第1259話 「歳近」
入って来たのは雅哉と同年代の少女だった。
軍服のようなデザインの制服に身を包み、髪は短く切りそろえられている。
ルクレツィアや佐渡屋のハーレムを見た後だとやや見劣りするが、充分に美人に分類される顔立だ。
「
「あ、どうも山埜和 雅哉です。 よろしくお願いします」
「歳、近いみたいだしタメ語でいい?」
「あ、どうぞ。 私もそうするから」
「助かるよ。 朶さんも俺みたいにあちこち回ったの?」
「うん。 一か月ぐらいかけて全部の国を回った感じかな? 割ときつめのスケジュールだから覚悟した方がいいかもね」
「……あー、やっぱりか……」
予定が詰まっている事は雅哉も聞いていたので驚きはなかった。
明日に戻ってきた面子と話した後、インブルリア王国を一回りして次の国へと向かう。
滞在期間は大抵、三日から五日で、一か月と少しぐらいで全ての国を回る予定となる。
異世界召喚を行うのは各国で厳しい取り決めがあり、召喚する順番も決まっているので召喚者が挨拶に回って来る事もスケジュールとして各国に把握されているのだ。
わざわざ、こんな面倒な手順を踏むのは個別で面通しさせて最低限の関係性を構築しておきたいといった狙いもあるようだ。
「――それだけ例の事件が尾を引いてるんだろうね……」
「俺も話は聞いたけど、そんなにヤバかったのか?」
「強さ的にも素行的にもヤバかったってさ。 私がこっちに召喚された時には結構、経った後だけど相当やらかしたみたいね」
第一位の天使――セラフィム級。 滅多に現れないセフィラを除けば最上位の神聖騎だ。
あまりにも強すぎるので使い手に技量が一切必要ないとまで言わしめた。
朶も眉唾ではないのかと疑いはしたが、当時を知る者は誰も彼もが炎の剣を適当に振るだけで次々と敵が消し飛んだと語る。
「確かに聞いた話が本当だったらここの人達がご機嫌を取りたくなるのも分かるな」
「まぁ、それをやった結果、他が残らず裏切ったんだから失敗だよね」
お陰で戦況は致命的ともいえるレベルで悪化してしまったのだ。
その反省を踏まえて味方の関係を密にして、離反や裏切のリスクを可能な限り減らしておこうとの事らしい。
「だから、召喚はスケジュールを組んで順番に行い、呼ばれた日本人はこの世界に触れさせて情が湧くように色々な人達や同郷の人間と交流を行って結束を固めるんだってさ」
「……何か色々と大変だなぁ……」
「何を言ってんの。 後輩が出来たら山埜和君が挨拶される立場になるよ」
「あー、そうなるのか――とは言ってもそろそろ攻めるって話だけど、俺に後輩ってできるの?」
「うーん。 タイミング的にはあと一人か二人は来ると思うから、行く前ぐらいに後輩ができるかも」
「そっかー……」
雅哉は何とも言えない気持ちで小さく唸る。
朶は話が一区切りと判断したのか立ち上がった。
「ところでまだ時間あるよね?」
「え? まぁ、今日は朶さんと会うので予定は最後だからあるけど……」
「なら、ちょっと一戦してみない?」
彼女はにやりと笑って見せる。 雅哉はこういう奴かと朶の印象を内心で変えた。
「分かった。 やろう」
模擬戦の申し出は彼にとってもありがたい事だったので即答する。
初戦の時点で自分には経験が足りていない事は明らかだ。 経験不足を解消する意味でも先輩である朶に相手をして貰えるのは貴重な機会だ。 有効に活用するとしよう。
上位の神聖騎による模擬戦なので何かあった時にフォローに入る人員が周囲で待機し、雅哉は朶と向かい合う。 既にケルビム=エイコサテトラは召喚済みで、朶も同様に召喚が済んでいた。
彼女の神聖騎は薄みがかかった赤い騎体で全体的に重厚な印象を受ける。
雅哉の抱いた印象は「マッシブ」だった。
『なんか強そうだな』
率直な感想だった。 彼のケルビム=エイコサテトラは格上ではあるが、流線型の形状からやや脆そうな印象を受けたので朶の分かり易く強そうな見た目をした神聖騎が少しだけ羨ましかった。
『私からしたらケルビム級を引き当てたそっちの方が羨ましいけどね。 取りあえず、改めて私は朶 籌子。 神聖騎はスローネ=サルコメア。 よろしくね?』
『どうも。 こっちは山埜和 雅哉。 神聖騎はケルビム=エイコサテトラだ』
二騎が距離を置いて向かい合う。
『模擬戦ってやった事ないんだけど、どうすれば勝ちなんだ?』
『殺すのはNGだけど、能力的にやり過ぎるからちょっと危なそうと思ったら周りが止めるか自己判断で終了。 あくまで交流が目的だから熱くならないでよ?』
『了解だ。 よろしく頼む』
『オッケー、じゃあ始めよっか。 誰か、合図をお願いしまーす!』
審判役が操る神聖騎の合図で戦闘が開始された。
戦闘経験が一度きりの雅哉としてはあまり器用な動きはできないので速攻をかけるつもりだ。
始まりの合図と同時に雅哉はケルビム=エイコサテトラの出力を半分ほど解放して突進。
回転を加えながら繰り出される体当たりは正しく必殺といえる。
普通なら反応すら許さずに相手は粉々に砕け散るだろう。
だが――
『おっと』
朶のスローネ=サルコメアはその一撃をあっさりと回避。
ケルビム=エイコサテトラは何もない空間を通り過ぎ、離れた場所で弧を描くように旋回。
『くそっ、もう一度だ!』
『あぁ、ダメダメ、そんなんじゃいつまで経っても当たらないよ』
朶は事前に雅哉の戦闘に関する情報を集めていたので何をしてくるのか事前に予測しており、奇襲に反応した上での対応ではなかったが、雅哉からすれば必殺をあっさりと躱されたので大きく動揺していた。
以前の戦いで手簀戸のデューク=メラノサイトを一撃で戦闘不能にした事もあって、無意識の部分で自分はやれると増長していたのだ。
朶はその点を正確に見抜いてはいなかったが、一度は鼻っ柱を圧し折っておいた方が今後の為にはいいと思っていた。 内心としては思ったよりもケルビム=エイコサテトラの動きが速かったので、かなり際どいタイミングでの回避だったので冷や汗をかいていた。
――やっぱりケルビム級はヤバいなぁ……。
素のスペックでは圧倒的とまでは言わないが上なので性能勝負に持って行かれると確実に負ける。
だが、朶は今の雅哉相手なら充分に勝てるとも思っていた。
雅哉は体当たりしか攻撃手段がないので再度、突撃の体勢を取っている。
その素直過ぎる攻めに朶は苦笑。 召喚された当初の自分もこんな感じだったかなと思ったからだ。
雅哉の攻撃を余裕を持って躱し、どう反撃するかと戦い方を脳裏で組み立てた。
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