キャラメイク


 視界が真っ白に覆われ、体の感覚が無くなっていく。


 初めてVRを体験したときはかなりびっくりしたけれど、もう飽きるほど体感した感覚。


 真っ白な部屋で脱力して身を委ねていると、目の前の空間が歪んでホロウインドウ、その奥にNPCが一人現れる。


 なんか見た目とか服が神々しいっていうか……女神っぽいひとNPCだな。


「ようこそ、『MLO』の世界へ。ここではまずキャラクターメイクと、その他の設定をする場所でございます」


 キャラクターメイク、と聞いて、私の心には不安が渦巻く。名前と見た目について、前々から考えていたことがあって……


「それでは、まずお名前を入力して下さい」


 私は、『RAINBOW』の「R」のところに指を──




「───はい。『ARCHア ー チ』さんですね。分かりました」




 運ばなかった。




 どうしていつもの名前にしなかったのかというと、さっき話した通り、『RAINBOWレ イ ン ボ ウ』では有名過ぎてのびのびプレイができないということが理由になる。嫌味になるかもしれないし、贅沢な悩みだけど、これで結構大事なことなんですよ。


 プレッシャーというか重圧というか、下手なプレイは出来ないし、やっぱ「あのレインボウが運動音痴だったなんて!」って言われたくないし。


 私って運動能力がホント壊滅的だから。お兄ちゃんは滅茶苦茶運動出来るんだよ。体育いっつも評価五だし、あれで帰宅部なんだから、何か部活に入れば良いのに。そんなのやってられる場合じゃないとは解ってるけどさ……。


 話がズレたね。………とにかく、そんな運動音痴がレインボウを名乗ってコケたりした日には。


 ………それはもうレインボウへの営業妨害だよね。


 自意識過剰と言われればそうなんだけど、ちょっと、いや、かなり気になる。


 ──っていう訳でこのゲームでの私の名前は今日から『ARCH』、アーチちゃんです。単純だと思うのだけれど、虹はアーチを描いているから、そんな理由ですよねー。


「次に、キャラクターの見た目を決めて下さい」



 来たか、見た目設定……。



 名前は変えても見た目がそのままでは意味がないので、見た目もカラフルを卒業します!


 見ると、プレイに支障を来すらしいので身長はいじらない方が良いらしい。性別は論外、体重はゲーム内の筋力値によって体感が変わるので変えても意味なし、………らしい。とはby女神さん。


 優秀だなぁ、頭変えてほしい……ルックスも。


 というかこれってさ…………


「──ち。胸の大きさはいじれないのかぁ」


 自分でも結構悪いことを言っている自覚はあります。スミマセン運営さん。


 自分がある・ ・方だという自覚はあるんだけれども(なんなら友達が言ってくる)、伊月が私なんか目じゃないくらいある・ ・からちょっと基準がね。


 話がずれたけど、見た目です。カラフルにしたいけどNGです。どうしよっかなー。


 赤は決定。一番好きな色だから。あとは、できるだけカラフルから遠ざけてバレないようにしたいのだけど……


 カラフルじゃない。


 →華やかじゃない。


 →明るくない。


 =暗い?


 暗い! 黒だ!

 できるだけ黒を基調として、あとは赤で良いかな。



 ────よし!




 そんなこんなで見た目設定を終わらせると、NPCさんが、


「次に、あなただけのスキルの抽選を行います」


 一瞬消えたNPCさん。再度パっと現れると、くじ引きに使う様な箱を持っていた。


 お?……あ。パッケージに書いてあったよね。



 このMLOでは、一人一つ、ユニークスキルが貰えるらしいんだけど──まさかこんな雑な選び方だとは。


 ユニークというだけあって、このスキルは他人と絶対被らないらしい。ただ、公式サイトには、「互換性のあるスキルも多々あるので一応ご理解を」とだけ書いてあった。まぁ充分かな。


 このユニークスキルは、確かスキルの文字数が多い程強いらしい。最低一文字で最高六文字だったはずだけど、何でも六文字スキルは全プレイヤーの中で五人しか手に入らない───つまり五つしかないのだとか。


 このゲームはリセマラは出来ない仕様になっていて、一度決めたら、スキルを変える為には課金が──千円必要らしい。


 まぁ課金なんてしない主義なので妥協して行きますけどね。


 くじ引きの箱に手を入れる。たくさんの紙の触感がする。因みに覗きはできないようになっている。


 シーフとかヒーラー、ウィザードの補助とかになるようなスキルが欲しいな。


 ………運動苦手だからね。


 というか、こういうのはフィーリングが大事だしさ、悩んでても仕方ない。




「じゃ、─────────────これで!」




 取り出した紙片は折りたたんであって直ぐには分からない。む……いらんとこで丁寧な奴め……


 面倒だけど、四つ折りになっていた紙片を開いて、中を見る前に一つ深呼吸する。




「…………来い! ───?」



 私が取り出した紙には、機械文字じゃなくて無駄に達筆な筆字で───そのせいで一瞬読めなかった───こう書いてあった。






       【双独所持者double player




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