廃ゲーマーですが、運動音痴なのでVRはキツかったです。

水無月 驟雨

二科虹架のプロローグ

 二科家の呼び鈴が鳴り、「宅配便でーす」と聞こえた。

 本当に言う人いるんだ……と、ある意味お馴染みの全く馴染んで無いお兄さんの声に苦笑しつつ私は扉を開けた。


 お兄さんの脇に抱えられた荷物の存在を見つけると、私は喜びで飛び跳ねそうになるのを必死にこらえる。さすがに子供すぎるか。でも実際そんな気分だった。


「ついに……届いたっ!」


 判を押し、部屋にも戻らず急いでダンボールを──かなり手こずりながら──開けてそれ・ ・を引っ張り出した。


 出てきたのはゲームのパッケージだ。空に浮いた大陸の上で、剣や杖をかざした数人の少年少女が映っている。ゲームなので、当然彼らの髪色や服装もファンタジーチックなのだけれど。パッケージには、『ミソロジー・オンライン』と書いてある。


 ゲームのカセットを取り出して、入れるためのゲーム機本体を持ってくる。というか今日この時の為に玄関横に置いてあるそれは、王冠の形をした機械。ちょうど大きさも王冠ぐらい。


 これはVRと言って、詳しいことはよく分からないけど、なんとゲームの中に入れるのよ!


 これでシューティングゲームした事あるんだけど、臨場感がすごいのよ。大げさだって? いやいや。迫るゾンビの圧が……。


 てな訳ですごいんだけど、すごいけど〜。この機械せめてもっと可愛い見た目にして欲しいなぁ。これ無骨過ぎて。


 ネットじゃデコってる人もいるらしいけど、私にはそんなセンスないしなぁ……。


 まぁ悩んでも無いものは無いし。気を取り直して、ゲームを始め……あ、自己紹介してなかったね。



 私は二科虹架。この近くの中学に通っていて兄が一人いる。うん、普通だよね?



 けれど、一つだけ普通じゃないことがあってですねぇ。


 それは、私がいろんなゲームで名を馳せるゲーマーってこと! すごいでしょ!


 ──確か小学生の頃に、友達に進められて携帯ゲーム機を買ってもらって、一緒に遊んでたんだ。


 元々性格が明るくないから、隅で読書してるような子だったし。だから共通の話題ができて、休憩時間にも友達と話して盛り上がれたり、帰ったらすぐゲームしたりですごくやり込んでて、もうハマっちゃって。


 初めの頃はステラトジーゲームが得意だったんだけど、中学に上がったくらいからなんか覚醒してさ。いろんなゲームで上位に入ったり、有名になって、世界大会に誘われたりしたのよ。なんか見世物みたいだからお断りしますって結局行かなかったんだけどね。


 そこは元が暗いから許してよ。


 断ったから殺されないかなって心配しながら返答を待ったときもあったね。電話の相手がカタコトの日本語を話す外国人で、正直頭ごなしに否定できなかったのよねー─────暗殺の可能性。



 賞金欲しかったけど優勝はさすがに無理だしさぁ………。やっぱ恥ずかしいよ。





 ところで、私は赤が一番好きなんだけど、青や黄色、緑に紫、もちろんピンクとオレンジも、詰まり虹色が好きで。名前も虹架だし。


 ゲームでは『RAINBOWレ イ ン ボ ウ』、つまり「虹」って名前でプレイしてたんだ。キャラも、髪の色とかほぼ必ずレインボーだったし、たまに装備なんかは能力度外視でカラフルにするときもあったんだ。


 結構(見た目のせいもあるのかな?)有名になったもので、この前は「ファンです!」って言ってる人たちに町で(もちろんゲームの)囲まれて大変だったんだよ。サインとか。フレンド登録とか。一緒にボス倒して下さいって人もいたなぁ。


 自分にファンがいるって云うのは嬉しいし、ちやほやされるのも嫌じゃないんだけどね? でもなんか───恥ずかしいっていうか怖いっていうかで、やっぱり私は一人のとか、気心の知れた仲間の方が良いなってさ。


 あ、で、これこれ。『ミソロジー・オンライン』。通称『MLO』。


 VRって、ゲームの中に入って自分で動かすのだけど、私体育とか運動ってかなり苦手で。運動神経無いんだ。だからこれまでシューティングゲームだけだったんだけど、友達に誘われてRPGをしてみようかって話になったの。


 けど後からスタートで遅れを取るなんて嫌だったから、新発売のこのゲームにしたってわけ。

 不覚にも配達日を間違えてしまって、このゲーム配信開始が昨日の昼からだったんだよぉ。今が学校の放課後だからもう一日以上遅れてるんだよぉ? これ以上の遅れは許さん……!





 おっと地が。





 というわけですので、今日からまたお母さんにゲームのし過ぎを怒られながらのゲーム三昧日々なのです!


「虹架〜? まだ〜?」


 おっといけない。このゲームMLOを一緒にしようよって誘ってきた友達を家に呼んでいたのを忘れてました。


「はーい! 今いくー!」


 カセットを入れたヘッドギアを持って、ダンボールは捨て置いて階段を登り私の部屋へ。紹介しよう。この人が私の友達の──。


 そこでは、ストレートの亜麻色の髪を揺らしながら振り向く友達、福原伊月が───私のタンスを弄っていた。


「え?────────────────え?」


 二回疑問符が口から出た。でもそのくらい硬直した。


 硬直する私を放置して伊月は何事も無かった風にこちらへ駆けてきた。


「イヤー。コレデヤットハジメラレルネ。ウンヨカッタネ」


 訂正。全然顔と科白に出てる。え? 何これ怖い。


 伊月はいそいそと自分のハードギアを取り出して装着、私のベッドに詰めて寝転び、横を叩く。


「ほ、ほらー、早く行くよ? さっさとしなきゃ攻略組に置いてかれるよ?」


 うん。もうさっきの件はどうだっていいや。私は見ていない。攻略大事。







 私も装着して伊月の横に寝転び、同時に仮世界へ飛び込んでいった。





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