第 弐 輪【羨む程の温もりと隠された刺】
「今日は色々あったし、ここで寝泊まりさせてもらおうかな……」
天上の温かな陽はとっくに闇へと包まれ、静寂な森の雰囲気と相反する目の前の景色。
十数件ある家屋は道の両脇に配置されていて、真ん中の手作り通路が奥にある1番大きな家へと繋がっている。
桜色の髪を揺らしながら一歩また一歩と、土を踏み締めながら人の気配がする家屋へと進む。
桜香が左右を交互に見る限り、家屋や納屋、家畜小屋はあれど、どれを見ても祖父と住んでいた場所より貧相に感じていた。
だが、耳に入るのはとても楽しそうな声や喜び笑う声、そして……幸せそうにはしゃぐ子ども達の声だった。
自らをすり抜ける様な幸せに対し、桜香は思わず声が出てしまった。
「危険な森の中でも家族が居て、分かち合える温かい家庭があるのは、きっとここが平和って証拠なんだろうな……」
そう噛み締めながら進んでいたが、思いとは相反して、何かに歩みを
(ん?何かに当たった?)と、嫌な予感と高鳴る鼓動のせいで、下を向いて確認するのが怖かった。
しかし、その予感は外れ歳を取った低い声が聞こえる。
先程の陽気な老人とは違う声が聞こえる。
「おぉ……また旅の人が来よったわい!! こんな所では何ですので、どうぞ中へお入り下さい!!」
桜香が言葉の内容を理解するよりも早く右手を引かれ、足早に最奥の家屋へと案内された。
あまりの早さに
桜色の髪が
刻一刻と迫り来る家屋。
――否、実際は桜香自信が近づいているのだが、正直今はどうでも良かった。
(止まれない……このままじゃぶつかっちゃう!?)
勢いでぶつかりそうになるのを、眼を閉じて覚悟した。
だが、手を引いた人物は木造の扉を力任せに良く開けると、突然狙ったように急停止する。
〝慣性の法則〟に従って桜香は、開いた扉へと吸い込まれるように入っていく。
その勢いを殺す事なく転がり回る様に、奥の壁へと激突した。
自身が土壁へと叩き付けられる鈍い音が耳へと伝わる。
衝撃で家屋全体が揺れ動き、突然の出来事で唖然とする者も多数いた。
しかし、幸いにも人らしき物とは衝突してない。
桜香はもはや怪我人の塊であり、どこが今ので出来た傷か分からずに痛がる。
床は天へ天井は地に――視界が逆さまの世界で桜香は、幼少から祖父に叩き込まれた挨拶をした。
「うわわわっ!! 痛てててっ……。あっ、初めましてこんばんは……でいいのかな?」
心中で〝こんな格好でごめんなさい〟と思いながらも、礼儀正しく7人程の老若男女の眼を見る。
桜香の乱入で一時の静けさがあった室内だったが、途端に笑い声と人の温かさが戻ていく。
中心の火を暖にとり、酒を酌み交わす老若男女の人々が
(あれ……私、無視されてる?)
逆さまで頭に血が上る桜香は、体を
困り顔で人々の会話に耳を澄ませていると、ここへ
その老人を見るに、とても品が良いとは言えない程の
良く周りを見渡せば髪は手入れがされてない。
その上に男女関係なく、ボロボロの布1枚を衣服としていた。
包帯娘の桜香と比べ
こんなに笑顔溢れる場所に少しだけ羨ましく思っていた。
不思議と心が満たされていくのを感じながら「大丈夫かいお嬢ちゃん? いきなりすまんねぇ……」と、優しく謝っている老人の声に気が付く。
「いえいえ、私こそいきなりお邪魔してごめんなさい」
とても
「旅人は、この村にとって貴重な存在じゃ、是非ともゆっくりしてくだされ!!」
老人の純真無垢な瞳に心を動かされた桜香は、大きく
「私の名前は〝桜香〟年齢は15歳! ここでしばらくお世話になります!!」
この時の
後に、この選択肢が自身の間違いに気付くまでは……
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