戦場の魔女達。

山岡咲美

第1話「特設監視艇の魔女達」

 その日の海はとても風が心地良かったが、私の国は戦争の末期状態だった。



「魔女さん握り飯喰うかい?」

船長さんがおにぎりを薦めてくれる。


「ありがとうございます、いただきます」

私は大きなおにぎりを口いっぱいに頬張る。


ポンポンと言う焼玉エンジンの音と揺れる小さな木造船、元は漁船だったと言う特設監視艇に私は乗っている、船首と船尾には大きな機銃が無理矢理後付けされていた。


「でも凄いですね、お米がこんなに」

私は久しぶりにお腹いっぱいの御飯を口にした。


「ほれー沢庵も喰え」


「すみません、ありがとうございます」


きっとこれってすぐ死んじゃうから特別な御飯が出てるんだよね。


特設監視艇と言うのは海の上での偵察が任務で本国から海に出て魔女、つまり私達が更に沖合いまで交代で行って敵を見つけるのが仕事なの。


「おーい、ただいまーーー!」


「あっおかえりー花ちゃん」


「雛ちゃんただいまー」


索敵に出ていた花ちゃんが箒に乗って帰ってきた、敵には会わ無かったみたい、少しほっとした。


「あっ今雛ちゃんほっとしたでしょ、駄目だよあたし等の仕事は敵を見つける事なんだから」

花ちゃんは志願してこの任務に就いた立派なな魔女だ。


「気にせんでいい、どうせ見つけてもこっちには戦闘機が無いからどーも出来ん」

船長さんは昔は軍にいて駆逐艦の艦長さんだったらしい。


「そんな事ありません艦長!あたし等が敵機を発見すれば空襲まで我が神民が防空壕に避難する時間がかせげます」


「国の力は人の力だもんねー花ちゃん!」


私は花ちゃんがする難しい話は解らないけど人を守るって言うのは大切だって事は解っていた。


「ああ、そうかもしれんが今は軍人じゃ無いから船長でたのんます」

船長さんは昔は海軍で艦長をしていたらしい、今は年をとったので退役していたが、船も人も寂しくなったので軍に呼び戻されたらしかった。


「申し訳ありません船長!!」

花ちゃんはビシッと敬礼した。


「花ちゃんカッコいい!」

私は花ちゃんだいすきだ。


「とりあえずそっちの魔女さんも飯にせい」

船長さんはなんだから困り顔で船室へ戻り花ちゃんの分のおにぎりを持ってきてくれた。


「…船長さん、あの鉄砲は使えないんですか?」

私は船首に有る大きな鉄砲を見て言った。


「ありゃ無理じゃな、飛行機みたい速いもんは撃ち落とせん、そもそも敵さんは弾が届くより高い所を飛んどる」

船長さんはお茶目に舌を出した。


花ちゃんは少しガックリしている。


「ねー雛ちゃん、さっきの話しどう思う?」


「鉄砲の?」


「うん…」


「どしたん?」


「あたしね、敵機が来たらあの鉄砲で撃ち落とすんだって思ってた」


「あの船長さんが?」


「……実はああ見えてやり手だとかだと思ってたの」


「やり手には見えないけど…」


「そうだよね…」


花ちゃんはすごく落ち込んだ。


***


「嘘…」


私は索敵任務中にとんでもないものを見つけてしまった…………敵空母だ!


私は一気に高度を下げる、心臓がドキドキする。


「あの甲板いっぱいの戦闘機が街に来たら」

手の震えが止まんない、早く船に戻らなきゃ…。


魔女たちは無線を持たされていない、重くなると遠くまでに行けないし、そもそも彼女等に渡す程無線機が無かった。


「雛ちゃーーーん!」

花ちゃんは手を振っていたが青ざめた私を見てすぐさま毛布を掛けてくれた。


私は震える声で空母の事を船のみんなに話した。


***


「うーん」

船長さんは難しい顔をする。


「無線打たないんですか?」

花ちゃんの問いかけに船長は答えない。


「よし決めた!」

そう言うと船長さんは何やら手紙を書きカバンいっぱいに水と乾パンをつめ私達に渡す。


「極秘任務だ、お前さん等は箒に2人乗りで基地へ向かえ、ここからなら3日の距離だ」


「あのでも無線で知らせればいいのでは?」

花ちゃんは問い掛ける。


「貴様はいちいち上官に口答えするのか!無線を使えばこちらが敵の位置を掴んだと知れる、そんなことも解らん素人がいちいち口を出すな!!」

それはあの穏和な船長ではなかった。


「すっ、すみません!艦長!!」

花ちゃんはいつもの凛々しい感じではなく怯えた様に敬礼をした。


船長さんは艦長と言った事を訂正しなかった。


***


「じゃ、行ってきます」

私達は2人で1つの箒に乗り船を起つ、私が甲板を蹴った時私より背の低い花ちゃんは前に乗ったが船長さんの方から目をそらせていた。


「花ちゃん、みんな手を振ってくれてるよ」

船員さんがみんなで見送ってくれた。


「必ず届けます…」

花ちゃんは静かにそう言って船長さんに小さく敬礼した。


船長さんもそれに答え小さな敬礼…。


「3日か…」

私は飛び続けられるか心配になった。


「3日なら、3日なら空母が本土を戦闘機の射程に入れるより早く基地へ着ける」

私は思ったやっぱり花ちゃんは凄い!私が着けるかどうかを心配してる時に花ちゃんは空母と私達と脚の早さの違いから防衛の準備が間に合うと判断したのだ。


「お国の戦闘機だってみんな落ちた訳じゃ無い筈だから相手が知らなきゃ準備が出来る」

花ちゃんは決死の思いだ。


「花ちゃん私もがんばる、絶対やりきろ」

私にも少し、少しだけ花ちゃんの勇気が移ってくれたらしかった。


ボリボリする乾パンも勇気の味がした。


***


基地へ着いた、眠る事もほとんど出来なかった私達はボロボロで既に手足の感覚も無かったが基地指令にあの手紙を渡すまでは意識はあったと思う。


「2人供ご苦労だった、君達は次の任務まで鋭気を養うがいい」

一週も寝込んでいた私達に基地指令は優しい言葉を掛けてくれた。


「あの、空母は…」

花ちゃんはそういい掛けて言葉を変える。


「あたし達の船はどうなりましたか?」

私は船の事など微塵も考えて居なかった事に気づいた。



「彼等は立派に戦ったよ…」



基地指令はそう言った、あとになって聞いた話だと基地指令はあの船長さんの息子さんらしかった、そして空母艦載機を落とす戦力なんてもう軍には無かったのだと戦後知る事になった。


あの船長さんの手紙には何と書いてあったのだろう、今は知るすべも無い。



これが私達魔女の戦争の記憶だ。


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