dolls ビビりの少年が日本人形を飼いならし、やばい化け物に立ち向かう

第一部 人形と僕

第一話 呪いの人形

怖がりな人間に、生きる資格なんてない。臆病な僕はたまにそう考える。何かに怯えることは、なんて僕の生きる道を邪魔するのだろう。幽霊みたいに姿形のないものから、病気や事故、災害すべてがとにかく恐ろしい。常にそれらによって僕の身が危険に晒されることが怖くてたまらないのだ。自分の進む先が、恐怖で埋めつくされる。そんな人生を生きることは、こわがりな僕にはきっとできない。

「行ってきます」

僕が学校に行くために家を出る時間には、家には家族の誰もいない。お母さんとお父さんは働きに出ている。少し前まで、妹が居て一緒に家を出ていたのだが、いまはもういない。

あのことがあってから、逃げるようにしてこっちに越してきた。一年と少しばかり経ったが、家族を失った悲しみが父母から消えた様子はない。僕の、まるで利己的な震えも止まらない。

道中でいろいろ考え過ぎたのか、学校についたのはホームルーム開始ギリギリになった頃だった。先生ももう来ていて、挨拶をした。席に座って、僕はシャーペンを取り出して、回す。ペンにはじゃらじゃらしたキーホルダーがついている。よく友人に気にされるが、これは僕の趣味ではない。愛香のだ。妹のだ。妹がいなくなったあと、父母は悲しんだが、僕は悲しむことができなかった。悲しんでいる余裕がなかったのだ。僕は怖くて仕方がなかった。次は、絶対に僕が消されるに違いないと、そう思って戦慄がおさまらなかったのだ。だから、これは僕が自分への戒めの為に今使っているのだ。

「ジローくん」

ホームルームが終わると彼女がやって来た。彼女はよく分からない人だった。この間の文化祭の準備の時に一言二言喋ってから、彼女はどんどん僕に話しかけるようになった。

「おはよう」

彼女は快活に一声。僕がそれに答えようとくちをもごもごさせているうちに、彼女は話はじめた。彼女の話は、こういってはなんだが、取り立てて特別なことはなかった。彼女は家族や飼い犬にまつわる話をよくした。

それから、彼女は肩を重そうにさすりながら、相談があるのだと言った。

「明日の放課後あたりに、どう?」

「今日じゃいけないの?」

僕は、彼女の珍しく真剣そうな話に興味があった。

「今日じゃいけないの」

彼女は頬を赤らめ目を泳がせた。その仕草はますます僕を期待させた。

家に戻る頃には、浮き足だった気分も落ち着いてくる。ゆっくりと玄関のドアを開くと、いつも通りの淀んだ空気が家中を揺蕩う。父と母が帰ってきていないこともいつも通りだった。このいつも通りは、一年前のあの日を境に始まって、以来ずっと変わらず続いている。

一年前、僕の妹は一体の日本人形を手にした。

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