第5話

女性は新藤から新人の後輩を紹介すると言われ、着いていく。ノーマルトーラスにワープ移動すると目を瞑ってくれと言われたのでその通りにした。そして、指示通りにゆっくりと目を開いていくと自分のよく知る人物だった。彼女は一気に最悪な気分に変わり、こんなこと絶対あるはずないと思っていた。しかし、目の前のことは仮想世界なのだが現実の出来事だった。


「大佐!何でこんな奴がここにいるんですか?もしかして・・・ありえない。即刻、記憶を消してクビにしてください!ここにいてはいけない人間です!」


涼太を指さして、声を張り上げながら感情的に言った。新藤も普段の彼女とは違い、感情的だったので驚く。いつもの彼女は冷静で論理的で氷のような雰囲気をだからだ。


「早乙女君。落ち着きなさい!君らしくもない。彼とは同じ学校であることはもちろん彼の学校での素行についても事前に理解している。それを踏まえて、彼をここに向かい入れた」


「私も納得出来ないし、真田君だって・・・」


涼太は目の前の女性をよく知っている。あの冷たい雰囲気の生徒会長の早乙女であることがわかった。学校の時と違いいきなり声を張り上げて、指を指してくる。思わず心の中でビックリするほど意外だった。それとどっかで聞き覚えのある名前があった。


「真田・・・。どっかで聞いたな!」


そう言うと思いっきり、涼太を睨んでくる。あの冷たい視線とは違う。


「自分がイジメている同級生の名前も知らないなんて。本当にふざけてる!こんな男と一緒に戦うなんて不可能よ」


「真田って言うのか。あいつ。イジメてねぇーけど」


そう言うと早乙女は刀を取り出し、抜き始めた。新藤は二人のやり取りに今まで割ってアイれなかった。早乙女の感情が久しぶりに剥き出しになったのを目の当たりにしたからだった。


「よせ。早乙女。それは許されない!」


新藤が早乙女に睨みを利かせると雰囲気が落ち着く。


「今の君だと、瞬殺だよ!」


「ああ。そうかもな」


涼太は早乙女の醸し出す殺気に近い、怒りの雰囲気などを感じた。


「あいつ、いるのか。今」


涼太は突然、この空間に今、真田がいるかどうか聞く。


「なんで?」


早乙女が疑問を聞くと涼太は表情をニヤッとする。


「楽しいことしたいからさ。それに聞きたいこともあるしなぁー」


「学校みたいに行かないわよ。この世界での真田君はあなたより強い」


早乙女はホログラムの画面を出し、二回ぐらいタップすると、一分もしない内に突如として喋り始めた。


「もしもし。私よ!今どこ・・・そう。それでビックリするかもしれないけど・・・」


誰かと会話している早乙女。それを見ていた涼太は新藤から話かけられる。


「あれはわかっての通り、電話をしている。現実のように受話器のような機器は必要としない。今、相手の会話が聞こえないのはプライベート設定にしているからだろう。相手は真田君」


「あいつ」


そして、早乙女が話をしていて、こちらをちょくちょく見てくる。


「・・・やるのね。わかったわ。そっちに連れていくわ!」


ホログラムの画面を一回タップして、通信が終わった。涼太は何を話していたのか気になる。


「今から真田君のいるところに行くから。彼もちょうどミッションが終わったところだったらしいから。それと彼から話があるそうよ!」


「ふざけんな。何で俺からあいつのところに行かなくちゃいけないんだ!」


涼太がそう言うと、早乙女は涼太の首筋に刀を突きつけた。


「黙りなさい!」


氷の視線で涼太を見る早乙女。逆らえば許さないという無言の圧迫感が涼太に伝わってきた。


「やってみろ!どうせ、ゲームだからな!」


「いいえ。死ぬわよ。今、このまま私があなたの首を突き刺したら」


涼太はどうせ脅しだろうと思っていたが、大佐の反応を見ると嘘ではないらしいと悟り、意識がフリーズする。


「正確にはHPが0になると意識はデリートされるが、意識の器である肉体が残る。そこに新たな別の意識が入り込む。つまり、君であって君ではない。今の君は死ぬってことだ!」


