5「夢に消えゆくは」
「ストップ夢羽くん! 世界の複製ってどういうこと?」
「ふむ。そのままの意味だ。もう一度言うが、ねる子の頭の中に一から広大な世界、宇宙を作るのは不可能だろう。だが現実世界の複製ならば、一から作るのではなければ、可能かもしれない」
「へー……そういうもんなの? でもなんかピンと来ないっていうか、むしろ……ねぇ?」
「うん……。そっちの方が……大変な気がする、よね」
夢羽くんの説明を聞いて、わたしと明伊子ちゃんは思わず首を傾げてしまう。
頭の中に現実世界をコピーするなんて、それこそできるの? っていう。
「これまでの話によれば、僕もねる子に作られた存在ということになる」
「まぁ、イレギュラーはわたしだけみたいだよね」
「この世界が複製ならば、オリジナルの現実世界にも僕がいるということだ。つまり、改造霊子が存在することになる」
「……へ? あぁー、うん?」
「そういうこと……だよね」
「現実世界をコピーし、ねる子の夢の中に再現する。普通の人間なら不可能かもしれないが、改造霊子の力があれば可能だ」
「ねるちゃんにも改造霊子があるってこと!? 未刀ちゃんたちみたいに?」
「そういうことだ」
「でも……改造霊子があるなら、夢羽君はとっくに気付いたんじゃ……」
「あ、そーだよそーだよ。恋瑠ちゃんの時そんなこと言ってた」
「それは無理だな。僕はその改造霊子に作られた存在なのだから」
「は? え? どゆ意味?」
「ねる子の改造霊子は現実世界の僕がばら撒いた改造霊子ということになる。その改造霊子の欠片に作られたのがこの世界、僕であるならば、彼女の改造霊子は僕の上位ということになる」
「夢羽くんの、上位……」
「それこそ稲井恋瑠の時と同じだ。僕は恋瑠の力に干渉することができたが、恋瑠のステルス能力は僕には通用しなかった。同じように、上位であるねる子の改造霊子に、僕は干渉は愚か察知することもできない。僕が木の声についてなにもわからなかったのにも納得がいく」
「な、なる、ほど……?」
一番上が現実世界の夢羽くん、ムーの戦士の力。
その下にねるちゃんの中の改造霊子。
そしてさらに下に、目の前にいる夢羽くん。
こう並べてみると理解はできるし、木の声のことはその説が本当だっていう証拠かもしれない。
「説明終わった~? 夢羽君さぁ、それここが現実のコピーっていう考えの上に成り立つ話だよね。夢の世界の君には、それを断言するのは無理だよね~? 上位のことは理解できないんだから~」
「そうだな。だが、そう考えるのが一番理にかなっている。真実に近いと思える」
「理解できないなりの計算ってことか~。ま、いいや。どう思ってくれてもいいよ~。どっちだっていいんだからさ」
「どっちでもいいいだと?」
「夢羽君は正解を知りたいんだろうけどさ~。まず目の前のこと、考えないとだよ? コピーだろうとなんだろうと、夢の中ってことは変わりないんだよ。もし私が目覚めたら、この世界はどうなると思う? はいセイちゃん」
「わたし!? ねるちゃんが起きると、そりゃ……え?」
「この世界は消えるだろうな」
「うそ!? あ、でも、そうなるよね? うわぁ?」
「そんな……」
よく考えなくてもそうだ! ねるちゃんの夢の世界。起きたら消えて無くなってしまう。
わたしたちが過ごしてきたこの世界が……。
「ようやくわかってくれた? というわけだから、この世界のためにも……セイちゃん。消えてくれるかな」
「うっ……」
わたしがいなくなれば、ねるちゃんを起こす人はいなくなる。
イレギュラーはわたし一人。ハッキリ言われたわけじゃないけど、なんとなくそうだと感じる。
木の声が聞こえる、木の妖精ってあだ名のせいで一人でいることが多かったから『わたしみたいなのは一人』って思うのかもしれないけど。
でもなぁ、起こせる起こせるって言うけど、どうやったら現実のねるちゃんを起こせるのかわからないんだよね。
じゃあ選択肢なんてないじゃん。
わたし一人が犠牲になれば、この世界はこれからもずっと続く。
夢の世界は終わらない。みんな、ねるちゃんの理想の世界を描いていく。
……本当にそれでいいのかな?
わたしは、消えていいと思ってるの?
「セイちゃん?」
「はっ……はは、ねる、ちゃん」
いつの間にかねるちゃんが目の前に来ていた。
って違う! わたしが近付いた!? いつの間にか超巨大な門の下に移動していて、ねるちゃんと向かい合っている。
「……ねぇセイちゃん」
「な、なに?」
「ここは本当に、理想の世界だったよ。ありがとう」
「ねるちゃん……?」
微笑んで、ねるちゃんがゆっくりと手を伸ばす。
消される。その手がわたしに触れた瞬間、わたしが消える。直感でそう感じた。ここにきてわたし、また賢い感じになってる。すんなり理解できちゃってる。
だけど、でも! それとはまったく違うところで感じるなにかがある!
イレギュラーとか関係ない、わたしが出さなきゃいけない答えがある!
そのためにも、わたしは――まだ!!
「ね、ねるちゃん! ここでならわたしを消せるって言ってたけど、逆に言えばここじゃないと消せないってことだよね。どうして?」
「夢と現実の境目だからだよ。セイちゃんに触れることで、現実のわたしの意思でセイちゃんを消せるの」
「へぇ……。それってつまり、さ。目の前にいるねるちゃんが、現実のねるちゃんの意思そのものってことだよね?」
「っ……セイちゃん!」
ねるちゃんの顔が、悲痛な表情に歪む。
「ふ、ふふふふふっ。わたし、ねるちゃんの起こし方わかっちゃった」
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