6「世界の終わりに信じる力」
わたしは毎日のように寝てるねるちゃんを起こしてるけど、それで現実世界のねるちゃんが起きるならとっくに世界崩壊してるよね。だから別の方法があるんだろうって思ってた。
でも、ギリギリで気付いた。ねるちゃんの悲痛な表情を見て確信した。
方法じゃない。ここでなら、現実のねるちゃんを起こせるんだ。
「問題は消される前にねるちゃんを起こせるかどうかだね。どっちが早いかな」
「まっ……待って。セイちゃん話聞いてた? 起こし方がわかったから、なに? 現実のワタシを起こしたらこの世界は崩壊するんだよ?」
「うん、そうなんだけど……。でも現実のねるちゃんを寝かしたままにはできないよ」
感じていたなにか。わたしが出さなきゃいけない答え。やっと言葉にできた。
ねるちゃんを寝かしたままにできない。
だから、まだ。消えるわけにはいかなかった。
でも、そんなわたしの答えを聞いたねるちゃんは怒りだす。
「そんなのセイちゃんには関係無いでしょ! ワタシは寝てたいの、このなんでも思い通りになる夢の世界にいたい。現実になんか戻りたくない!」
「関係無くないよ! ねるちゃんは親友なんだから。ほっとけないよ!」
「それはこの夢の世界の話で――ああもう、いいよ! 認めてあげる。夢羽君の言った通り、ここは現実世界をコピーして作られてる。
でも、全部が同じってわけじゃない」
「え……?」
現実のねるちゃんが改造霊子で世界をコピーして、夢の世界を作った。
ねるちゃんが夢羽くんの仮説を認めた。すごいな夢羽くん。
認めた上で、全部が同じじゃないと言う。
いったい、なにが違うんだろう?
「セイちゃんだよ」
「わ、わたし?」
「現実世界にはセイちゃんがいないよ」
「――はい!?」
わたしがいない? それって……?
「そういうことか……」
「え、なになに、どういうこと? 夢羽くん」
「ねる子がさっき言ってただろう。星見はイレギュラー。ねる子の心の一部が作り出した存在だと」
「うん、そうだね……あ」
「星見ちゃんはコピーじゃない、から……?」
イレギュラー、わたしは夢の世界で、ねるちゃんを起こすために生み出された。
つまり現実の世界に……わたしはいない……。
「あ、あは、あはははは、うそ、え? いやでもこの世界にわたしは、いる。ここにいるよ? ていうか現実世界にいようがいまいが、関係無いし、わたしにとってはここが現実世界だよ? なのに、なんで――」
――こんなにショックを受けているんだろう?
「うそ、です、そんなの……。星見ちゃんが……いないなんて。あり得ない……」
「ムーの戦士の力を以てしても、そんな世界は想像できないな」
「明伊子ちゃん、夢羽くん……」
ああ、わかった。
現実世界にはみんなが、オリジナルのみんながいるのに。
わたしだけがいない世界だってことにショックを受けたんだ。
わたしが除け者にされた世界があるのがショックなんだ。
ううん、そもそもイレギュラー。ここはわたしが足された世界。
この、夢の世界こそが――でもわたしにとっては――!?
