2「消えた少女の観測」
「行方不明者の最期を知ってしまい、幼かった私は発狂、全知の闇に呑み込まれるところでした」
「なんとかあたしが意識を引き戻したのよ。正直危なかったわ」
「……はい。姉さんのおかげで正気に戻れたのを覚えています」
姉妹の話に、わたしはなにも言えなくなっていた。
惨たらしく殺されていたって……どんな風に?
うわ、想像もしたくない。気持ち悪くなってきた。
想像しようとしただけでそうなのに、詳しく知っちゃったらおかしくもなるよ。
「それ以来、行方不明者の捜索依頼は断り続けていました」
「うん……あれ? じゃあどうして今回は受けたの?」
「六年前のことは私のトラウマになっています。ですが、そう、もう六年なのです。私はこのトラウマを克服しようと精神鍛錬を続けてきました。もう大丈夫だろうと、思っていたのです」
「だけど儀式は何度やっても失敗。深矢は無意識に力を使うことを恐れているってわけ」
「姉さん、私は恐れてなどいません」
「だから無意識なんじゃない」
言い争いを始める姉妹。
恐れてる、恐れてない、無意識だって。それ答えの出しようがないんじゃないかな。
とはいえ簡単に口を挟める問題じゃないよね……。
なんて思っていると、夢羽くんが簡単に口を挟んだ。
「つまり僕は、深矢に代わって
「いいえ、違います」
「違うわよ」
二人揃って否定する。そこは意見が一致するんだ。
だけど……。
「あれ? ごめん、わたしもそうなんだろうなって思った」
「私も……」
今の流れ的にそういうことだよね。
儀式が上手くいかない、でも依頼は受けちゃったからなんとかしないといけない。そこで夢羽くんの出番、ってことだと思ったのに。
「私が夢羽君にお願いしたいのは、今話したことの真偽についてです」
「儀式の失敗が心因性によるものなのかどうか。夢羽に見て欲しいのよ」
「そしてもし心因性ならば、そのトラウマを克服する術を伺いたいのです」
「深矢ちゃん……」
「なるほどな。あくまで依頼は自分で解決したいということか」
「はい、その通りです」
すごい……深矢ちゃんは自分のトラウマと向かい合っているんだ。
なんてしっかりした子なんだろう。いますぐ抱き締めてあげたい。
「ていうか抱き締めていいかな?」
「はい……?」
「あ、ごめんなんでもない」
心の声が漏れてしまった。
なんかこう、実はすごくがんばってますって感じの子にわたしは弱いのかも。
明伊子ちゃんもそうだったし。ほっとけないんだよね。
「……どうでしょうか、夢羽君。儀式の失敗は私に原因がありますか?」
深矢ちゃんの真剣な問いかけに、夢羽くんはすぐに答えてくれた。
「いいや、天灯深矢。君はしっかり力を発動していた。失敗したのは――捜索の対象が、力の範囲外にいるからだ」
「範囲外……ですか?」
「ちょっと夢羽、どういうことよ」
「二人とも理解しているはずだ。力の範囲外のことは知ることができないと。改造霊子による力が進化、変化したとしても、そこは変わりようがないのだ」
「ですが、範囲外などということがあり得るのですか?」
「異世界に行ったとか言わないわよね?」
「異世界、平行世界というものがあるのかどうかわからないが、稲井恋瑠はこの世界にいる」
「では……」
「彼女は、この世界にいながら範囲外に出ることができる。そういう力を有しているということだ」
「え? どゆこと? わたしわからないんだけど?」
隣の明伊子ちゃんも首を傾げている。わたしだけじゃなくてよかった。
深矢ちゃんが夢羽くんに尋ねる。
「それはつまり、稲井恋瑠も私たちと同じだということですか?」
「そうだ。改造霊子を強く引き継いだ、力を持った人間だ」
「えぇ!? そういうこと?」
深矢ちゃんたちみたいに特殊な力を持ってるってことだ。
ていうか説明がまどろっこしいよ夢羽くん。
「待ちなさい。だとしても範囲外に出るなんてこと、どうしてできるのよ。あたしたちの力はその改造霊子によるものなんでしょう? 夢羽も干渉できない範囲外にどうして出られるのよ」
「ステルス能力だからだ」
「は?」
「正確に言えば、範囲外に出ているのではなく擬似的な範囲外を作り出して隠れているのだ。だが……改造霊子の力を使っている以上、核を持つ僕の目からは逃れられない。干渉も可能だ」
「すでに彼女の居場所がわかっているのですか?」
「僕の力ならば、名前を知れば現在の居場所を見ることができる。相手が改造霊子の力を使っているのならばより簡単に見付けられる」
「……そう、ですか。しかしそうなると稲井恋瑠は……」
深矢ちゃんはそこで一度言葉を止め、ふぅとため息をつく。
「結局、あなたに見付けてもらうことになりましたね」
「いいや、天灯深矢。僕への相談はそれではないのだろう? 今、稲井恋瑠の力を一時的に封じた。これで君の力でも知ることができるはずだ」
「封じた……!!」
「深矢、行くわよ!」
「はい、姉さん」
「ぐぇっ――っひひひ」
未刀ちゃんと深矢ちゃんがレイチくんを踏んづけて部屋を飛び出していく。
こんな時でもレイチくんは嬉しそうな顔だ。明伊子ちゃんがドン引きしてる。
で……わたしたちはここで待ってればいいのかな?
「ていうか夢羽くん、気が利くじゃん」
「なんのことだ?」
「……以前の夢羽君なら……見付けた段階で稲井さんの所に、瞬間移動してたかも……」
「だよね? だけど深矢ちゃん自身に見付けさせるなんてさ」
わたしと明伊子ちゃんがそう言うと、夢羽くんは少し首を傾げる。
「ふむ……。天灯深矢が僕に聞きたかったのは、事の真偽とトラウマ克服の術だった。ならば自分の力で稲井恋瑠を見付けなければならないと感じた。そして、僕は今回判断を間違えなかったのだな」
「もう、ほんとまどろっこしいなぁ。つまり?」
「僕も少しは変わったということだ」
「え?」
この時、わたしには夢羽くんが笑ったように見えたんだけど……。
気のせいかな?
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