった。
三人で街を離れ、ブラックキャットの置いてある場所に向かう。
「ねぇ。本当に一人でやる気なの?あなたが自信満々だからひょっとしたら数匹の魔物なら勝てるぐらいの何かは持っているのかもしれないけど、二十なんでしょ?私たちにできる事は王都からの援軍を待つ事ぐらいだと思うわよ?」
「そうそう。魔獣を見たことも無い正人が戦って勝てる相手じゃ無いのよ?」
心配してくれるティナやメアリの言葉を聞きながらも、正人は内心ちょっと楽しんでいた。
実を言えば、ブラックキャットの兵器は一度も全力で開放したことが無い。
いや、全力で開放すると日本列島が一つ消し飛ぶ為それは普通はやらないが、そもそも日本の周辺に試し打ちが出来る所はほぼ無い。
しかたなく地下の基地内に完全密閉された試射空間を作り、そこで兵器のテストをしている程度だったのだ。
「まぁまぁ。いいから見ててよ」
そう言ってブラックキャットまで戻ってきた。
ハッチを開き船内に入ると、コックピットに座ってシステムを起動する。
ティナやメアリも船内には入っていたが、コックピットには入ったことが無かった為、コックピットの後部シートに着席させると、ちょっとだけ楽しそうにしていた
「うわー凄い。こんな椅子はじめてかも。体にフィットする感じなのね」
バケット状になっているシートに座り、満足げなティナ。
エルフにしては胸がかなり大きいティナは、ベルトを固定すると余計に胸が目立っていた。
一方のメアリの方は、胸の方は申し訳程度らしく、すっきりとベルトを固定できた。
「これでよし」
正人は自分のシートに着席し、ベルトを固定すると、発進シーケンスに入る。
と言っても、電源を確認し、反応炉の状態を確認し、問題なさそうならスイッチを待機から稼働に入れるだけだ。
グリーンランプがモニターに映し出され、準備完了。
あとはいつものように操縦かんとペダルでブラックキャットは自在に飛行を始める。
「わわわっ……これ、浮遊魔法の機械なの?」
ティナが驚く。
無理もない。ずっと停止した状態のブラックキャットしか見ていないから、これが本来は飛行兵器だとは知らないのだ。
メアリも窓の外の景色にわくわくしている様子だった。
「まー景色は今度ゆっくりみせてやるよ。それより、魔獣の所に行くぞ」
「わ……分かったわよ」
「準備オッケーよ」
二人の了解を得て、ブラックキャットを魔獣のいる方角に向けて移動させる。
これから魔獣と戦うのだからと二人の表情は緊張感に満ちている。
正人だけがリラックスしていると言えた。
ブラックキャットが大気を無視して飛べば、地球の大気圏内は音速の六十倍の速度で飛行できる性能がある。
しかしそんなことをすれば周辺のソニックブームは尋常では無く、だからせいぜい時速六〇〇キロ前後の飛行で移動をした。
「うそ……これ凄く速くない?」
「ホントだ。これ、知ってる浮遊魔法の速度じゃないかも」
感心している二人。
魔法で飛ぶことは出来ても、この速度で飛ぶことは無理なのか。
いずれにしてもこの速度なら魔獣の位置までほんの数分で辿り着けることになった。
街道沿いの峠の一番深い谷間。
物陰に潜み、獲物を待つように魔獣たちが二十体いた。
上空から見たらその魔獣たちの存在ははっきりわかる。
その魔獣は、恐らく地球のトラやライオンの数倍は大きい獰猛な怪物である事が分かる。
視界には確かに二十近い魔物が映し出されていた。
現実を直視した二人は、硬直したように恐怖しているのが分かる。
この世界の人達にとって、これだけの魔獣は恐怖以外の何者でも無いのだろう。
だが正人にはそうは写っていなかった。正直に言えば、むしろ思ったよりも弱そうでガッカリしていたのだ。
そうしている間にゆかりの分析は終了する。
総勢二十匹丁度。魔獣の種類は三種類。
ティナによると紫色のトラの様な魔獣がガブレス。真っ白いライオンの様な魔獣はディガルド。そして真っ黒なクマの様な魔獣はベラドアと言うらしい。
最もエネルギーが強い個体は、現代の戦車数両程度、一番弱い個体でも一両程度の破壊力は持っているようだった。
確かに、生身の身体を鍛え上げたとしても、戦車を相手に戦うのは難しいだろう。
魔法の力ならば魔獣に対しても一定の効果はあるだろうが、それでも結構な魔力が無ければ倒すまでに至るのは難しそうだ。
ティナとメアリは自分の経験から、あの魔獣がどれ程強いのかを知っているのだろう。
だから彼女たちの目には恐怖が感じ取れるのだ。
「ね……ねぇ。本当にあいつらと戦うの?」
恐る恐る聞くティア
「あぁ。そのつもり」
「王都の兵士達に任せた方がいいって。本当にあいつら危険なんだから」
「まぁ見ててよ」
メアリに至っては、窓越しに見える魔獣達に恐怖し、言葉すら出なくなっていた。
正人はブラックキャットを上空から地面すれすれの位置まで降下させ、視線の正面に魔獣を見るような状態になる。
上から見ていた時は物陰に隠れている魔獣も全て視認出来たが、ここまで降りると、魔獣は数匹しか見えない。
魔獣は既にこちらに気づいていて、明らかに威嚇行動を取っている。
ティアもメアリも、魔獣がより近い位置に来たことで更に恐怖しているように見えた。
「さて。ではやりますかね」
正人は手を組んで指を数度ポキポキ鳴らすと、コンソールを操作してドローンを何機か飛ばし、そこからの情報を元に全ての敵を同時に捕捉する。
物陰に隠れている敵も上から見たら丸裸だ。
そもそもブラックキャットは先ほどまで上空を飛んで上から敵を視認していた。
それがわざわざ下に降りて、今や敵とほぼ同じ高さにいる。
実はこれは正人の作戦だった。
もちろん上から攻撃すれば瞬殺出来る事は想像していた。
だが、正人はこの世界の魔獣の本来の強さを全く知らない。
そこで、わざと魔獣から攻撃を受ける事を考えたのだ。
魔獣の攻撃を実際に記録し、ゆかりに分析させる事で、より魔獣が理解できる。
その為に彼らが攻撃しやすい高さに降りたのだ。
所が、魔獣と同じ高さに降り、魔獣が明確に敵意を示して威嚇している今、ティアとメアリは恐怖にひきつりながら完全に硬直している。
このままわざと攻撃を受けると、もしかすると彼女たちは精神的にダメージを負ってしまう可能性がある。
それは正人の本意ではない。
「ねえ。ティア。メアリ。怖かったら奥の部屋に入ってていいよ。ここは俺がやっておくから」
一応気を使って言うのだが、ティアは自分からここに来ると言いだしている手前、逃げるように奥の部屋に行くのは嫌なのだろう。
頑なに拒否している。
メアリもまた、ティアに同調するように拒否をしている。
「本当に大丈夫? 俺、わざとあいつらの攻撃を受けようと思っているんだけど」
「え……」
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