2「会うべきか会わないべきか」


 わたしの目の前にいる男子高校生(厳密には中学生?)。

 夢羽くんに相談に来た柳夕香さんの幼馴染で、幽霊。

 目に付くのはとっても明るい金髪。根元まで綺麗な金色で染めたようには見えないけど、普通に日本人顔だからか不自然というか違和感がある。

 彼はこの学校に入学する前に交通事故で亡くなったそうだけど……。


「芦浦くん、だっけ? なんで柳さんと話したくないの?」

「俺のことはレイチって呼んでくれるか?」

「え、嫌なんだけど」

「ぐっ……! 嫌ってなんか傷つくぞ! ていうかわかってるのか? 普通俺のこと見えないんだぞ? 本名で呼ぶのは色々マズイだろ」

「あぁー……。いやあだ名でも同じじゃない?」

「あだ名じゃないから大丈夫だ。まぁ、死んでからついたあだ名と思ってくれ」

「ふぅん?」


 なんだそりゃ。

 はぁ、しょうがないなぁ。確かに彼のことを知っている人が、わたしが本名呼んでるところを聞いたらビックリするよね。問い詰められたら面倒くさい。


「じゃあレイチくん。もう一度聞くけど、どうして柳さんと話したくないの?」

「そりゃ……わかるだろ?」

「わからないから聞いてるの」

「んだよ、お前もこの男と同じで鈍いのな」

「なんですって?」

「うっ……」


 ギロっと睨みつけるとたじろぐレイチくん。

 夢羽くんと一緒にされるのは許せないなぁ。


「だ、だってよ、そうだろ? 幽霊になった俺の姿見たって辛いだけじゃねーか。俺も……夕香もさ」

「でも柳さんは話したがってるよ?」

「それは……いやダメだ! こんな姿見せられねーよ」


 言いながら、自分の髪を触る。


「……あれ? もしかしてその髪の色」

「生きてる時は黒だったんだ。幽霊になってから金髪になった」

「うっそ!? 幽霊って金髪になるの? え、でも黒髪ロングの女幽霊とかは?」


 実際見たわけじゃないけど、幽霊っていうと黒髪ロングで白ワンピ(もしくは白装束)なイメージが強い。


「言いたいことはわかるけど俺はこうなんだ。こんな変わっちまった俺を夕香には見せられねー」

「むう」


 いや金髪になったからってそんなショック受けるかな? そもそも幽霊だとわかった上で話すんだからちょっとくらい見た目が違ったって問題なくない? 死んだ時のまま血まみれとかよりはずっといい。

 でもわたし幽霊になったことないからなぁ。彼の見せられないって気持ちを理解できない。だから強く否定もできない。


 しょうがないから不満いっぱいの顔でむぅってしてると、間に夢羽くんが入ってきた。


「状況は把握できたな? 星見の意見が聞きたい」

「えぇー? そう言われてもわたしだって困るよ。夢羽くんはどっちの意見を尊重したいの?」

「僕としては、ムーの戦士に助けを求めにきた柳夕香を救いたい。だが」

「だ、だめだぞ! こいつにしたみたいに見えるようにするのは無しだからな!」

「むっ、レイチくん。そういえば自己紹介してなかったね。わたし、木ノ内星見。こいつ、じゃないから。次から気を付けて」

「う、うっす。とにかく、だめだぞ」

「この通りレイチ本人が頑なでな」

「じゃあ幽霊はいなかったよって報告する? 柳さんが納得するかわかんないけど」

「僕はムーの戦士だ。虚偽の報告はできない」

「じゃあどうするのよ」

「夕香を諦めさせてくれ! 何回かあいつの話に付き合ってやれば幽霊なんていないって納得するだろ」

「ふむ……しかし」

「するかなぁ……?」


 柳さんがどんな子か知らないけど、そんな簡単に諦める人が夢羽くんに相談するとは思えなかった。


「大丈夫だって! 頼むよ、これも夕香のためなんだ! 。それでいいだろ!?」


 レイチくんの言葉にドキッとする。

 そうだ、死んだらもう会えない。それがなんだ。


 柳さんの願いは、それを捻じ曲げて話をするということ。

 そして夢羽くんはそれができてしまう。


 いまさらだけど……なんでもできてしまう夢羽くんの力を使うことが、果たして正しいことなのかどうか。わたしにはわからない。だから……。


「……夢羽くん、ひとまずレイチくんの言う通りにしてみる?」

「わかった、やってみよう」

「恩に着るぜムーの戦士! 木ノ内も!」


 ……ついそんなことを言っちゃった。

 レイチくんが言うことが正しいのかどうかも、やっぱりわからないのに。



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