第1267話 「活躍」
「ま、まぁいい。 大した事なくても機会は機会。 頑張って行くぞ!」
団長はおー!と拳を振り上げるが、部下はジオグリスを筆頭に沈黙。
「おー! おー! おー!」
むきになったのか何度も同じ動作を繰り返すとジオグリスが溜息を吐いて拳を上げると部下達も「仕方がないな」と言わんばかりに拳を上げる。
「もぅ、何だよぅ。 何で皆、こんなにノリが悪いの……。 概要は以上だけど、ジオグリス。 何かあるか?」
「今回は我々だけでなく「オデッセイ」との合同作戦となる。 先鋒は――というより、ぶっちゃけるとオデッセイのデモンストレーションがメインなので任せてフォローに回る形で問題ない」
「よくない! 問題大ありだ! 私達がメインだろ! メインだろ!」
「はいはい、メインメイン。 上の意向としてはオデッセイが実戦でどれぐらい使えるのか見たいらしいので、出しゃばらずに初手は譲るように。 まぁ、取り逃がしようがないから気楽に行こう。 万が一に備え、出撃前に人格のバックアップを取っておく事は忘れないように」
ジオグリスが以上、解散と言ってその場はお開きとなった。
「何でお前が解散の合図まで出してるんだよ!」
「え? あぁ、すみません。 やりたかったんですか?」
場所は変わって廊下。 ジオグリスと並んで歩く団長が彼の服の裾をぐいぐいと引っ張る。
「皺になるから引っ張るの止めて貰えません?」
「そんな事より、オデッセイに先鋒を譲る事に納得していないぞ!」
ジオグリスは小さく溜息を吐く。
団長の言いたい事も理解はしている。 彼女達は混沌騎士――この世界を支配する神に仕える教団の剣だ。 その中でも団長の序列は低い。
教団全体で見ると二軍どころか三軍、四軍レベルだ。
実力的にはそこまで見劣りするものではないが、上が強すぎるので活躍の機会に恵まれなかった。
特に枢機卿や教皇クラスになるともはや異次元だ。 そんな中、団長はよく頑張ってはいたが、功績がないと評価が付いて来ない。 だからこそ、こういった機会は最大限に活かしたいと考えていたのだ。
彼女の功績へのこだわりは理解できるが、彼らは私人である前に教団と神に仕える身。
最優先するべきはこの世界の利益と意向だ。 オデッセイは少し前に同胞となった存在で、参加してから日が浅いにもかかわらず凄まじい成果を上げているが、戦闘面ではまだ未知数との事でどの程度使えるのかを見る意味もあるのが今回の合同作戦となる。
特にオデッセイは教団ではなく、研究所という別組織の所属なので邪険にすると後が面倒といった気持ちもあった。
「団長も分かってるでしょう? お披露目も兼ねてるんですから、我々は後ろでのんびり見てればいいんですよ。 僕の方でオデッセイには話を通しておいたのでちゃんと上も評価してくれますって」
「いやだ! 私は格好良く敵をバッサバッサと薙ぎ倒したいんだ!」
「また、子供みたいな事を言い出して……」
「私も伝説の勇者みたいな活躍をして凱旋したいんだよ!」
「研究所を怒らせたら予算をカットされますよ? そうでなくてもウチの最大スポンサーなんですからいい顔しときましょうよ。 下手にごねて上から怒られて装備のメンテも後回しにされたら目も当てられませんよ?」
「……うっ」
ジオグリスの言葉に団長は今度こそ沈黙した。
ようやく納得したかと内心で胸を撫で下ろし、思考をこの先の事へと切り替える。
殲滅戦はあまり経験がないので、少しだけ不安だった。 過去に後方支援といった形で参加した事はあったが、上位の権限を持った状態での参戦は初だ。
団長に繊細な指揮は難しいので自分がしっかりしなければとジオグリスは気持ちを引き締める。
ここでいい結果を出しておけば団長の評価にもつながるので頑張ろう。
部下からは馬鹿だとは思われているが、この団長は何だかんだと人望はあったのだ。
「――はぁ、せめて隣だったらもうちょっと活躍できそうだったのになぁ……」
「あぁ、確かあっちは評価Eだったので少しマシでしたね。 ただ、戦力規模が手頃だったのでバイオ部門の新型グロブスターが投入されたらしいですよ」
「あぁ、さっき映像見たけど凄い事になってたぞ。 バイオ部門の連中『これでしばらく食料に困らない』とか言ってたから近々、食堂や百貨店に並ぶんじゃないか?」
「皆、燃費悪いですからねぇ。 個人的には肉が安くなるから歓迎ですが」
特に大型の個体は非常に大喰らいなので、食料に関してはあればあるほど喜ばれる。
彼らの言うグロブスターというのは品種改良された寄生型の生物兵器で、侵入した生命体を乗っ取った上で変異させる能力を持っているので敵の戦力を奪いつつ自軍を強化し、使い終わったら食料に変えるといった非常に無駄がない素晴らしい兵器らしい。 食料問題は彼らの中でも優先度が高い案件なので、バイオ部門の申請は通りやすかったのだ。 次点で兵器開発、最後に教団や軍となる。
彼女の率いる団は教団内部でもあまり地位が高くないので優先順位はかなり低く、今回は幸運にも出撃の許可が下りた形となった。
ジオグリスは苦笑して団長の肩をぽんぽんと叩く。
「まぁ、相手の能力が想定を下回るようならちょっと見せ場を譲って貰えるように頼んでみるので、元気を出していきましょう」
「そ、そうだな! よーし、敵将を撃破して格好良く凱旋するぞ!」
あっという間に機嫌の直った団長を見てジオグリスはちょろい人だなと生暖かい視線を向けた。
ずらりと並ぶ神聖騎と深淵騎。
この世界に存在する全ての戦力をかき集めた。 まさに総力と言っていいだろう。
彼らはこれから現れるであろう敵を迎え討つ為に
当初は予知能力を持った神聖騎を用いて、相手の出方を予測するつもりだったが何らかの作用が働いているのか全く読み取れなかった。
――だが、この世界が無残な姿になる未来だけははっきりと見えたのは皮肉ではあったが。
そこから逆算して敵の襲撃タイミングだけは分かったので、無駄ではなかったが絶望は深まった。
雅哉も当然参加しているので戦闘空域になるであろう場所で敵が現れるのを待っている。
振り返るとラーガスト王国と本陣にいるルクレツィアの神聖騎。
周囲には朶や佐渡屋、そして戦力として組み込まれた手簀戸の姿もあった。
地界を滅ぼしたとされる醜悪な化け物の群れ。 その対策は可能な限り成された。
前情報がない状態ではなく、今回は準備をして迎え討つ事ができる。
勝利は難しいが、退ける事で容易ならざる相手と認識させて手を出しにくくなってくれれば。
そんな茫漠とした未来に賭けねばならい程、状況は絶望的だ。
雅哉はまだ現実に完全に理解が追いついているかと言われれば、頷けないがきっと何とかなる。
彼は希望を信じていたのだ。 何故なら異世界の勇者は世界を救うものなのだから。
――そんな彼の楽観とも言える思いは、世界回廊の向こうから現れた存在の前に容易く塗り潰された。
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