弾丸が当たらないのだが俺は主人公なのか?

阿Q外伝

1.自分が特別なんて傲慢な考えだ

子供の頃、俺は絶対に死なないような気がしており、いつでも勢い良く車道に飛び出していたが、ある日普通に車にぶつかってわんわん泣いたことがある。完全にアホである。


子供の頃と言ってももう小学5年生で背も高く大人のようなガタイをしていたし学校でも人前で泣いたところなんて見せたことはないので今思い出すと恥ずかしくて変な声を出したくなるくらいだ。「はっはっは、泣けるくらい元気なら大丈夫だな」と運転手が苦笑して救急車を呼んでいたのを記憶している。


低速で運転していたこともあり骨にヒビが入る程度ですんだが、

あの妙な全能感はなんだったのだろう。

あの頃の俺は自分だけはまるで神様にでも守られていたような気になっていたが、この世界に神がいるならこんなことにはなっていないだろう。

努力しても報われない人もいれば卑怯者のカスが美味しい思いをしている。自分だけが不運に遭わない特別な存在だなんてのは傲慢な考えだ。



…現に、俺は現在絶賛銀行強盗の犯行現場に巻き込まれている。

神様がいるならあと数時間後に強盗がその気を起こすようなシナリオにして欲しかった。


ただ不思議とそんなに恐ろしくはない。

なぜなら銀行強盗だって捕まったらその罪を問われるわけなのでわざわざ人殺しなんて面倒なことはしないだろうからだ。言う通りにしていればまあすぐ終わるだろうと思ったからだ。物語と違って現実はそんなものである。


できれば今日は疲れてるから終わるまでには座りたいなと思った時だった。


「わるものだな!やっつけてやる!」


甲高いがハッキリした声を上げながら、

俺の傍から子犬のような小さい影が飛び出し、強盗に飛びかかった。


「とう!」


ライダースーツ風のパーカーを着た子供は犯人の懐を掴み、強盗はバランスを崩し拳銃を空に放った。ガラス窓が割れ、ほかの強盗の怒号と共に半狂乱になったものが逃げ出そうとし、「何をしている!逃げるな!」発砲音と人が倒れる音と悲鳴、一瞬にして現場は阿鼻叫喚の騒ぎとなった。


「このクソガキ!」


強盗が小さな子供を振り落とし、容赦なく蹴り上げようとしたので咄嗟にクソガキを抱き抱えた。強盗の方も男が飛びかかって混乱したのかよせばいいのに自動小銃らしきものをこちらに向けて撃ち放った。

タパパパパパという冗談みたいな音が辺りに響き、

俺は子供を庇うように受け身をとってとっさにひっくり返したテーブルの裏に隠れた…というのが現在に至るまでの過程だ。


咄嗟のことに現実感がなく恐怖心はなかったが、

一呼吸おいて恐ろしいことに気がついた。


「…ちょっと待て。

いくらなんでも自動小銃の連射を一弾もうけずにいるのはおかしいだろ」


テーブルはよくあるベニア板の安物だ。よく見ると銃弾を防いだような跡はなく、全てが貫通しきっていた。

慌てて身体を見ても少し服がはだけて血が出てるだけで重傷はない。


そうだクソガキは?

「君大丈夫か?」

「なんだこのモブが!邪魔しやがって!」

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