第1260話 「03」

 開始された戦闘は優勢に進んでいた。

 既に展開が済んでいた管理AI率いる無人兵器群は、遅れて展開した敵軍の機動兵器群を次々と撃破する。

 光学兵器が障壁を貫通して敵を蒸発させ、質量弾が打ち砕く。

 

 敵は僚機が破壊されても何の痛痒も感じていないとばかりに攻め手を緩めない。

 戦闘が開始されてそれなりの時間が経過しているので、敵の兵器群に対しての分析も進んでいた。

 解析の結果は非常に不可解なもので、この世界の常識では少し考え難い代物ともいえる。


 金属質な見た目に反して数割が生体パーツを用いられていた。

 驚くべき事に敵の使用しているのは生体兵器なのだ。

 制御や演算に生体脳を利用し、場合によっては乗り手を必要とせず臨機応変な対応を可能とする。


 その為、有人、無人の判別は付かない。

 何故なら内部の生体反応がパイロットの物かそうでないかが分らないからだ。

 クローニング技術はこの世界にも存在するが、何故か短命となってしまう事もあって生命への冒涜として禁じられている。

 この世界では生体兵器は倫理に悖る存在として忌避されているのだ。

 

 管理AIに倫理観は存在しないが、自身に刻まれた厳格なルールのみが彼らの行動を規定する。

 敵の掃討は進んでいるが同時に味方にも相応の損害が発生しているので、優勢ではあったが確実に勝利できるのかは未だに未知数。


 油断なく増援を送り込み、完膚なきまでに叩き潰さんと戦力を追加する。


 ――敵の損耗率三十パーセントを突破。


 ――敵空母を撃沈。


 ――敵機動兵器のスペック解析が完了。


 味方から入るのは朗報ばかりなのだが、敵に動揺の類は一切見られない。

 ここに人間が一人でもいればその不気味さに眉を顰めるかもしれない程に敵の動きは異様だった。

 だが、管理AI達はその手の機微に疎く、優勢ならば畳みかけるといった機械的な判断で攻め手を緩めない。


 状況は優勢で敵兵器のスペックもほぼ完全に把握した。

 俯瞰で見れば勝ちは揺るがないと言っていい。 そんな状況にある変化が起こる。

 敵の増援が現れたのだ。 空間に開いた穴から追加の艦隊が次々と吐き出される。


 空母が敵を吐き出し始めたが、黙って見ている訳もなく攻撃を集中するが――


 ――その全てが無効化された。


 厳密に言うなら効果が全くなかったのだ。

 全ての光学兵器から放たれた攻撃は命中しはしたが、その装甲になんの損傷も与えられなかった。

 管理AI達の解析の結果、全ての攻撃は吸収されて敵のエネルギーに変換されていたのだ。


 同時に無人兵器群が次々と破壊される。 それを成したのは唐突に現れた敵の兵器だ。

 かなりの大型機で人型から逸脱しており、周囲には杖や剣のようなものが浮遊している。

 杖からは酸素の存在しない宇宙空間にもかかわらず火球のようなものを飛ばし、剣はコマ送りにしなければ視認できない速度で振るわれて無人兵器群を次々と両断する。


 今までの機体とはスペックが違いすぎる敵の兵器に管理AI達は急いで対応に入った。

 それ以前に疑問があった。 この機体群は一切探知されずに出現したのだ。

 解析の結果、空間転移の反応があったので転移して来たのは早い段階で明らかになったが、転移には膨大なエネルギーを必要とするので戦艦並みの大型兵器でもないと現行の技術では難しい。


 機動兵器レベルでの運用はこの世界では実用化には至っていない。

 その為、転移での奇襲は想定できなかったのだ。 加えて、最初に空母から戦力を展開した事もそれに拍車をかけていた。 まるで今までが小手調べと言わんばかりに敵の戦力構成に変化が生じる。


 最初に繰り出した人型に加えて転移により出現した大型兵器。

 その後に出て来たのは更に異様な個体群だった。 形状こそ人型だったが、生体の割合が多いのか装甲の隙間に肉のようなものが見えており、鼓動するように全身が脈動している。 宇宙空間で何故、生身が剥き出しの状態で活動できている点も異様ではあったが、あまりにも醜悪な見た目でその悍ましい姿に常人であれば強い嫌悪感を抱くはずだ。 異形の胸部装甲が展開する。


 内部には等間隔に穴が開いており、察しの良い者ならすぐにどういった用途で使用されるのかを悟るだろう。

 管理AI達も即座にその正体を看破する。 ミサイルの発射機構だ。

 

 実弾兵器は光学兵器主流のこの世界ではやや需要が低いが、有用ではある。

 それでも文字通り光の速さで対象を射抜く光学兵器に比べれば見劣りしてしまうのだ。

 この世界の常識に則り、脅威度は低く見積もったのだが、それが間違いだったと気が付くのに数秒もかからなかった。


 ミサイルが飛び出すであろう穴が開眼したのだ。 巨大な眼球がギョロギョロと何かを探すように視線を彷徨わせると飛び出した。 確かにミサイルではある。

 だが、あちこちに生体反応が存在し、弾頭部分が生物の眼球そのものの異様さは管理AIの理解の範疇を軽く超えていた。

 

 ――使い捨ての兵器に生体パーツを用いる意味は? そこに合理性はあるのか?


 無数の疑問の答えを裏で検討しつつ、ミサイルである事は間違いないといった判断の下、撃墜を指示。

 光学兵器が薙ぎ払わんと襲いかかるがそのミサイルは驚くべき事に攻撃を回避したのだ。

 ミサイルは信じられない挙動で攻撃を回避し続け、管理AI達の操る戦艦に突き刺さると爆発。 命中した艦船はそのまま大破し残骸を宇宙にばら撒いた。


 ミサイルは的確に戦艦の急所に突き刺さると爆発し、次々と沈めていく。

 たったの一発のミサイルで艦が一隻沈められるのだ。 凄まじい戦果といえる。

 

 ――知性化精インテリジェンス・密誘導弾スマートミサイル


 それがあの悍ましい兵器に適した呼称だった。

 さっきまでの苦戦は何だったのかと言いたくなるほどに敵が巻き返しを始める。

 特殊弾頭によるミサイル攻撃だけでも脅威だが、それ以上の脅威が現れたのだ。


 それは――

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