王国首都郊外(とある丘1)

「ここまでだナ」


 戦闘を見守っていた若い男が、興味を失ったかのように言った。


 いまはクロウとだけ名乗なのっているが、オウル・クリスペルである。


「どうかしているぞ! あの狙撃手おとこ!!」


 小太りの中年男は、唐突とうとつに現れた軍用貨物車輌から降り立った正確無比な狙撃手スナイパー……その射撃をたりにして、狼狽ろうばいを隠さなかった。


「おい、何とかしろ! こういうときのためにやとわれているんだろ!!」


 中年の男は気色けしきばんだが、クロウはあくまで冷えきった視線を送りながら言った。


「勝手に戦端せんたんを開いて返りち、それを助けろってのは契約にないよな?」

「貴様! なんのための〈狩人かりゅうど〉だ!!」


 とぼけた表情で、興味なさそうにしていたクロウの眼光がんこうするどくなった。


「アンタ、自分が何を言っているのかわかってるんだろうナ!? 〈狩人かりゅうど〉同士のガチンコが見たいって言うのかヨ?」

「何っ!?」


 中年の男はあわてて暮れかけた農場の敷地に目をやるが、彼の目にはもうすでに彼我ひが識別しきべつすら困難だった。


「こんな狙撃スナイピング普通ただの兵隊にできるもんか、アンタも素人しろうとじゃないんだ、解るだろ・・・・?」

「しかし、このまま引き下がるわけにも……」

「そんな悠長ゆうちょうなことを言っていていいのか?」

「!?」

「相手が〈狩人かりゅうど〉だとすると、ここも危ないゼ」

「……わ、わかった。私には報告の義務がある。不本意ではあるが後退する。貴殿きでんはできる限り、見届けてくれ。頼んだぞ」


 完全に腰が引けてしまった小太りの中年男は、言葉が終わらないうちに数歩後ずさると、きびすを返して駆けだした。


 一度も振り返らなかった。


「まあ、あちらは由緒正しき〈狩人かりゅうどの血筋、言わば〈狩人かりゅうど〉の中の〈狩人かりゅうど


 こっちはただの〈狩人かりゅうどくずれの何でも屋だけどナ」


 自嘲的じちょうてきにも見える笑いを口元くちもとに浮かべたクロウは、中年の男の背中が見えなくなると、ストラップで肩からつるしていた狙撃銃スナイパーライフルを手にした。


 そして、腹這はらば伏射ふくしゃ姿勢しせいになると、右手の革手袋かわてぶくろを外した。

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