4「辛くても生きて来たこの世界」
「わたしはねるちゃんを起こしちゃう、イレギュラーな存在。だから消す、と。うんわかった。わかったけどわかるかぁぁぁ!!」
わかったけどわからないってなんだ。
自分でもおかしなこと言ってる自覚はある。でも、それが今のわたしの気持ちだった。
「セイちゃん! だいたいなんでそこまでして寝ていたいの? さっきは聞けなかったけど、現実でなにかあったの!?」
「ううん、なにもないよ~。なにもない、つまらない世界だからこそ、ワタシは夢の世界にいたいの。だから眠り続ける。それだけだよ~」
「つまらない? そんなことないよ! ぜったい楽しいことあるよ!」
「セイちゃんらしくないな~。セイちゃんはワタシじゃないのに、どうしてそんなことがわかるの?」
「そ、それはっ」
「いつものセイちゃんなら『そう感じる人もいるのかも』ってなるのにね~。消すって言われて、頭に血が上ってる?」
「違うよ。それに関してはもうどうでもいいから」
「どうでもよくないと思うけど~?」
「とにかく頭に血は上ってないよ。でもね、遠慮しないって決めた。ねるちゃんには聞きたいことなんでも聞くし、言いたいことガンガン言ってやるって」
「うわぁ……ほんとどうしちゃったの、セイちゃん」
「わたしはねるちゃんの幼馴染みで親友だから。そーゆーの気にする必要ないんだ」
「…………」
なんて、やっぱりちょっと横暴かな?
親しき仲にも礼儀ありってのもわかってる。
でも……少なくとも今は。遠慮なんてしてる場合じゃないって思うから。
「本当に……厄介だなぁ。その関係性だってワタシが作り出したものなのに。なんで……こんなにも思い通りにならないんだろう」
「えっ? あ……そっか」
ねるちゃんの幼馴染みとしてわたしがここにいるのも、ねるちゃんがそう作ったからなんだ。
でもそんなの関係無いよ。わたしはわたしとして、ねるちゃんと仲良くなったんだから。
と、わたしは考えてるけど。この世界を作ったねるちゃんには、わたしの気持ちも言葉も響かないのかな。自分が作ったものだから。自分の都合のいいように作ったから。人の言葉として、届かないのかも。
だとしたらなにを言っても無駄ってことになる。
なにもできず、わたしは消されちゃう。そしてねるちゃんは眠り続ける?
ていうかわたしはどうしたいんだろう? 消されたくない? ねるちゃんを起こしたいの?
「あれ? んんんんんん?」
ここにきてまたおバカになった。考えがまとまらない。
もう少しで答えが出そうなのに、喉元まで来てるのに出てこない。もどかしい!
「……海中さん」
わたしが頭を抱えていると、明伊子ちゃんがわたしの前に出てねるちゃんと向き合う。
「本当にここは……夢の世界なのですか?」
「ちょっと~前布田さん。今さら話をそこまで戻すの?」
「はい。……だって、私は自分のことを夢の中の人物とは思えません」
「ま~そりゃそうだろうね。仕方がないんだよ」
「仕方がない、理解ができなくて当然……。本当に、そうなのでしょうか」
明伊子ちゃんは一度振り返って、わたしと夢羽くんを見る。
「私は……これまでの人生、色々なことがありました。ずっと不運が続いていました。でもそのおかげで私は星見ちゃんと夢羽君に出会いました。二人のおかげで、不運続きの人生から逃れることができた」
「はいはい、その出会いが夢とは思えない~って言いたいんでしょう? だからそれも――」
「それだけじゃありません」
「――うん?」
「二人との出会いは最高の出来事でした。……ですが。それまでの不運な出来事まで……すべてあなたの夢の中での出来事だなんて、思えないんです。楽しいことだけじゃない、辛いことの方が多かった、私のこれまでの人生が。海中さんの頭の中の出来事だなんて、とても……」
「何度でも言うよ~。それでも、ここは夢の中なんだよ。例えどんな細かい出来事だろうと、全部ワタシが作り出して――」
「――そうか、わかったぞ!」
ねるちゃんの話を遮るようにして、夢羽くんが声を上げた。
珍しい、少し興奮気味?
「海中ねる子! 確かにここは君の言う通り夢の世界なのだろう」
「何度もそう言って~……」
「だが! それにしてもリアル過ぎるのだ! 明伊子は今、これまでの人生と言った。しかしこれは明伊子だけではない。僕はどうだ? ムーの戦士としての何万年もの記憶は何故ある? 何億といる人間すべての人生を、すべて君の頭の中で作り出したというのか? 無限に広がる宇宙も? ――そんなはずがない!」
「な……言い切るね~。だとしたらこの世界はなんだって言うの~? さっき夢の世界だってことは認めてたよね?」
「そうだ。ここは夢の世界。現実世界を忠実に複製した夢の世界だ」
――また夢羽くんがわたしの頭を混乱させるようなことを言い出したぞ!?
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