第1258話 「挨回」
パパバシリオとの話を終え、他の召喚者に会いに行く流れとなった。
インブルリア王国に召喚された者達は国のあちこちに散っている上、呼んでも来ないので雅哉は方々を回れと言われそのまま順番に国を一周しつつ挨拶する形になる。
最初の一人は王城から少し離れた場所に大きな屋敷を構えているらしく、実際に行ってみて雅哉は驚いた。
巨大な門に入ってすぐの場所には噴水。 使用人らしき者達が大勢いる。
「うわ、すっげ……」
雅哉はそんな事を呟きながら中へ。 事前に向かう旨は伝えていたのでスムーズに入れてくれた。
広い応接室に通され、大きなソファに腰を下ろして待っていると大量の足音。
「お、お前が隣の国に呼ばれたって奴か」
入って来たのは大学生ぐらいの男で髪を金に染めており、全身に高そうな装飾品を身に着けていた。
そしてその周囲には大量の美女。 一目見ただけでハーレムという単語が連想された。
佐渡屋は雅哉の向かいに腰を下ろし、周りの女達が定位置であるかのように彼の左右に侍る。
雅哉は佐渡屋にいい印象を持てなかったが努めて表には出さずに自己紹介と挨拶した。
佐渡屋は「ふーん」と薄い反応を返し「ま、よろしく」とだけ口にする。 彼は雅哉を探るような視線で見つめていた。
「な、なんですか?」
「いや、お前、結構いい神聖騎と契約しただろ? ケルビム級か?」
あっさり言い当てられ雅哉は驚くと佐渡屋はにやりと笑う。
「へぇ、ケルビムを当てる奴はそんなに多くないからお前、ラッキーだったな。 大抵の奴は一個下のスローネ級だ」
「そうなんですか?」
「あぁ、ここじゃ、神聖騎の階級がモロに待遇と生存に直結するからいいのを持っておくに越した事はない。 かくいう俺もケルビム級だ」
佐渡屋は自慢げに胸を張る。
雅哉はぼんやりと楽しそうだなとは思ったが、同時に軽そうだとも思った。
この手の人種は大抵、状況が悪くなると裏切るような印象を受けるからだ。 根拠はラノベ知識だが。
「佐渡屋さんはこの世界の事情を知ってるんですよね?」
「あ? 事情? どれの事だ?」
「負けそうって所です」
「あぁ、知ってるけどそれがどうかしたか?」
あっさりと現状を知った上でここにいると言い切った事に雅哉は少し驚く。
「向こうにも誘われたんじゃないんですか?」
「誘われたな」
「なら、なんでですか?」
佐渡屋は雅哉の質問を鼻で笑う。
「お前、あっちの召喚者がこっちより遥かに多いって話は聞いてるか?」
「はい、負けそうな理由でもありますよね?」
「そうだな。 向こうは呼ばれた連中が多い。 多いって事は待遇も多いなりのものになる。 言ってる意味が分かるか?」
「こっちでは貴重だから好待遇になるって話ですよね?」
「あぁ、そうだ。 このインブルリア王国で働けばいい女は抱き放題だ。 見ろよ俺の女達を、こいつ等はみーんな俺の妻だ」
佐渡屋の周囲にいる女達は全員、かなりの美人だ。 誰と目を合わせても雅哉は照れから逸らしてしまうだろう。 佐渡屋は隣の女の胸を揉むと女は悩まし気な声を上げる。
「な、なにを――」
「こんな事をしても許される。 日本にいた頃はしょうもねぇバイトで食い繋ぐだけのつまらねぇ生活だったが、こっちでは立派な騎士様だ。 俺にとってここは天国みたいなもんだ。 ヤり放題のこの生活を手放せるかよ」
佐渡屋が左右の女達を抱き寄せると女達は佐渡屋に絡みつくように身を寄せる。
「――ま、向こうの話はこっちに来てすぐぐらいに聞いたから、もしかしたら連中がフカしこいてる可能性もなくはねぇが、俺は今のままでいいんだよ。 だから向こうに付く理由がねぇ。 ――で? お前はどうなんだ? まさか俺にだけ言わせる訳ねぇよなぁ?」
流石にごまかす事は躊躇われたのでここまでの経緯を正直に話す。
佐渡屋は馬鹿にしてくるだろうと思ったが意外な事に笑わなかった。
「ふーん。 まぁ、いいんじゃねぇの? 王族だったらガキは認知できねぇから、気ぃ使う必要はあるが、その辺呑み込めるならありじゃね?」
「……笑わないんですか?」
「あ? 何で? お前、そのルクレツィアって王族とヤりてぇんだろ? じゃあ俺と一緒じゃねぇか、なんか笑う所あったか?」
「い、いえ……」
その後はお互いの神聖騎の能力の話をしてお開きとなった。
「どっかのタイミングで合同演習をやるみたいだからそん時はよろしくな」
佐渡屋はひらひらと手を振って雅哉を見送った。
使用人らしき女性に先導されて門まで戻ったが、その途中に「誤解しないで欲しい」と言われた。
何の話だと思ったが、彼女曰く佐渡屋はああ見えて真面目な男らしい。 仕事はしっかりとこなし、態度こそ軽いが、侍らせている女達にも乱暴な真似はしていないようだ。 そして何より最近、子供ができたらしい。 その時の喜びようは使用人達の間での語り草のようだ。
この手の人間は責任を取らないと雅哉は思っていたが、佐渡屋はその例に当てはまらず妊娠した女性をよくやったと抱きしめたらしい。
小さく後ろを振り返り、人は見た目によらないんだなと思いつつ、雅哉はその場を後にした。
王城を中心に広がる街――王都には召喚者が合計で四名いるが、内二名は現在外に出ているらしくこれからもう一人に会いに行く事になる。
居る場所は軍事施設で、主に騎士の訓練や敵襲に備えての詰所も兼ねているようだ。
付けられたガイドに神聖騎から派生した技術で生み出された車に乗せられ佐渡屋の屋敷から目的地へと向かう。
着いた先は分かり易く、基地といった様子だった。 広場のような場所では神聖騎が模擬戦を行ったり、全身鎧の騎士達が忙しく行き交っている。
神聖騎の種類に関しては大雑把だが頭に入っているので形状を見ればどれぐらいの階級の騎体なのかは分かっていた。 どれも中級や下級の騎体ばかりで構成されている。
これだけの数が居て上級が居ないのはそれだけ召喚者が貴重だという事だろう。
もっと余裕のある状況であるなら、ちょっとした優越感も味わえただろうが今の雅哉には他所を見下せるほどの精神的な余裕はなかった。
基地の中に入り、車を降りると中へ案内されて待つように言われる。
通された部屋は佐渡屋の屋敷と違ってやや質素な印象を受けた。
出されたお茶を飲みながら少しの間待っていると部屋の外から足音。
どうやら来たようだ。
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