怖い話14【不気味な千羽鶴】1400字以内

雨間一晴

不気味な千羽鶴

 若い看護婦がニコニコして少年に千羽鶴を渡した。


 黒いポニーテールに、整った顔立ちとスタイルの良さが、テレビドラマの女優のようだった。

 二重のはっきりとした目が優しく笑っている。


 小学校から千羽鶴が病室に届いたのだ。水面に映る虹を、かき混ぜたように様々な色が散りばめられていて、所々に金色の折り紙が目立つ。


 パジャマ姿の少年は、ベッドの上で大事そうに千羽鶴を抱きしめた。


「よかったね、ゆうた君。お姉さん他の子を診てくるからね」


(小学校の皆が作ってくれたのかな?うれしいな)


 少年が、看護婦に返事もせずに、まじまじと千羽鶴を観察していると。一羽の金色の鶴に、油性ペンで、黒く小さな文字が書かれているのを見つけた。


(あれ、なんか書いてあるな)


『金色の鶴を広げてみて』


 不思議に思いながらも、少年は金色の鶴を千羽鶴から外して、広げてみた。


 裏の白い面に、赤い字で『し』と書かれていた。四つ、バラバラになったホチキスの芯が入っていた。


(し?ホチキスの芯はいたずらかな、刺さるところだったけど。他のも広げてみよう)


 金色の鶴は、合計五羽いた。それぞれ赤い文字で、こう書かれてあった。ホチキスの芯は、最初の鶴にしか入っていなかった。


『や』『ね』『は』『く』そして、最初に開いた『し』


(しやねはく?)


 少年は、ベッドの上に五枚の折り紙を広げて、首をかしげていた。


(よく分からないや、並び替えるのかな)


 何度か順番を並び替えて、少年は短く息を吸い込み、口を開けたまま固まってしまった。顔が青ざめている。


(はやくしね……)


 少年は、ベッドから金色の鶴を振り落とし、千羽鶴も投げ捨てた。布団を被り、すすり泣く声が聞こえる。


「何か物音が聞こえたけど大丈夫?あれ、どうしたの!」


 戻ってきた看護婦がベッドに駆け寄るが、少年は泣いたままだ。


「ゆうたくん、何があったの?今ね、学校の友達が来てくれたんだけど。千羽鶴に付け忘れて、持って帰っちゃった子がいるって話でね。折り鶴を持って来てくれたんだよ。ゆうたくんが泣いてる理由は、千羽鶴が関係しているのかな?」


「……何色?」


「え?金色の鶴が三つだよ。持って来た子は用事があるって、帰っちゃったけど」


 少年は、恐る恐る、金色の鶴を受け取って、折り目を広げ始めた。


「ゆうた君?広げちゃダメでしょ。あ、文字が書いてあるの?」


『て』『お』『な』と書かれていた。


「床にある同じの拾って」


「うん。ちょっと待っててね」


 看護婦が床から紙を拾い、ベットの上には合計八枚の文字が並んだ。


『て』『お』『な』『し』『や』『は』『く』『ね』


「うーん、並び替えるのかな?難しいね、ゆうた君分かる?」


「はやくなおしてね?」


「おお!きっとそうだよ!素敵なサプライズだね!」


「う、うん……」


(誰が書いたんだろう、それに何でホチキスの芯が入っていたの。今届けたのは誰なの、その子が一人で金色の鶴に書いたのかな、クラスの皆がしてくれたのかな)


「ゆうた君も泣き止んだ事だし、私は他の子を診てくるね。何かあったらナースコールを押してね」

 

「……うん、お姉さん、ありがとう」


「ふふ、良いのよ。素敵なプレゼント羨ましいわ」


 天使のように優しく微笑み、看護婦は病室から出て行った。


(あんな近づかれたら、ドキドキしちゃうよ……)


 少年は気付いていなかった。少年に背を向けた看護婦が、目を細め、歯を剥き出して笑っていた事を。

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怖い話14【不気味な千羽鶴】1400字以内 雨間一晴 @AmemaHitoharu

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