二十六、お背中流しましょう
ロウが呪いにかかってるなんて……。つくづくこの世界は異世界なんだなと思った。
「呪い……なんか怖いね」
「うん。だからそれを解きたいって思ってるんだ」
「ちなみにその呪いってどんなの?」
「本来の力が大きく削がれる呪いなんだ」
「力が……」
力って腕力だけのことじゃないよね? きっと魔力とか足の速さとか、そういうのも本来よりも弱まってるってことなんだろうな。ロウ、大変じゃん……。
そう言えばロウの髪の毛や体のあちこちが、まだ血や土埃で汚れている。お風呂で体を洗ってあげたほうがいいかもしれない。
「ねえ、ロウ。一緒にお風呂に入るよ」
「えっ!? やっ、それはっ」
なんだかロウがすごく狼狽えている。恥ずかしがるロウが不思議で思わず首を傾げてしまった。
恥ずかしいのかな? こんなに幼い子と一緒にお風呂に入っても、私は別に恥ずかしくないんだけど。私なんて七才までお父さんと一緒にお風呂に入ってたのに。背中とかも汚れていそうだし、洗ったほうがいい。
「何遠慮してるの。いいから入ろう」
「駄目、恥ずかしいからっ」
「大丈夫。お母さんに洗ってもらってると思えばいいよ」
「ええっ!? ちょ、ちょっと!?」
悪あがきするロウを強引に洗面所へ連れていき、全身の衣服を剥いで包帯を外した。ロウは体の中心を両手で隠して真っ赤になっている。……ロウの尊厳を守るためにそこだけは自分で洗ってもらうことにしよう。
私も全部脱いで一緒に浴室に入った。ロウは思いっきり顔を背けている。浴槽にお湯を張りながらロウの体にシャワーをかける。
「ちゃんと足元を見ないと危ないよ。ほら、こっちを向いて」
「うう……」
タオルに石鹸を付けてよく泡立ててロウの体を擦る。やっぱり結構汚れているみたいだ。
ときどきお湯で泡を流しながら血の塊を取り除いていく。傷はもう残っていない。ちゃんと治ったようだ。
「バンザイして」
「いいっ。僕もう自分で洗えるからっ」
「そう? まあ背中はもう洗ったからいっか。それじゃ私は自分の体を洗うね」
「う、うん」
本当に恥ずかしいみたいで、ロウが真っ赤になって背中を向けてしまった。六才の男の子ってそんなだっけ? まだ余裕でお母さんとお風呂に入っていそうだけど。
最後に二人で浴槽に浸かっている間もロウは真っ赤になってずっと俯いていた。そんなロウを見て、ちょっと可哀想なことをしたかなと反省した。
お風呂からあがったあと、ロウの体をタオルで拭いてあげた。本来の色を取り戻したロウの鈍色の髪は艶々としてとても綺麗だ。風邪をひかないようにちゃんと拭かないと。
そしてロウに私のピンクのパジャマの上のシャツを着せることにした。ロウの小さな体では、私のシャツの裾が膝小僧の下の長さにまでなった。
(ロウの服も買いにいかないといけないな)
ロウの服は凄く汚れていた。汚れた服を洗濯籠に突っ込んだあとに、ロウを寝室へ連れていく。ベッドに横になったロウに布団を掛けながら話しかける。
「さあ、まだ体力は回復してないんだから、今日くらいはちゃんと横になってて。夕食はここに持ってくるから」
「僕もう結構元気なんだけどな……」
「体力が落ちてるときに無理をして風邪でも引いたら大変だよ。ゆっくり休みな」
「うん、分かった……ありがとう、ウメ」
横たわるロウの傍に座りながら考え込んでしまう。病気も怪我も軽んじたら絶対に駄目だ。どんなに元気に見えたってお母さんみたいに……。
頭によぎった懐かしい笑顔を振り払うように首を左右に振る。危ない危ない、うっかり弱気になってしまった。そんな私を見たロウが突然話しかけてきた。
「ねえ、ウメはこの国の生まれじゃないんだよね?」
「あ、うん」
「ウメはどこの国の人なの?」
別に隠すようなことでもないし、一緒に暮らすなら異世界の知識をいっぱい見せることになる。どうせ誤魔化しきれないだろうな。
うーん、何から話そうか……。
「うんと、私はね……」
私はベッドに横になったロウに向かって話し始めた。
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すきま家 ~甘いもの、はじめました~ 春野こもも @yamadakomomo
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