王国空軍輸送機(操縦席)
前方を見つめる王国空軍飛行服姿の中年男が、右手で
最近、視力の
何百回、いや、何千回とアプローチした馴染みの滑走路なのだが……。
「
「了解。受け取ります」
機長の言葉に、副操縦士が急速に暗闇が忍び寄りつつある眼下の地形から目を離すことなく簡潔に応じる。その声は若い女性のものだった。
輸送機、爆撃機など大型機向けの飛行服は戦闘機、攻撃機など小型機向けの物と違って、さほど
それでも、副操縦士のほっそりとした
コントロールを受け取った副操縦士、レティシア・ヴァルシュタット王国空軍少尉は、ぐんぐんと近付いてくる滑走路を見つめる。
気を
レティシアが、両手で握っていた
この機の並列復座は、左に位置する機長席、右の副操縦士席それぞれに操縦桿があるが、スロットルレバーは二つの席に
落ち着き払った、レティシアの動作を横目で見た機長の口元が
レティシアは機体が横風に流されないよう、操縦桿を右手だけで強く固定しながら、ラダーペダルと左右エンジンのスロットル調整で横に流れる機体を少し風上に向ける。
そして、機首を
さらにレティシアは、
そして、
ひと仕事終えたレティシアが、機体を駐機位置に運ぼうとラダーを踏み込もうとしたとき、ベレー帽を被った王国陸軍士官が
「機長! お見事でした!!」
満面の笑みを機長に向け、右手を差し出し握手を求める。
「俺じゃあなくてね」
機長はいたずらっぽく笑いながらレティシアのほうへあごをしゃくったが、事態を理解できずに陸軍士官の右手が
「お
レティシアは、凍り付いた場の空気を
が、一度口に出してしまったセリフはもうどうしようもない。
満面の作り笑いを浮かべ、副操縦席から身体をひねってしゃちほこばった敬礼をした後、あっけにとられている陸軍士官の右手を取り、ぎこちない握手を交わした。
その姿は、まるで
そんな部下のまじめくさった態度と、陸軍士官の引きつった笑顔とを見比べた機長は、笑いをかみ殺すのに苦労することとなった。
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