そびえたつ恐怖:新海誠『すずめの戸締まり』

※RogerEbert.com掲載の新海誠監督へのインタビューを抄訳いたしました。

 訳文のため新海監督本人の発言と一言一句同一ではないことをご容赦ください。


The Towering Fear: Makoto Shinkai on Suzume

Max Covill April 13, 2023


そびえたつ恐怖:新海誠『すずめの戸締まり』

マックス・コヴィル 2023年4月23日


新海誠監督が2016年7月のアニメエキスポで映画『君の名は。』を披露したときに、彼のキャリアの軌跡は一変した。『君の名は。』は日本国内興行収入において、大流行となった『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』、偉大なる宮崎駿の最高傑作『千と千尋の神隠し』に次ぐ歴代3位の作品となった。彼が大衆の好みに基づくティーンエイジャーの恋愛ドラマを作る日々がすぎ、観客たちは新海誠が次の宮崎駿になろうところを待ち望んでいる。


ありがたいことに、新海は自分の道を切り開き、ただ新海誠になることを決意した。人と人との距離、日本神話、そして青春の恋に焦点を当てる。若い恋人同士の文字通りの何光年も離れた距離を描く、2002年に発表したOVA『ほしのこえ -The voices of a distant star-』や、体が入れ替わるという出来事を通して誰かを知る『君の名は。』のように、新海の作品は常に次の地平を目指すものであった。


彼の最新作『すずめの戸締まり』は、17歳の岩戸鈴芽が日本全国をわたり、魔法の扉を閉じて超自然のミミズのような怪物による大災害を回避させていく姿を描く。もし彼女が失敗すれば、その地域に怪物によって地震がもたらされる。彼女の前に現れた宗像草太は、代々この扉を閉める家業を受け継いできた大学生だ。本来なら危険な戸締まりは草太自身のお役目なのだが、残念ながら彼はかたなしになってしまった。翔太は子供用の椅子と融合してしまったのだ。鈴芽はこの意思を持った椅子とともに、日本を救うため、そして草太を元の体に戻すために冒険をすることになる。


2011年3月11日に起こった壊滅的な出来事は、新海監督の過去3作に大きな影響を与えた。あの日、日本では観測史上最大の地震が発生し、甚大な被害をもたらした。その後、津波と福島第一原子力発電所での原子力災害が発生した。何千人もの人々が自宅の明け渡しを求められ、日本のくらしを永劫に変えてしまった。『すずめの戸締まり』は、日本人が日々直面する新たな大災害への不安と、そこから彼らを守る希望を示す。


今週、『すずめの戸締まり』が米国で公開されるのを前に、RogerEbert.comは新海監督に、震災が彼にどんな影響を与え続けているのか、草太を椅子にするコンセプトはどのように考えられたのか、なぜ常に乗り越えがたい距離を描いた映画を作るのかについて話を伺った。


This interview has been edited and condensed.

このインタビューは編集・抜粋されたものである。


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(マックス)

最近の作品は、2011年3月11日の悲劇的な出来事に大きな影響を受けています。あの悲劇をあまり知らない欧米のファンに、どのような感情を抱いてもらいたいですか?

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(新海)

『すずめの戸締まり』を作ろうとしたとき、観客を選ぶ映画にしたくはなかったんです。震災のことを知っているかどうかに関係なく楽しめる作品にしたかったのです。むしろ、映画館に観に行った観客や層の多くは、震災から時間が経っているため、震災がどんなものだったのか記憶にない、あるいは震災を体験していない人たちだと思います。


そのため、この映画は非常にシンプルな冒険旅行的な映画です。でも、あの悲劇を経験したことがある人なら? そのような人たちは、なんというか、まったく違うメッセージを受け取ることができると思うんです。


この映画は、体験した人と、その事件をあまり知らない人、覚えていない人、その2者をつなぐための映画だと感じています。欧米ではどうでしょうか?単純にアドベンチャー映画として楽しんでもらうのはもちろんですが、【3.11】について調べるきっかけになるような要素があれば、より深く知ってもらい、楽しんでもらえたらうれしいですね。


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(マックス)

『すずめの戸締まり』は、日本人が日々直面する地震の脅威を見事に表現しています。その脅威は、あなたの人生経験や世界の見方をどのように形作ってきたのでしょうか?

