2.主人公の邪魔してんじゃねえよ

クソガキはそこから離れて服についた埃を払うと咳払いをした。

「…違った、おっさ…じゃなくてお兄さんごめんね!助けてくれてありがとう!」


助けた少年に「邪魔なモブ」と言い放たれて混乱したが、この反応はこれはこれで気持ちが悪い。

明らかに演技だ。この状況で笑顔で感謝するような声変わりもしていない小学生ほどの少年なんて存在するのだろうか?


「いや…すまない、俺は確かに余計なことをしたかも知れない。あのままだったら君は蹴られただけで済んだし、こうやって奇跡的に助かったからいいものの机は弾除けになってないし…」いろいろと疑問には思ったが俺はとりあえずしどろもどろに謝った。


「はあ、いいんだよそれは僕は当たらないし…じゃないや、ううん、まあ結果的にお兄さんのおかげだよ」

そういうと少年は近くの壁を這って銀行内部に入っていく。


「当たらないって、そんなわけあるかこれは現実でアニメじゃないんだぞ…ちょっと、君何してるんだ」


少年は悪びれる様子もなく適当に簡易的な両替するための予備的な札束を少々抜き取ってポケットに入れ込みつつ、何かの端末を操作し始めた。


「うーん?わかんないけど、パソコンでしょ?ゲームできるかなって!」


「いや、さっきから君おかしいぞ…それパスワードかなんかじゃないか?なんで知ってる?」


少年はピタッと動きを止め、深く、そして大きくため息をついた。


「面倒くさい…めんっっっっどくさい………」


顔を埋めた少年は小さく、しかし隠し切れないほど強く、呻き声と悲鳴の混ざったような呟きを漏らし、溢れた吐息には怒りの念が含まれている。

顔を上げた少年は眼光を怒らせて言った


「…っせーな、モブが首突っ込むから序盤で死ぬんだぞ…

主人公の邪魔してんじゃねえぇええよぉ…身の程わきまえろよ!」


少年が立ち上がると子供とは思えぬ凄まじい加速で体当たりされた。

パーティッションにぶち当たり、机が倒れてガラガラと音を立てて俺は転がった。…主人公…?


「いたぞ!撃て!」


まずい、逃げないと。

当たりの瓦礫を倒しながら走る…がそれで避けられるはずもないのに先程からやはり身体をかすめながら弾丸が避けていっている気がしてならない。


奇跡的に落ちていた自動小銃を拾うと

奇跡的に安全装置が外れており

俺は引き金を引いただけで銃を撃つことができた。


あれだけ俺には当たらなかった銃が…素人ながらで拙くとも…これだけ撃てば人間相手にはひとたまりもないというのは当然であり、

その当然の所業が当然のように無残に人の命を絶っている。


-ただの物理現象なので撃てば死にますよね、それは当たり前ですね…引き金を引くと死にますね…世界の法則の正常な働きが淡々と事実を説明してくる。


たくさん当たりました、だから死にました、たくさん当たりました、だから死にました…たくさん引き金を引きました、あなたが引きました、それは自動小銃です…だから…


誰かの家族であり誰かの友人でありもしかしたら誰かの恋人かも知れない誰かは特にその人生が振り替えられることもなく、なんの優遇もなく、ボロ雑巾のようになっている。なぜ強盗を考えたのかも、彼らがどんな小説を好きなのかも、この先俺が知ることはない。


そして強盗たちは一人も動かなくなった。


この間俺の身体はほぼ無傷だ。

重症はない。擦り傷ぐらいしかみられず、特に顔には…まるで特殊メイクとして人工的につけたかのように見える傷をぬいては目立つようなものがない。

自分でもこんなことを言うのはおかしいがまるで魅力を引き立てるかのような傷だ。絵に描かれたような傷が、体の端々についている。

これらの傷は不自然なほど“格好いい”…



あとで知ったが、俺は新聞記事に載ることになる。

この時の姿をたまたま居合わせた記者に写真を撮られていたのだった。

これは全ての弾を撃ち尽くした後の姿だった。

俺は強盗は既に皆倒れていたのに銃を撃ち続けていた。自分が弾切れによって我に帰った時…その時の姿だ。緊張感の中にも目を見開いた瞬間で、驚いたような気がついたようなあの顔に自分でも身に覚えがある。


その躍動感のある動きのある写真は意図してとられたかのようで

さながら映画のポスターのようであった。


少年の言葉が頭を過ぎる。


-っせーなモブが主人公の邪魔してんじゃねーよ…

-僕には当たらないから…


「主人公…主人公、俺は………主人公………なのか?」

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弾丸が当たらないのだが俺は主人公なのか? 阿Q外伝 @Qandemic007

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