3「誰も彼女を映せない」


「儀式により、稲井恋瑠の居場所がわかりました」


 深矢ちゃんと未刀ちゃんが部屋に戻ってきた。

 儀式は成功したみたいだけど、まだちょっと腑に落ちない顔をしている。


「おいおい儀式成功したんだろ? なに暗い顔してん――ぐえっ」


 ズバッと聞こうとしたレイチくんを深矢ちゃんが踏みつける。


「確かに儀式は成功しました。ですがそれは夢羽君の力添えがあったからこそです。……対象が力を使っているということは、でもありますから」

「あ、確かにそうだ! よかった……」


 いまさら気付いた。そうだよ恋瑠ちゃん無事ってことじゃん!

 そしてそれは、生きてるって答えを夢羽くんから聞いちゃったことになるんだよね。


「生存確認ができた上での儀式。これでは、トラウマが残っているのかどうかわかりません」

「深矢はほんっと真面目ね。夢羽がさっき言ってたじゃない、力は発動してたって。トラウマ関係ないってば」

「姉さん、そういうことではなく私は……」


「ぷっ、あははっ」


 しまった。二人のやり取りに思わず笑ってしまった。

 当然、二人にジロリと睨まれる。


「なんですか、木ノ内さん」

「星見、なに笑ってるのよ」

「ごめんごめん。だってさっきは未刀ちゃんがトラウマのせいだって言ってたのに、今は深矢ちゃんがトラウマを疑ってて、未刀ちゃんが否定してるんだもん」

「……それは」

「あぁー……うん、そうね」


 少しだけ頬を染めて顔をそむける双子の姉妹。カワイイなぁ。


「と、とにかくです。もう一度夢羽君に伺いたいのです。トラウマは本当に関係ないのかどうかを」

「断言しよう、関係ない。納得ができないのは、稲井恋瑠の力が君にとって未知のものだからだろう。良ければ詳しく説明するぞ」

「……お願いします」

「夢羽、さっきステルス能力って言ってたわね?」

「レーダーに映らないっていうアレ?」

「そうだ。彼女の場合、人の目にも映らなくなる」

「え……えぇ?」


 って驚いてから、そういえば岩室先輩の告白の時、夢羽くんの力でわたしたち見えなくなってたっけ。あれと同じ力なのかな。

 少しだけ納得したけど、もちろん未刀ちゃんたちはまだ理解できてない。


「なによそれ、透明人間になるってこと?」

「彼女自身が透明になるわけではなく周囲に影響を与える力だが、実質透明人間と言えるな。電子機器にも映らない」

「カメラに映らないってこと?」

「そうだ」

「警察があらゆる監視カメラを調べても見つからないはずですね……」

「だが赤外線センサーによる自動ドアにも反応しなくなる。必要な時は力を解除していたはずだ。一瞬だけ映った映像はあったかもしれないな。儀式も、タイミング次第では成功していただろう」

「……なるほど」

「深矢の儀式は知りたい内容次第で相当消耗するのよ。日に数回が限度。数が撃てない以上、それは実質不可能ね」

「へぇ、そうなんだ。力を解いたタイミングかぁ……ん?」


 わたしはここでようやく、とても重大なことに気付いた。

 同時に、気付くの遅すぎわたしバカじゃない? と思ったけど声に出さずにはいられなかった。


「え、恋瑠ちゃん誘拐されたんじゃないの?」

「星見ちゃん……もう、わかってると思ったのに」

「ほんとよ。せめて生きてることに気付いた段階でわかりなさい」

「夢羽君の説明する稲井恋瑠の力が本物ならば、彼女をです」


 ごもっとも。誘拐しようとしても目の前から消えちゃうんだから。いくらでも逃げられる。

 わたしは恥ずかしくてそれこそ消えてしまいたかった。

 バカでごめんなさい。


「星見、安心しろ。俺もわかってなかったぜ」

「うわぁぁぁぁ! レイチくんと同じレベルのバカなんていやぁぁぁ!」

「てめぇバカってなん――ぐぇ」

「あんたはあたしたちの式神なんだからわかっておきなさいよ。恥ずかしいわね」


 未刀ちゃん、それわたしも恥ずかしくなるやつだから。そんなフォローしなくていいよ!

 それから明伊子ちゃんも声かけずらそうな目で見ないで!


「ま、そんなわけだから。稲井の行方不明の原因は、家出よ」

「家出……まぁそうなるよねー」


 彼女は自分で力を使い、消えた。つまり家出だ。


「では連れ戻しに行くか?」


 あ、夢羽くんが恋瑠ちゃんのところに飛ぶつもりだ。

 そこは力を使うんだね。でも……。


「待って夢羽くん。ただ連れ戻すだけでいいのかなぁ? 家出なんでしょ?」

「どういうことだ? 星見」

「本当の解決にはならないってこと。透明になれるんでしょ? 家出し放題じゃん」

「ふむ。繰り返すということか」

「そそ。そもそもどうして家出なんかしたんだろう?」

「そこは僕にもわからないな」


 あれ、そうなんだ。夢羽くんのことだからなんでもお見通しだと思った。

 深矢ちゃんも同じことを思ったのか、小さく首を傾げている。


「夢羽君、本当にわからないのですか?」

「稲井恋瑠に接触することができれば可能だ。……そうか、天灯深矢。君の力はそれも知ることができるのだな」

「はい」

「え、深矢ちゃん家出の理由わかるの? すごい! 夢羽くんよりすごいよ!」

「そういう……力ですから」


 わたしが褒めちぎるとぷいっとそっぽを向いてしまった。でもちょっと頬が赤いかも。

 深矢ちゃん照れてるのかな? かわいーなーもう。


「とにかく稲井恋瑠に会いに行きましょう。話はそれからです」

「深矢。あたしたちへの依頼は捜索だけよ。いいの?」

「構いません。アフターケアまでしっかりするのが天灯です」

「そう。じゃあ深矢に任せるわ」

「はい、もとよりそのつもりです」


 おぉ……なんかプロっぽい会話だ!

 さっきはカワイイって思ったけど、カッコいいなぁ。


「さて話はまとまったか? 一つ言っておきたいことがあるのだが」

「なんでしょう?」

「稲井恋瑠だが、力を封じたことにより少々まずいことになっている」

「マズイ? 夢羽くんどういうこと?」

「追われている。黒いジャケットの強面の男二人にだ」

「それヤバいやつじゃん! そういうのは早く言え!」




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