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(新海)

『すずめの戸締まり』の場合、おっしゃる通り、日本の日常は災害と隣り合わせの生活で成り立っています。スマートフォンの警告が鳴り、"地震が起きる"というシーンがたくさんありますよね。地震が起きることもあれば、起きないこともある。"ああ、大げさだなあ "と思うこともある。そのくらい未知数で、明日来るか、しばらく来ないか、わからないのです。ある種の不安や恐怖がそびえ立っているのだと思います。


2011年の震災は、私自身の世界観が大きく変わり、日常が根底から覆されると感じた瞬間でした。いつ何の前触れもなく、糸が切れてしまうかもしれない。震災前までは、私たちはこのまま日常生活を送り、それが数十年後の現状だと考えていました。しかし、一瞬にしてその視点がすべてひっくり返されたのです。日本だけでなく、世界全体を意識するようになったのだと思います。世界の出来事や災害には、私たちの知っていることを根底から覆すようなものがあります。COVID-19は、私たちの現実が根底から覆されることを全世界が体験した、非常にわかりやすい例だと思います。これは自然災害に限ったことではありません。今起きている【ロシア・ウクライナ戦争】を考えてもそうです。ある種の出来事や災害はどこにでもあり、私たちは常にそれに囲まれているのだと思い知らされます。


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(マックス)

草太という椅子の着想と、草太のデザインや動きの開発過程はどんなものでしたでしょうか?

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(新海)

『すずめの戸締まり』のメインテーマでは、多くの観客にとって実に重く暗い映画になってしまうと思ったからです。そのバランスを相殺し、雰囲気を明るくするために、椅子という相棒をもたせることにしたのです。それがどんな動きをもたらすかを考えたのです。


最初に、草太の動きを考え、アニメーションを開発しようとしたとき、手描きの技法を模索しました。その結果スクリーンに映し出されたのは、ちょっと生き生きとしすぎていて動物っぽいと感じるものでした。そのため、別のアニメーション手法に切り替える必要がありました。椅子は木でできているので、その柔らかさを感じさせないようにするために、非常に硬いアニメーションにしました。私たちは、ほとんど硬質で、少しぎこちないタイプの動きを求めていました。その結果、3D-CGが主なアニメーション手法となったのです。参考にしたのは、PIXARのアニメ『ルクソー・Jr.』のランプが飛びはねるような動きです。あのような雰囲気やフィーリングを実現したかったのです。


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(マックス)

あなたのフィルモグラフィーを通して、個人間の距離感がとても強調されています。『ほしのこえ』の広大な宇宙と時間の拡張、『言の葉の庭』の主人公たちの年齢差などです。そして、『すずめの戸締まり』では、その延長線上にある "常世"という魔法の世界を描いていますね。このテーマを何度も見直すきっかけは何ですか?

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(新海)

私自身、その理由がよくわからないし、次の作品でもそういう距離感を本質的なテーマとして取り上げるとは言い切れません。次に何をテーマにしようか、まだ模索中です。その理由のひとつをあげるとすれば、私の生い立ちでしょうか。私は、山々に囲まれた郊外の田舎で育ちました。その山々は、私にとってほとんど壁のように感じられました。その向こう側には何があるのだろうというイメージが常にありました。憧れや憧れのようなものがあったのです。その二律背反が、『すずめの戸締まり』の場合は彼女の現実と常世、『君の名は。』の場合は田舎と東京に反映されたのかもしれませんね。


『すずめの戸締まり』"は、4月14日より限定公開(北米公開日。日本国内は2022年11月11日より続映中)。


引用元URL:https://www.rogerebert.com/interviews/makoto-shinkai-interview

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