「――もう、こんがらがってきたー!」
「ほ、星見ちゃん?」
「星見?」
「セイちゃん……?」
突然大声を上げたわたしに驚く三人。でもそんなの気にしてる場合じゃない。
「夢の世界とかそういうの、もうぜんぜんわからん! とにかく、わたしは、ここにいるの! だからここが現実! それが正解!」
「セイちゃん? いきなりなに言って……」
「そしてねるちゃん! いま、わたしがしたいことは一つ。ねるちゃんを起こすこと!」
ビシィッ! っとねるちゃんを指さす。
ブレちゃだめだ。それがわたしが出した答えなんだから。
「なっ……なんでそうなるの!」
「だって! ねるちゃんが言ったんだよ、起きようとするねるちゃんがわたしを作ったんだって。つまりねるちゃんは心のどこかで起きなきゃダメだー! って思ってるってことでしょ?」
「違う! そんなの本心じゃない!」
「どうして言い切れるの? わたしみたいなイレギュラーを作り出せちゃったのはどうして? そっちが本心だからじゃない?」
「違うってば! ――セイちゃんじゃ埒が明かない。夢羽君、前布田さん。なにぼーっとしてるの? 止めなくていいの? この世界が崩壊するよ?」
「え? 私は……その」
明伊子ちゃんは一度わたしをチラッと見てから話し出す。
「私は星見ちゃんの意志が、一番だって……思ってるから」
「は……?」
「ここが本当に海中さんの夢の中なら……いつかは、消えて無くなるわけですよね。人は……永遠には生きられないから。いつかは、寿命がくるから。夢は、終わります」
「それはそうだけど、何年も先の話で……前布田さんは世界が無くなることを受け入れているの?」
「……まだ実感があるわけじゃないです。星見ちゃんのいない世界なんて、考えられないから。ただ……なんとなく、予感があるんです」
「予感?」
「きっと……星見ちゃんはいます。どの世界でも……私は星見ちゃんと出会って、仲良くなるんです。だから……星見ちゃん。海中さんを起こしてあげて」
「明伊子ちゃん……うん! そうだよね、わたしたち絶対友だちになってる!」
わたしは思わず明伊子ちゃんに抱きついた。
そうだよ。わたしたちが出会わない世界なんて、絶対無い!
「な、なにを言ってるの? 二人とも? 現実世界のワタシが、いないって言ってるんだよ? セイちゃんは、いないの!」
「海中ねる子。もう無駄だ。星見は必ず君を起こす。……君も、それをわかっていたんじゃないか? いつか星見がやって来て、君の目を覚ます。夢の終わりが来ると」
「っ――!」
顔を歪ませて、ねるちゃんはそれを隠すように俯いてしまう。
わたしが来るのはわかっていたみたいだけど……。
夢の終わりが来ることまでわかってたの?
『セイちゃんはね、勝手に動いて、いつかワタシを起こしちゃうんだよ』
あれはそういう意味だった?
だったら、どうしてわたしを――?
「星見」
「……名前で呼ばないで、夢羽くん」
「入学式に僕が言ったことを覚えているか」
「いっぱいあり過ぎるんだけどどれのこと?」
「覚えていないのなら何度でも言おう。
――助けが欲しければ僕のもとへ来てくれ。相談に乗ろう、この力を使って解決もしよう。来る者は拒まない。必ず導いてみせる」
ああ、それなら覚えてる。夢羽くんはこう言ったんだ。
「「ムーの戦士はキミのためになんでもする」」
「……でしょ?」
「覚えているのならいい。星見、僕から言えるのは一言だけだ。ムーの戦士の力を……いや。僕を信じろ」
「夢羽くん……。わかった、信じるよ」
差し出された手を。わたしはしっかりと握り返した。
「なんで……? なんでわかってくれないの。セイちゃんはいない。本当に、いないのに」
「ねるちゃん……」
俯いたままだったねるちゃんの前に立つと、慌てて顔を上げて後ずさり、巨大な扉に背中をぶつけた。
「……いや。ワタシは、この夢の世界に、いたい……」
「だめだよ、起きなきゃ」
「ううぅぅ……」
未刀ちゃん、深矢ちゃん。ごめんね、帰れそうにないよ。
レイチくん、命綱握ってもらってたけど、意味なくなっちゃった。
恋瑠ちゃん、クラスメイトのこと話ができたかな? 友だちになれてるといいな。
明伊子ちゃん。
バカなわたしの意志を尊重してくれてありがとう。
これからどうなるか、わからないけど……。
月まで行った仲なんだから。わたしたち、どうなっても友だちだよ。
そして夢羽くん。本当に、信じてるからね。
「さあ、ねるちゃん。わたしの親友! 起きる時間だよ!」
「だ、ダメ! ここが理想の世界なの! だって、現実世界に――」
もうなにを言われても、わたしの意志は揺るがないよ。
ねるちゃんを起こすのなんて、すっごく簡単なんだから。
わたしは大きく息を吸って、その言葉を叫ぶ。
「ねるちゃん! ごはんだよ!! おっきろぉぉぉぉ!」
「あ、あぁ……」
瞬間、ねるちゃんの後ろの大きな門が縦に割れ、光が溢れ出した。
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