王国首都郊外の農場付近(農道4)

 アウィスは射撃しながら、何者かの視線を感じた。


 セオリー通りならば、戦場において同じ地点から長時間連続した狙撃はしないものだ。


 どんなに条件が良い場所で巧妙にカモフラージュしていても、発砲炎、動植物の動き、そのほかもろもろが要因となり、狙撃手の位置が特定されることがある。


 それにもし、敵に戦闘経験の豊富な者や狙撃手がおれば、先にたおされた者への弾丸の射入口から射角を割り出すかもしれない。


 さらには、自分がもし狙撃するならばと逆の立場で考え、狙撃に適した地点を推測してくるかもしれない。


 熟練の〈狩人かりゅうど〉ならば、火薬の臭いから敵の位置を特定することもある。


 一発の銃弾を敵に送り込むたび、敵が自分を見つける可能性が高くなる。


 それがわかっていながら照準器をのぞき込むひとみまたたきを忘れ、指先はオートメーションの工作機械のように弾込め、発砲、排莢はいきょう、そしてまた弾込めという単調な動作を繰り返す。


 だが、〈狩人かりゅうど〉のその単調な作業のおかげでこの瞬間、確実に運命を変えられてしまう人間がいるという事実がある。


 アウィスは、そのことをいつでも照準器越しに直視していた。今も、今までも。


 アウィスは思う。このまま狙撃を続けていれば次の瞬間、自分が獲物と化し、狩られる可能性も否定できない。


 だが、あと何人の襲撃者が身をひそめているか皆目解かいもくわからないこの状況では、一瞬たりとも光学照準器から目を離せなかった。


 背筋に汗以外にも冷たい何かが走った気がした刹那せつな、視界の外のどこかで銃声が何度かひびいた。

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