狩人の血脈

王国首都郊外の農道（軍用貨物車輌内）

　土（カーキ）色をした王国陸軍のトラックが、農道を走っている。運転しているのは陸軍工廠（りくぐんこうしょう）所属の兵士で中央にはマンハイム技師長、その横にはアウィスが位置している。

　アウィスは股（また）の間に、自分の商売道具である狙撃銃を銃口を上にして抱えている。

　幌（ほろ）で見えないが荷台には例の試作銃（本来なら砲と呼ぶべき口径の代物（しろもの）だが、運用上、陸軍工廠（りくぐんこうしょう）では銃と称している）が固定されている。

　荷台には工廠所属（こうしょうしょぞく）の兵士たちが、積み荷を囲むように展開された簡易シートに腰掛（こしか）けている。

　ずいぶん前から舗装路（ほそうろ）は終わってしまっており、時折（ときおり）、トラックがガタガタと揺（ゆ）れている。

　この辺（あた）りは農道といっても、街の人々が想像するようなのどかな代物（しろもの）ではなくなっている。舗装はされていないが、大型車輌（おおがたしゃりょう）がすれ違えるだけの幅が確保されている。

　有事（ゆうじ）に戦闘車輌（せんとうしゃりょう）が往来（おうらい）することが想定されているし、事実そういったことが歴史上すでに何度かあった。

「そうかい、アンタその若さで〈狩人（かりゅうど）〉なのかい。よくは知らねえが、〈狩人（かりゅうど）〉っていやあ、〈杜（もり）〉の〈防人（さきもり）〉の中でも、選《え）りすぐりのエリート中のエリートなんだろ？　どうりでなあ」

　アウィスは、〈杜（もり）〉でいう〈狩人（かりゅうど）〉とは職業ではなく、いわば生き方であり……この国でいうところの猟師（ハンター）という職業とは同義（どうぎ）ではないので、選ばれるとかそういうものではないのだが……。

　そう思いながらも、揺（ゆ）れる軍用トラックのシート上で相手を納得させるべく弁舌（べんぜつ）をふるうことの困難さを思い黙（だま）っていた。

　そのときまた、タイヤが路面の凹凸（おうとつ）をひろって軍用トラックが大きく揺れた。

「クソッ！　舌を噛（か）んじまうゼ。〈農場（ファーム）〉ってのはまだなのかよ!?」

　マンハイム技師長が堪（たま）らず、横で運転している兵士に怒鳴（どな）った。