千と千尋の神隠し ★★★★ | 2002年9月20日

宮崎の『千と千尋の神隠し』は『不思議の国のアリス』と比較されており、確かに、奇妙な生き物と非論理的なルールの世界に迷い込む10歳の少女の物語です。しかし、本作はそれ自体が魅力的で楽しいもので、良心を持つものです。ディズニーのアニメーターにとって神たる日本の巨匠・宮崎駿の最新作は、近年最高のアニメーション映画です。


多くのアメリカの大人が日本(及びその他のアメリカ以外)のアニメーション映画を見ることに不合理な抵抗を持っているので、その魅力をお伝えしましょう。本作はジョン・ラセター(『トイ・ストーリー』)が完璧に英語に吹き替えており、このバージョンがベルリン国際映画祭の最高賞(金熊賞)を受賞し、『タイタニック』を超えて日本映画史上最高のヒット作となり、北米公開前に2億ドル以上を稼いだ初の作品です。


まるでTVCMみたく売り込みしているように感じられましょうが、言わねばならないことがあるので、要点をお伝えします。これは素晴らしい映画です。日本のアニメのことは理解していると思って避けてはいけません。ディズニーのアニメーションしか見なくても大丈夫、本作はディズニーによって配給されています。


宮崎の作品(『となりのトトロ』『魔女の宅急便』『もののけ姫』)は、アメリカのアニメーションではしばしば欠けている深淵さと複雑さを持っています。彼はコンピューターを好まないので、手ずから何千ものフレームを描き、ゆえに彼の作品には絵画のような豊かさがあります。彼はスクリーンの端のものまで描くことで有名です(アニメ作りは非常に骨が折れるため、必要以上に描くアニメーターはほとんどいません)。そして彼は躍動感あふれる所作と、時にはグロテスクながら愛すべきキャラクターで幕間を提供し、沈黙と熟考を許可します。


『千と千尋の神隠し』は、10歳の少女である千尋の目線で語られ、『もののけ姫』よりも個人的で、叙事詩的ではありません。物語の始め、彼女は両親と一緒に旅行に出かけます。父親は愚かにも家族を連れて森の中の不思議なトンネルを探索します。彼は古いテーマパークと推察する一方で屋台はまだ機能しているようで、千尋の両親はフリーランチにありつき、彼女はあたり一帯をさまよい、この映画における不思議の国、そびえ立つ湯屋に出くわします。


ハクという少年が彼女のガイドとして登場し、湯屋を経営している魔女の湯婆婆が彼女の名前、すなわち彼女そのものを奪おうとしていると警告します。湯婆婆は、巨大な顔を持つ老婆です。彼女はトービージャグに少し似ており、坊という名前のグロテスクな巨大な赤ちゃんを溺愛しています。不穏なことに、彼女は千尋の名前を変えてしまいます。千尋が建物をさまよっていると、『トトロ』にいたような、足のまわりをちりちりとはねまわる小さなほこりの玉が出てきます。


建物のなかで、千尋はボイラー室にたどりつきます。そこは釜爺という名前の男が運営しています。ととのった仕事着に8本の手足で、目が回るほどいろんな作業をこなしています。最初は彼を恐ろしく感じますが、彼には良い面があり、湯婆婆の仲間ではなく、千尋の良さに気づきます。


もし湯婆婆が最も恐ろしいキャラクターであり、釜爺が最も興味をそそるキャラクターなら、オクサレ様は最も差し迫るメッセージを持つ人物です。彼は川の神であり、彼の体は長年にわたってそこに投げ込まれたゴミ、廃棄物、ヘドロを吸収しました。ある時点で、彼は投棄された自転車そのものを吐き出します。『となりのトトロ』で、姉妹が泡立つ小川を覗き込んで、底に廃棄されたボトルがあるという余白の描写を思い出しました。重要ではありません。何の必要もありません。


日本の神話はしばしば形状変化がでてきます。そこでは、身体は自分自身の秘めたる深い内面を現すものとなるのです。まるでアニメーションが形状変化のために発明されたかのようであり、宮崎はここでキャラクターを用いてすごいことをしています。千尋が最も憂慮している事は、両親がフリーランチを暴食した後、豚になった事です。オクサレ様は、何十年分のヘドロや廃棄された粗大ごみから解放された後、その真の姿を明らかにします。ハクもまた同様です。実際、湯屋全体が住民の外見と性質に影響を与える魔法の下にあるようです。


宮崎の伝統的な日本の画家に由来する描画スタイルは、色の微妙な使用、明確なライン、豊かなディテール、幻想的な要素のリアルな描写など、注目に値します。彼は登場人物の外見だけでなく、その性質も示唆しています。物語と台詞はわきにおいて、『千と千尋の神隠し』はそれ自体を尊重する喜びです。これは、今年の最高の映画の一つです。


参考文献/翻訳元:https://www.rogerebert.com/reviews/spirited-away-2002

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