第1164話 「光緑」
「はっ! 訳わからん奴が次々出て来ておもろいやんけ!」
本来なら心が折れる光景であってもオラトリアムは戦意を失わず、一部の者は首途を筆頭に面白いと不敵に笑う。 戦闘機は背後を取れば旋回性能に優れるエグリゴリシリーズなら問題なく撃墜できるのだが、問題は良く分からない形状をした飛行物体群だ。
推進装置の類を一切積んでいないにもかかわらず全てを無視した意味不明の機動で翻弄し、武装らしきものが見当たらないのに謎の光線や良く分からない飛び道具で攻撃してくる。
空は足の速い敵が多く接触は即だったが、脅威は地上にも存在していた。 航空機が居るぐらいなのだ、陸上兵器が存在しない訳がない。
戦車らしき車両や二足歩行する魔導外骨格にも似た兵器群が続々と姿を現していた。
射程の長い遠距離攻撃手段を備えており、有効射程に入ったと同時に攻撃を仕掛け始める。
今まではオラトリアムが一方的に攻撃を繰り出す事によって侵攻ペースを大きく落としていたが、反撃され始めた事により攻撃の密度が薄くなるのだ。
それにより地上から接近してくる量が増加、状況が一気に悪くなる。
こうなる事は想定していたので簡単に崩れる事はなかったが、ジリジリとだが押し込まれ始めたのだ。
前線で指揮を執っていたアブドーラは忌々しいと敵の軍勢を睨みつける。
特に遠距離攻撃を放って来る兵器群が厄介だった。 空中で炸裂して広範囲に破片をばら撒く砲弾や光線、魔法的な強化が施されているのか発射と同時に着弾して爆発する謎の弓矢など、統一感が全くないので有効な対処法を即座に指示できないのだ。
統一感のなさではオラトリアムも負けてはいないが敵の攻撃はそれを遥かに上回る多様性を備えている。 上空を回遊するディープ・ワンが周囲に生み出した大量の水を操ってレーザーのように発射して敵を薙ぎ払うが、戦闘機は簡単に落ちるが円盤や謎の飛行物体群はジグザグに動いて回避しつつ滑らかな動きで反撃。 謎の攻撃は周囲に浮かんでいる水の障壁を容易く貫通してその身に大きな傷を刻む。
エグリゴリシリーズ――特にレギオンは謎の飛行戦力に速度で対抗できる数少ない存在なのでそちらにかかりきりとなってしまっているのだ。 それ程までに円盤や流線型をした飛行物体は速く強い。
――だが、それらを次々と撃墜している機体があった。
百足のような下半身をした異形の機体――サイコウォードだ。
グノーシス戦に投入された時よりも二回り大型化しており、火力が大幅に増していた。
サイコウォード++。 レギオンとインシディアスのように専用のプラスパーツで機能を拡張した姿だ。
パイロットであるニコラスも更なる改造を受け、補助脳により処理能力が格段に上昇している。
それにより目で追う事すら難しい飛行物体群の動きを正確に捉え、ターゲットロック。
胴体の前に巨大な魔法陣が出現し、無数の光線を発射。 若干の追尾性能を備えた攻撃は次々と敵を射抜き撃墜していく。
当初は戦艦の撃墜に動こうと思っていたが、動きの早い機体を狙った方が良いと判断して飛行物体の撃破に集中していた。 速い上に不規則と、非常に捉え難い相手ではあるが所詮は模倣品だ。
パイロットの動きも模倣の域を出ない以上、よく見ればパターン化されているので目が慣れれば彼にとって撃墜は難しくない。 ただ、敵が多すぎるので慣れるまで時間をかけていられないのが問題なのだ。
――キリがない。
そんな弱音は考えても口には出さない。 自分達が目指しているのは勝利だ。
ならば負けた時の事を考えるのは無駄でしかない。 だから彼は敵を睨みつけ、自らを鼓舞するように吼えるのだ。
「オラトリアムを舐めるな!」
光線で円盤を撃ち落とし、機銃のようなもので攻撃してくる戦闘機を精製したハルバードで叩き潰す。
戦意は未だに衰えず、機体の損傷も軽いのでまだまだ戦えるが、このままでは身動きが取れない。
特に戦艦群は数を減らしておきたいが――不意に巡洋艦が撃沈される。
それを成した存在は大きく旋回しながら自らの戦果を誇っていた。
「はーっはっはっは! タウミエルだか何だかしらんが、オラトリアムの敵め! この英雄マルスランの手柄になるがいい!」
マルスランだった。 彼の操る巨大なフライトユニットは更に大型化を果たしていた。
コン・エアーⅣ。 海中から引き上げられたⅢを強化した代物だ。
武装の追加などはなく、大型化による単純な出力強化となっている。 それに加えて使用者を守る為の防御用の兵装と技師が気を使って取り付けた魔力の残量が減ると警告アラームが鳴る機能が追加された。
マルスランはこの期に及んで尚も手柄にこだわる男なので、雑魚をチマチマと撃墜するなんて足しにならなそうな敵を相手にするより堂々と戦果を主張できる戦艦の撃沈をひたすらに狙っていた。
一番大きな戦艦や数百メートルクラスの巨大個体ではなく、比較的サイズの小さい軽巡洋艦や駆逐艦ばかりを執拗に追いかけまわしている点は非常に彼らしかった。
大型化によって旋回性能はⅢに比べて低下したが、強化された装甲と火力はそれを補って余りある。
「滅べぇ! マルスランソォォォド!」
本体側面に取り付けられた砲に魔力が充填。 これは量産型ザ・コアを大型化したもので、それをグリゴリの固有能力で強化して火力を底上げしているのだ。
ちなみに普通に射撃する時はマルスランビームだったりバスターだったりするのだが、今回は剣のように振り回しているのでソードと呼称している。
薙ぐような軌道で発射された光線は駆逐艦を両断して撃沈。
あくまで魔力で再現された模倣体なので一定割合を破壊されると自然に霧散する。
無を冠する者達への基本的な対処法は生き物であるという認識を捨てる事だ。
人型だからといって急所を狙わず、とにかく「破壊」する事を念頭に置く。
小型なら胴体。 大型なら末端ではなく中心を破壊する。
その点で言えばマルスランは非常に呑み込みが良かった。
――というよりは彼自身が派手に戦果を上げる事にこだわっている結果ではあるが。
消滅する駆逐艦を尻目に貪欲に次の獲物を探す。
「七隻目! ははっ! これで一番手柄は貰ったようなものだな!」
攻撃を当てるのが難しい戦闘機などはミサイルやばら撒けるタイプの兵装で追い払う。
コン・エアーⅣの兵装は威力を重視しているので細かい狙いを付けるのにあまり向いていない。
無論、ミサイルなどは<照準>の魔法を使用すれば命中精度は向上するが、そんな面倒な事はやらない。 何故なら大した手柄にならないからだ。
マルスランは笑い声をあげながら更なる手柄を求めて次の獲物に襲いかかる。
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