第1084話 「質疑」

 俺はサベージに跨り、目的地へと向かってのんびりと進んでいた。

 現在地はクロノカイロスに存在する新オラトリアムのど真ん中だ。

 乗っ取ったこの大陸は随分と様変わりしており、見慣れたオラトリアムの設備や地形が移植されてる。

 

 屋敷に始まり居住施設や畑、大きい物だと山脈から丸ごと山を持って来ていた。

 そして元々あった物で要らないものは全てヴァーサリイ大陸の北部へ投棄。

 移住も順調に進んでいる。 最終的にはオラトリアムの機能を全てここへ移す予定だ。


 クロノカイロスを滅ぼす際に大陸丸ごと乗っ取る事は目的に含まれていたので、拠点を変える事は早い段階で決まっていた。

 その為にかなり前からせっせとオラトリアムの各所で転移魔石の埋設作業を行っていたという訳だ。

 ただ、森林地帯と大陸北部の採掘都市は動かしようがないのでそのままとなる。

 

 まぁ、あそこからはまだまだ資材が取れるから放棄はあり得んがな。

 特に採掘都市は転移魔石の安定供給に必須なので、このまま営業を続ける事となる。

 ただ、ウルスラグナや他国からはそろそろ手を引く予定なので、人材の引き上げと業務の縮小は始めていた。 特に物品の取引などはもう必要がなくなりつつあったので、必要最低限に留める事になるだろう。


 海に囲まれた大陸は外敵からの襲撃に強く、ルートを制限すれば転移で侵入されたとしても即時対応が可能だ。 俺達がやったように強襲に対しての備えも怠っていない。

 まぁ、有効な手段があれば誰しも使うのは分かり切った事なので、それに対しての備えはしておくのは当然の行動だろう。


 引っ越しに関しては一通り片が付き、現在は捕虜の処理と元々あった防衛設備の解析と強化を行っている。

 屋敷は会議などの設備などに使用する事となり、パンゲアの本体とファティマの住居は現在王城だ。

 ちなみに目的地は会議場として使用している屋敷となる。


 位置関係としては山脈から持ってきた要塞化した山々はジオセントルザムの南部へ移植し、畑などは街の北西へと広がっている。 例外としてシュドラス山だけは大陸の中央に配置してあった。 首途の研究所は街の内部――中央からやや南東側へ移植。

 その隣には珍獣が仕切っている魔導書の生産設備がある。 珍獣妹の使っていた設備を再利用しようといった案もあったが、内部には大したものがなかったので倉庫として使う事になった。 


 一応、王城に俺用の私室があるが特に用事はないので使っていないな。

 普段は首途の研究所に入り浸っているので、王城自体に行ってはいない。

 やる事が多すぎて研究所は現在フル稼働中だ。 首途自身もかなり忙しく、今日の話には欠席となる。


 屋敷に到着。 サベージにはその辺で待っているように指示を出した後、中へ入るとその一室には既に参加予定の面子は揃っていた。

 ファティマとその護衛、アスピザル、夜ノ森、ヴェルテクス、エゼルベルトそして教皇。


 以上が今回の参加メンバーだ。 主に話すのは教皇で、他が質問を重ねるといった形になる。

 俺はもう記憶を吸い出しているので一通り知ってはいるが、意見を求めるかもしれないので居てくれと頼まれたのでこうして来ていた。


 「では皆、揃った所で話を始めるとしようか。 ――とは言ってもほぼ儂が一人で喋る事になりそうじゃがな!」


 最初に口を開いたのは教皇だった。 その口調は明るく朗らかだ。

 

 「いや、君さ。 ちょっと前まで敵だったのに溶け込むの早くない?」

 「はっはっは、細かい事ばかり気にしておったら長生きできんぞ?」


 アスピザルがやや呆れ気味にそういうが教皇は笑い飛ばす。

 まぁ、洗脳を施したので裏切る心配はない。 信用しても問題ないだろう。

 ヴェルテクスは何故かこちらを一瞥したが、気にしない事にしたのか何も言わなかった。

 

 残りの面子は無言。 これは俺が何か言った方がいいのか?

 まぁ、いいか。 さっさと進める為にも促す場面だろう。


 「取りあえず、こいつに聞きたい事がある奴はさっさと質問しろ」

 「……まぁ、ローがそういうならいいんだけど、じゃあ折角だし僕から行こうかな? まず分かりやすい疑問から――グノーシスの目的って結局なんだったの? 今一つ何を目指しているのか良く分からないんだけど……」

 「ふーむ。 どう答えたものか……。 今のグノーシスは以前とは違い、最終的な目的は存在せん。 ただ、我々の保身と人という種を守る為に次の世界に繋げる事だけを目指しておった」


 その回答にアスピザルとヴェルテクスが同時に眉を顰め、エゼルベルトははっきりと嫌悪感を露わにした。 

 まぁ、世界最大の宗教組織がはっきりと自分達が助かるためだけに活動していますと言い切れば思う所もあるだろうな。

 

 「はっきり言うね。 つまりは自分達さえ助かれば他はどうでも良いと?」

 「有り体にいえばそうじゃ。 自らの安全を確保した上で余裕があれば信用できそうな者達を救う。 後は知った事ではないのでそのまま放置じゃな」

 

 流石のアスピザルも絶句した。 教皇の思考は一貫しており、まずは自分の安全を確保。

 他人は余裕があれば救うといった形になる。

 それに対して意見を言えというなら「理解できる」だ。 洗脳前は「仕方なくやっている」感を出していたが、蓋を開ければこれだ。 やる事を変えないならはっきり言う分、分かりやすくて良い。


 「……あなた方を信じた者達に対して思う所はないのですか?」

 

 尋ねたのはエゼルベルトだ。 教皇は表情一つ変えずに頷く。


 「特にはない。 信じる信じないはその者の自由。 その結果、どうなろうとも自己責任じゃろう?」

 「あなたは――!?」

 

 声を荒げようとしたが大きな音に遮られる。 ヴェルテクスがテーブルに腕を叩きつけたからだ。

 視線がヴェルテクスに集中し、奴は真っ直ぐにエゼルベルトを見返す。

 それで冷静さを取り戻したのか「失礼しました」と沈黙した。


 「グノーシスとかいうもうくたばった組織についてなんぞどうでもいい。 俺が知りたいのは大聖堂の地下にあるあの訳の分からん塊だ。 アレの使い方を喋れ」

 

 静かになった所でヴェルテクスが改めて質問を行う。

 まぁ、奴はあのオブジェクトにご執心だったからな。 使い方に興味があるようだ。

 教皇は特に表情も変えずに小さく頷き、質問に答え始めた。

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