涼太はその時、唾を飲み込むことが出来なかった。


「今から訓練場のあるトーラスに移動するわ。大佐よろしいですね」


指揮官である新藤の許可を得る早乙女。自分たちの上官の頭越しに勝手な行動は取らないという心得はある。


「わかった。一連のことを許可する。だが、責任はとってもらうが」


早乙女と真田がこれからすることもわかって、総合的に判断してのことである


「ありがとうございます。大佐」


涼太達は訓練場のあるトーラスに移動する。その間、涼太は沈黙している。


(マジかよ。どっかのゲームじゃねぇんだから)


別のトーラスに移動するためのポータルゲートに着く。仮想世界なのだから都合よく移動出来ないのかという疑問が浮かんでくる。それは限りなく高位レベルのソルジャーのみに権限が付与される。涼太達はそこまで達していないのでまだ使うことが出来ない。


ポータルゲートはエレベータのような扉の中に入り、移動するようになっていた。そして、中に入り、新藤が操作をするとやがて扉は閉まり、ノーマルトーラスの景色は見えなくる。その間にも早乙女は涼太に冷たい視線を向けていて、それを感じていた。すぐにも扉が開き、景色が再び見えてくる。基本的には色の基調なども同じ見えるが所々違っていた。


「宍倉君。訓練場があるマルチトーラスだ。このテリトリーでも複合的な場所でノーマルトーラスよりも重要性が高い」


そして、訓練場のある所まで連れてこられた。その訓練場とは広場のようなところになっており、向こう側に一人立っている人物がいた。


「真田君、連れてきたわ」


早乙女が真田の方に行って、告げる。新藤とAI347は見守っていた。


「お前みたいな奴がこんな怖ぇー所にいるなんて、意外だぜ!」


新学期の日に涼太がちょっかいを出していたオタクたちの一人である。


「それはこっちにセリフと言いたいよ。君みたいな嫌がらせする奴が僕たちと同じソルジャーとして入ってくるなんて、何かの間違いAIのバグかとおもったよ!」


「残念ながらそれではない」


遠くから見守っていた新藤がこちらに近づいてきて、否定した。


「学校と違ってよくしゃべんなぁー。ゲーム弁慶って奴か。お前?調子に乗るな!」


「うるさいなぁー、君。君とだらだら話す気は無いよ。正直、言ってここから出ていってもらいたい。君はいて欲しくないんだ!」


「はぁー。好き勝手いってんじゃねーぞ。てめぇー!」


涼太は真田からいろいろとハッキリと言われ、ピキってきていた。真田の言葉をまとめると「不愉快」であると。


「黙りなさい。今は真田君の話を聞きなさい!」


早乙女は刀先を再び涼太に突きつけ、落ち着くとすぐにしまう。真田が話を続けようとする。


「そこでどっちがこの世界を出ていくか一対一で勝負して欲しい?」


「お前、度胸あんな。いいぜ!やろうぜ!こんな所を知って、記憶を消されるなんて冗談じゃねぇーよ!」


新藤を見るとホログラムを何やら操作している。すると訓練場の広場の様子が変わっていく。


「あの時に似てるじゃねぇーか!」


変化して現れたのは荒涼とした廃都市で、涼太はこの世界に入る為のテストの舞台だったことを思い出していた。一方、真田と早乙女も眺めている。この二人もかつてはあのテストを経験していた。


「あのテストとほぼ同じ舞台だ。本当はこんなこと許すわけには行かないが今後のことを考えれば仕方ない。ここでお互いケリをつけ


ろ。10分後に開始だにセットした」


今後のチームの活動への士気や影響を考えた上での判断だった。本来ならこんな勝手な行動や決めごとはアウトで厳しく指導しなければならないところで正規の兵士であれば即アウトな状況だった。そこは新藤の二人の個人情報を踏まえての裁量なのだろう。


「僕から先に行くよ。10分後、君を必ず仕留める。先輩、待ってて下さい」


真田はそう言うと、廃都市の中に入って行った。涼太はたった今きになったことを早乙女に笑みを浮かべて聞いた。


「ひょっとして二人は付き合ってる感じ?」


「別に!そう言うの浮ついた関係じゃないから」


早乙女が真田と男女の関係にあることを否定した。二人は別の関係で結ばれているようであることを早乙女の発現から読み取れ無くもない。


「面白くねぇーの。あいつは俺を仕留めるってほざいていたけど、返り討ちにしてやるから待ってろ!」


「がんばってください」


涼太もそれを言うと、ミシナの応援の言葉を聞いて廃都市の中に入って行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る