第6話

 涼太のいる廃都市は前の時のように相変わらずの不気味さがある。そして、すでに決闘は始まっていていつ襲ってきてもおかしくない状況だった。物音は自分の歩いている足音のみでそれが余計に不気味さを感じさせてしまう。すでにテストでこの雰囲気は経験しているのだが簡単に慣れるものではない。ここまで人工的に再現出来てしまうのかと考えるとこの電脳世界もしくは仮想世界を創り上げている人間は恐ろしいと誰もが思うに違いない。涼太は一丁の拳銃をに持ち、構えながら廃都市の中を歩いている。真田が今、どこに隠れているか掴めない状況にいる。そして、摩天楼のような高層ビルの天辺に人影が立っていて、先が尖っている槍のような武器を持っている。真田の眼下には涼太の歩いている様子をハッキリと捉えていた。


「君のような人間はここにいてはいけない。僕が勝って、消えてもらう!」


真田はそこから涼太をめがけて、槍の武器と共に飛び降りた。現実なら確実に失神しお陀仏になるだろうがこの世界ではそれは無い。


「!?」


上から急にかすかな音がしたので上を見上げると、人が槍を持って、自分の所に落ちてくるのに気づいた。落ちてくるスピードは速かったがギリギリの距離でとっさに避けることが出来た。しかし、とっさだったので転んでしまうような形になってしまった。


「惜しかった。残念!」


バン


真田がそう言うと一発の銃声が鳴り響いた。涼太が転んだ状態で真田に引き金を引いたのがわかる。涼太の銃弾はかする程度に終わった。


「その体勢でやるなんて、初心者なのに」


「お前ごときにやられるなんてありえねぇーよ!」


槍が地面に当たり刃先が砕けたのでその辺に捨て、新たな槍を真田の手に発現させた。


「ここでは僕が上だということ君にわからせるから」


「むきになってんなー。お前!」


「当たり前だよ。君に消えて貰いたくてしょうが無いんだ。」


そして、真田は槍を転んでいる涼太に向ける。さらに、会話を続ける。


「今まで散々、君達は僕たちを・・・ぼくたちを・・・オタクだからってバカにして僕や僕の友達を傷つけてきた。去年はそれで、僕の友達が・・・」


真田の言葉が詰まり、思いが浮かんでいる様子だったが心の整理をしたのか次の言葉が出る。


「死んでしまったんだ。君達が・・・」


転んでいた涼太が立ち上がり、喋り始める。


「俺たちが殺したと言いてんだろーが。言いがかりだぜ。あいつが勝手に死んだだけだろ」


真田がそれを聞いた瞬間、睨み。すばやく、首の手前に突きつける。と同時に涼太も真田に銃口を向ける。


「そうだよ。僕が助ける力が無かったから。それが悔しくて。だから、強くなるため、この世界に来たんだ。君と覚悟が違うんだよ!」


「へぇー。そうかよ。でも、お前はリアルじゃ大したことない」


「これ以上、僕たちをイジメるならリアルでお前達を懲らしめるつもりだったけど。ちょうどここに代表の君が来た。だから、この決闘を先輩から大佐に許可を願い出たんだ」


真田にとっては復讐場になっていた。すると、涼太が銃口を下に向けて、引き金を引く。真田にうまく反射して腕に当たりHPが削られた


「ああ。お前がそういうつもりなら、まずはここで決着をつけようぜ!記憶を消されるなんて冗談じゃねーから!」


「僕が勝って、君がここの記憶が消えた後でも、リアルでも君と決着をつける」


そして、真田は速いスピードでビルを駆け上がっていく。それに対して、銃弾を数発放っていくが当たらない。


「あれ。俺もやってみるか」


涼太も試しに移動スピードを上げて、ビルを駆け上がり、真田を追いかける。その様子を外の大きな画面のホログラムで早乙女は観戦していた。


「入りたてであそこまで出来るなんて、ソルジャーとしての才能があるってこと?私でもすぐには・・・」


真田も追いかけてくるのは予想外だったが駆け上がっている状態でそこから一気に向きを変え攻撃に転じようとしていた。駆け上がる時と比べて勢いよく下がっていく。涼太に一直線に向かって槍を突き刺そうと狙っている。


「まずっ!」


とっさにビル窓に銃弾でヒビを入れ、身体ごと窓に突っ込み、中へ回避した。その時に、HPが少し減ってしまった。


「逃さないよ!」


真田も後に続き涼太の割った窓からビルの中に入っていくと中の様子は天井のライトが点いていないので基本暗い雰囲気だった。しかし、何も見えないというわけではなく、外の明かりである程度は見える状態になっている。真田は近くに隠れていると思い、気配を探る。


