4「想いが錯綜してこんがらがる」


「彼氏……うそだ、そんな話いままで一度も……」

「最近できたのよ。それにさっきも言った通り、周りには隠してるみたいだから」

「お、俺はその秘密を打ち明けてもらえない程度の相手だったのか……」


 二奈さんにとって岩室先輩はきっと弟分みたいな感じなんだろうけど、そういう相手に恋人のことなんて普通話さないんじゃないかなぁ。むしろ話されてたらそれこそ脈無しだったよね。


「岩室先輩、ご愁傷さまです。未刀ちゃん教えてくれてありがとね」

「見てられなかったのよ。ついでだったし」

「ついで?」

「それに話は終わりじゃないわ。続きがあるの」


 二奈さんには彼氏がいました残念! で終わりじゃないの?

 続きって言われても嫌な予感しかしない。


「まず、二奈さんにはお姉さんがいるのだけど」

「あぁ、一恵かずえさんだな……」

「二奈さんの彼氏――男Aとするわね。彼は二奈さんと付き合う前、姉の一恵さんに付き合ってくれと言い寄っていたわ」

「――は?」

「一恵さんは初対面の男Aをあっさりフったんだけど、今度は二奈さんに言い寄って、こっちは時間をかけて恋人になったわ」

「は、はぁ……えぇ?」

「男Aは二奈さんと付き合い始めたものの、なんだか上の空なことが多い。上手くいってないようね。でもそれもそのはず、男Aは一恵さんのことを諦めていないのだから」

「おいおい! 待ってくれなんだそりゃ!?」

「黙って聞いてなさい、岩室。男Aは一恵さんが諦めきれず、近づくために妹と付き合い始めた。一恵さんはそのことを男Bから聞いて、あたしの家に相談しにきた」

「お、男B? 未刀ちゃんの家に相談??」


 さすがに話についていけなくなってきた。もうわけがわからないよ。


「あら、うちのこと知らないなんて、『天灯てんとう』の名もまだまだ知れ渡っていないのね」

「私のクラスではよく話題になっていたけど……」

「うっ、わたしそういうのに疎いんだよね」


 周りに変なのが多いから、伝わってくる話題に偏りがあるんだ。

 ねるちゃんは流行りの話題に興味なさそうだし。わたしにもまともな情報源が欲しい。


「あたしの家、天灯はいわゆる『』よ」

「な、なんでも?」

「ええ。今回みたいに探偵紛いのことをすることもあるわ」

「はぁ。……つまり二奈さんのお姉さん、一恵さんが男Aを調べてって未刀ちゃんに依頼したの?」

「そういうことよ。こういうのはあたしの妹、深矢みやの領分だから調べるのは任せちゃったけどね。おかげで、男Aは降野ふるの姉妹に近づいたことがわかった」

「……はい? 雇われ?」

「しかもその雇い主はなんと男B!」

「まてまてまて! なんだそりゃあ!」

「んん? 男Aを雇って付き合わせたのもよくわからないけど、一恵さんに男Aのことを教えちゃうのはなんで? ……あ」


 疑問を口にしてみて自分で答えにたどり着く。

 いやでもまさかそんな。


「星見、気付いたみたいね。そう、男Aに不審な行動をさせて、男Bは一恵さんに近づく。一恵さんは男Aの情報を得るため男Bと連絡を取り合う。そして最終的には男Aを追い払い、男Bは一恵さんの信頼を勝ち取る! って寸法ね」


「やっぱりそうなの!? 不良をけしかけて助ける自作自演みたい!」

「まさにそれよ」


 最低すぎる。なんなんだ男B。男Aもそんなの引き受けるなよ。


「ゆ、ゆるせねぇ! すぐに知らせようぜ!」

「ちなみに調査の最中に岩室連司が二奈さんに告白したもんだから、男Bと繋がっていないか調べに来たってわけ。やっぱり無関係だったわね」

「あぁー、それで空振り」


 そっか、未刀ちゃんは夢羽くんじゃなくて岩室先輩に用事があったんだ。


「ぐっ……しょ、しょうがねぇだろ、そんなの知らなかったんだし」

「とにかく関係ないとわかったし、あたしは依頼主と男Bのところに行くわ」

「ならば急いだ方がいいぞ、天灯未刀」

「え?」


 黙って未刀ちゃんの話を聞いていた夢羽くんが割り込んできた。


「ちょうど今、降野姉妹が男二人と一緒にいる。件の男AとBだろう」

「……わかるの?」

「ああ。少し時間がかかったが、場所も割り出してあるぞ」


 静かだなと思ったらそんなことしてたんだ。さすがムーの戦士。


「あ、四人が一緒にいるってことは男Bによる自作自演の推理ショーが始まっちゃう?」

「そうね。ムーの戦士、お願い。四人の居場所を教えて」

「待って未刀ちゃん! 夢羽くん、わたしたちをそこに!」

「ああ、その方が早いな。集まってくれ」

「ちょっと、なにをする気よ?」


 わたしと明伊子ちゃんが未刀ちゃんにくっついて、夢羽くんが片手で三人の肩に触れる。反対の手は岩室先輩の背中に。そして次の瞬間、


 周りの景色が変わった。

 人気のないさびれた公園。男女が向かい合っているちょうど真ん中に、わたしたちは立っていた。




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