夜も寝静まった〈もり〉の小道、旅装りょそう背嚢はいのうという姿の兄弟子の前にアウィスが立った。


「行くのか?」

「ああ」

「あの娘、軽傷だというし、もし、あの場所にいたのが俺だったらお前ほどうまくやれなかっただろう。オウル、お前はみんなを救ったんだ。あの娘のことも」


 アウィスは不穏分子ふおんぶんしの潜伏場所だった集合住宅の一室で、少女を撃たなければならなかったオウルの心情をおもんばかった。


「今回のことだけじゃねぇヨ。俺はもう十分にやるべきことはやってきたゼ。たねき、ひとつひとつでもやるべきことを片付かたづけて行けば、きっといつか収穫しゅうかくするときが来ると信じてナ。そろそろ、その果実かじつを収穫してもいい頃合ころあいだってことサ」

「……」

「外の世界じゃあ、勝ち組とか負け組とか言ってるみてえだが、俺はんなこたあ知ったこっちゃねーんだ。ただな、〈もり〉の人間が王国のために使い捨てになるようなことはあっちゃあなんねーし、少なくとも俺はならねぇ……間違ってもナ」

「たしかに王国も一枚岩とはいかない。だが、組織は大きくなれば多かれ少なかれそういうものだとお師匠も言っていた。それに、〈もり〉を出てどうする?」

「〈もり〉にささげるとちかったこの〈狩人かりゅうど〉の生命いのちいっこ、〈もり〉のためにくれてやるのはやぶさかじゃねぇが……お前、王国のために死ねるか? アウィス」

「……」

「そういうことだヨ。オマエも、心情を曲げるようなことは決してするなヨ。それが例え愛する者のためであってもナ。それをたがえれば、必ずいを残すことになるゼ。そして、そのいはやがておのれむしばむようになる。いちど選び取ったのならその信念をつらぬくしかない。最期さいご瞬間ときまでナ。それが〈狩人かりゅうど〉の宿命しゅくめいだ。運命は他人にゆだねず、おのれの手で切りひらく。それが〈狩人かりゅうど〉ってもんだろ?」


 アウィスは最初からわかっていた。オウルがこうと決めたら、アウィスでもくつがえすことはできない。


「心配しなさんな。俺がやることは今までと変わらねぇヨ。ただ、それが〈もり〉の内からなのか外からなのかって違いだけサ。まあ、オマエは今まで通りなかからやんな。オマエが〈もり〉にいれば安心だ。セレスを頼んだゼ。ついでにリロのこともナ」

わかった」


 アウィスは兄弟子の後ろ姿を見送りながら「まあ、ながの別れというわけでもないしな……」とつぶやきいた。


 自分のかんはよく当たるしな、と思いながら。

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