バン


銃弾が真田の近くまで飛んできたのがわかる音だった。とっさに近くにある荷物の後ろに隠れる。


「近い。居るな。窓際に」


真反対にいるドア付近にいる涼太も真田が追ってきたのがわかり、外の廊下につづくドアのある方にすばやく移動して、真田のいる方向に引き金を引いた。足音がしたので隠れたことがわかる。真田が何か仕掛けてくる気配が無い。


(俺が仕掛けるのを待ってるんだろうな)


お互いにらみ合いが続いて、しばらく経つと、しびれを切らした涼太が動く。


「いるのは知ってんだ。外でけりつけてやるからよ」


大きな声で言うが反応は無い。聞こえてないはずはないのでとりあえずドアを出ようとしたその瞬間に相手はアクションを起こした。


「この瞬間を待ってたんだよ。君が背を向ける瞬間を!」


涼太が廊下に出る時にドアから出る時に背を向けたのを確認し、フルスピードで距離を詰め、真田の握っている槍で仕留めようとする。


「ちっ!お前みたいのがこんなことをするなんて意外だぜ」


涼太は後ろに振り向き、銃弾をすぐに放つ。銃弾は真田にヒットするが止まらず、突撃してくる勢いで次の引き金を引こうとするが弾切れだった。


「負けんのかよ。この俺が!」


「そうだ。君はここで負けて僕たちの痛みを知ってもらう!」


真田の涼太に向けた言葉は自分が勝利を確信したからでた言葉だった。


「お前がここまでやるなんて、意外に雑魚じゃないってことはよくわかった。でもなぁー、だからこそ・・・」


涼太は銃を捨て、ある武器を発現させる。それを見て、真田は驚いてしまう。


「それは!何で!」


「お前の捨てた奴さぁ!」


もっていたのは真田が捨てた刃先が砕けた槍で、涼太は密かに使えない武器を回収していた。そして、それで一撃を決めるとする。攻撃性は本来と比べて低いがさっきの銃弾のダメージがあるので、期待は出来るという涼太の戦略。鋭利な刃と砕けた刃が相手の身体にグサッと突き刺さると、互いのHPが下がっていく。しかし、お互い刺さった状態でも拳で殴ろうとする。


「二人共、そこまでだ。これ以上は俺が許さない」


二人の前に新藤が突如として現れる。二人の拳は新藤の両手の甲で止められる。さらに景色も変わり何も無い訓練場の様子に戻る。


「処置のプログラムを二人に」


それからAIのミシナが現れ、HPの回復を施すプログラムを実行し、元に戻っていく。


「この勝負は引き分け。二人共、残留とする。これは命令だ。異論は認めない。真田君と早乙女さんは彼の力がわかったはず」


「大佐の言う通り、受け入れます。真田君はいい?」


「まぁー、何となくわかりました。しばらく様子を見ます」


ミシナの後に続いて早乙女も向こうからやってきて、真田を介抱している。そして、新藤の命令をこの決闘を見て納得した。


「けじめとして三人は一週間の謹慎処分だ。仲間同士で個人的な感情で決闘をしたんだ。それを助長した早乙女君もだ。いいな?」


時間も丁度きたのでダイブ終了となる。三人は地下から地上へ上がる為のエレベータの中で無言だった。エレベータの扉が開くと、夜になっていることがわかった。


「これからよろしく頼むぜ!二人共」


「それは君、次第じゃない」


「そうですね!先輩。それに君のことをまだ許したわけじゃないから」


防衛省の施設から外に出て、門へ向う途中に明らかに場違いで綺羅びやかな格好をした女性が門の方向から歩いてくるのに気づいた三人。


「仕事用で来ちゃったわね。本当は普段着で来るつもりだったけど夜だから、ついクセが出ちゃう!」


そして、女性とすれ違うと、涼太と真田は釘付けになってしまう。それほど、濃いめのメイクはしているものの格好に相応の顔がきれいに整っている印象だった。三人は後ろを振り向いて、女性が施設内に入っていくのを見る。


「すげぇー、きれだけど。あのビッチなねえさんはここに何しに来たんだろう?」


「夜の人ぽっいわね。どうせロクでも無いし、住む世界が違うわ!」


「さぁー、早く帰らないと。夜に高校生が出歩くのはよくないですから。先輩」


三人は門で退出の手続きをして、門の外に出る。夜なので別れを言って、それぞれタクシーに乗って帰っていく。そして、一週間の謹慎が過ぎて三人共、あの世界へ意識をダイブしヴァーチャル・ソルジャーとして戦いに身を投じていく日々が始まるのだった。

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ヴァーチャル・ソルジャー 悠霧 @yugiri23

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