2「昼休みには呼び出しを」


「セイちゃん~。お弁当食べよう」

「ねるちゃん。待って、準備するから」


 昼休み。わたしはいつも親友のねるちゃんと一緒にお弁当を食べている。


 海中ねる子。ウェーブがかった長い髪、気怠い感じがなんか色っぽく見えるのか、結構男子に人気あるんだよね。彼氏いるって話は聞かないけど。

 彼女も昔はわたしのことを木の妖精と呼んでいたけど、だんだん省略していってセイになった。もう跡形も無い。本人に聞くと星見だからセイって言うんだけど、絶対省略した結果だ。


「そういえばさ、ねるちゃん。もしかしてわたしの例のあだ名の由来、誰かに話した?」

「ううん~? ワタシからは話してないよ~」

「そっか」


 木の声が聞こえるから木の妖精。

 小学校からの幼馴染みのねるちゃんは、当然あだ名も由来も知ってる。入学式で話題になってしまったわたしのことを、仲のいいねるちゃんに聞こうとする人がいてもおかしくなかった。


「何人かに聞かれて教えたけどね~」

「話したんじゃん!!」


 ああ、やっぱりねるちゃん経由で広まったのか……。


「え~、だからワタシからは話してないってば~」

「はいはい。まぁ他にも知ってる人はいるからね」


 つまりねるちゃんだけとは限らない。彼女を責めても仕方がない。

 それに、一番悪いのはあのムーの戦士、夢羽千示だからね。


 ちなみにいまは木の声がほとんど聞こえてこない。

 一階の廊下とか植え込みの近くを歩くと聞こえるけど、教室の中までは届かない。教室は騒がしいけど木の声が聞こえないという意味では静かだ。

 一番鬱陶しいのは登下校かな。昔はなるべく街路樹の無い道を選んでいたけど、もうめんどくさくなった。不気味な声に慣れちゃうのはどうかと思うけど、慣れちゃったんだから仕方がない。

 ……わたしもしかして、いつの間にか図太くなってる?



「あ、あの……星見、ちゃん」


 そんなことを考えながらお弁当の準備をしていると、教室の入口の方からわたしを呼ぶ小さな声が。


明伊子めいこちゃん! こっちこっち。入っておいでよ」


 他のクラスの教室に入りにくいのか、おどおどしながら入ってくる明伊子ちゃん。


「お~。その子がセイちゃんの新しいお友だち?」

「そうそう。今日は三人でお弁当食べようと思って」

「なるほどね~。ワタシ、海中ねる子。よろしくね~」

「は、はい。よろしくお願いします。あっ……私は前布田まえふだ明伊子と言います」

「明伊子ちゃん、固い固い」

「あはは~。さ、早くお弁当たべよたべよ~。お昼寝の時間なくなっちゃうよ」

「こういう時でも昼寝はするんだ」


 ねるちゃんはいっつもお弁当食べたあと寝てしまうから、わたしは暇になる。

 今日は明伊子ちゃんいるんだし、お喋りしたかったな。


 わたしとねるちゃんは机をくっつけて、いない人の椅子を少々お借りして、三人でお弁当を食べ始める。


「あの……星見ちゃん。今日は、夢羽君は?」

「そういえばいないね~。いつもなら昼休みもセイちゃんの後ろにいるのにね」

「背後霊みたいに言わないで」


 そう、彼はわたしがお弁当を食べている間ずっと後ろに立っている。

 いや確かに学校にいる間は行動を共にしていいって言ったけどさ。

 お手洗いにまでついてこようとしたから、そこはさすがに怒ってやめさせた。


「最初は色々鬱陶しかったけどもう慣れちゃったなぁ」


 木の声と同じで。


「セイちゃんは変な人を引き寄せるからね~。耐性があるんだよ」

「いやだよそんなの……」


 わたしが図太くなった原因、そこにもあったか。やだなぁ、もう繊細さの欠片もないんじゃない? 木の妖精とはかけ離れていくね。


 そういえば最近はその変態も近寄って来なくなった。夢羽くんが彼らを導くとか言ってたけど、なんかしてるのかな。


「じゃあ夢羽君、今日は珍しく星見ちゃんから離れてるんだ?」

「あ、そうそう。なんかね、用事があるみたい。屋上に呼び出されたんだって」

「そうだったんだ……」


 そこで会話が途切れ、わたしたちはお弁当のおかずをもくもくと食べる。

 そして最初に食べ終わったねるちゃんが一言。


「ごちそうさま。ね、それって告白かな?」

「うん? なんの話――」


 一瞬なんのことかわからなかったけど、すぐに最後の会話と繋がる。

 夢羽くんが、屋上に呼び出された。


 ――告白をされに!?


「え、まっさかぁ。ムーの戦士だよ?」

「でも……夢羽君、銀髪で背も高くて、目立つから……」

「そだね~。黙ってればイケメンだよね~」


 いやいや、だからって……いやいや。


「……気になってきた。よし、見に行こう!」

「そ、そうだね。私も、気になるから……」

「いってらっしゃい~。ワタシはお昼寝タイム~」

「って、焚きつけておいて寝るの?」


 ねるちゃんにとっては昼寝のが優先らしい。そりゃそっか。

 わたしと明伊子ちゃんは急いでお弁当を片付けて、屋上へと走った。


 どうしよう、本当に告白されてたら。

 わたしはそのシーンを想像して……。


「ふふ――面白くなってきた!」

「星見ちゃん……」



 だけど、たどり着いた屋上で見たその光景に、わたしたちは絶句する。


「っ……なんで、なんで俺じゃダメなんだよぉ……」

「……泣くな、岩室いわむろ連司れんじ


 夢羽くんの前で、が膝を突いて泣いていた。




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