第1062話 「攻防」

 結構な防御性能のようだし、頭ぐらいは残るだろう。

 そんな考えで発射。 光線は教皇の振るった錫杖の切っ先に斬り裂かれるように真っ二つに分かたれる。

 割れた光線は壁に命中するが、壊れた様子はない。 見た感じ、壁に吸収されている?

 

 いや、この部屋自体が魔力を吸収する性質でもあるのだろうか?

 魔剣から魔力を吸い上げているらしい点を踏まえれば外れてはいないだろう。

 壊れないなら思いっきりやれるし好都合だ。


 第三形態のワーム、第四形態の円盤はそれぞれ光に掻き消される。

 何か特別な物を使っている訳ではなく、権能で魔剣の攻撃を完全に防ぎ切っているな。

 明らかに今までに見た連中とはレベルが違う。 遠距離系の攻撃や付与系の攻撃はほぼ通らない。


 このまま攻撃を継続して削るのも手だが、ダラダラやるのはあまり好きじゃない。

 さっさと仕留めに行くとしよう。 飛び道具に関しては鉄壁かもしれんが直接の殴り合いならどうだ?

 こちらの方が加減が効くので俺としても望むところだった。


 第一形態に変形させながら教皇の方へと走り出す。 ただ、真っ直ぐにはいかない。

 途中、台座に刺さりっぱなしの魔剣を引っこ抜く。 同時に魔剣は分解されて俺の魔剣へと吸収された。

 魔剣ベル・タゲリロン。 感じから察してはいたが機能が死んでいるので静かなものだった。


 戦いながらもう一本も回収しようかと企んでいたが、魔剣が脈打つように輝くと残りの魔剣が呼応。

 闇色の粒子状の存在となってこちらの魔剣と融合。 魔剣オギ・ベルゼビュート。

 同様に固有能力は使用不可。 魔力も吸われ続けていたようなのでしばらくは使い物にならんな。


 これで七本。 残りはクリステラの腰にあるうるさそうな奴とあるか怪しい第一の剣か。

 

 「本当に魔剣を操れるようじゃな! だが、辺獄ではない以上、限度はある」

 

 教皇はそう言いながら器用に錫杖を回転させ、槍のように構える。

 明らかに体格に合っていない得物だが、構えの時点で技量の高さが理解できた。

 第一形態を振り下ろす。 脳天を狙ったが、どうせ躱すだろうといった謎の確信があったので殺すぐらいがちょうどいいだろう。 同時に「憂鬱」の権能を強めて弱らせようと思ったのだが、あまり効いているように見えないな。


 教皇は攻撃の軌道を完全に見切っているようで身を低くして掻い潜るが、そのまま蹴りを入れ――ようとしたが俺の足は教皇の体をすり抜けた。 どうやら幻影の類だったらしく、扱いが上手いな。 微妙に重なるように生み出して目測をずらして来た。

 同時に軸足に錫杖を叩きつけられる。 しかも打撃ではなく何らかの付与を施しているのか斬られた感触がするな。


 「硬いのぅ、何で出来ているんじゃ?」


 斬撃は俺の肉を斬り裂いたが骨格部分に食い込んだままだ。 教皇は俺の足を切断するつもりだったようだが、骨で止まっていた。

 教皇が少し驚いていたが無視して左手を持ち上げる。 距離が近く左腕ヒューマン・センチピードを使い辛いので魔剣から炎を出しつつ左手から電撃を放出――と同時に足を切断されて体勢が崩れた。 発射したが、電撃の狙いが逸れて当たらない。


 炎に関しては教皇が器用に回転させた錫杖に散らされた。 やはりゴラカブ・ゴレブは使えんな。

 一瞬でも使えると思った俺が馬鹿だった。

 崩れた体勢を<飛行>で即座に立て直し、切断された足は即座に接合。


 そのまま追加で攻撃を繰り出そうとしたが、教皇はいつの間にか視界から消えていた。

 気配から背後という事はすぐに分かったので、障壁を展開。 攻撃を受けようとしたが、障壁も何かに侵食されるように急速に強度を失う。


 ……これは何をされているんだ?


 単純な火力で突破しているのではない事は分かるし、恐らく詳細が不明な展開している権能の効果なのは理解しているが具体的に何をされているのかがさっぱり分からなかった。

 飛んで来た突きは当然のように障壁を抜いて来るので体を傾けて回避。 下がりながら魔剣を第二形態に変形。 お返しとばかりに発射するが、さっきと同様に断ち割られる。


 「魔剣の形状を変化させて使い分けるか! 面白い扱いをする! だが、肝心の技量はお粗末じゃのぅ」


 俺は特に応えずに光線を再度発射。 同様に防がれる。

 教皇は錫杖を一閃。 風の刃が飛んでくる。 障壁を展開。 さっきと同様に急速に力を失うが、一応は機能したようで攻撃を防ぎ切った。


 ……ふむ。


 ここまでの攻防で多少ではあるが見えて来たな。

 まずは教皇自体だ。 技量はかなり高い部類に入る。 少なくともここに来るまでに出くわした連中とは格が違う。 子供特有の小さな体を活かした小回りに、鋭い攻撃と立ち回りも上手い。 


 それに加えて権能だ。 羽の展開枚数から七種類を並行して使用しているのが分かる。

 救世主の知識で得た範囲では最大でも五種が限界と言う事だったが、こいつは普通に七種類だ。

 何かでブーストしているのかもしれんが、それを差し引いても大したものと言わざるを得ない。


 間違いなくこのジオセントルザムで出会った奴の中では最強だった。

 次に見るべきはこいつが使用している権能だ。

 七種類と中々に多いが、七つあるとはっきり分かるので一つ一つ対処していけばいい。


 風の刃と攻撃に指向性を持たせている補助、後は身体能力強化。

 これは「寛容」「勤勉」「正義」だ。 救世主連中が漏れなく使っていたので確定だろう。

 後は目に見える範囲で認識できるのはこちらの魔力攻撃を無効化しているものと光線を防いでいるものだ。


 恐らくだが防ぎ方から別物だろう。 前者は無効化というよりは強引に分解しているのか?

 サベージが使っている「暴食」の権能に似ているが、完全に物質化している魔剣の第四形態の円盤を消している点を見れば無効化に限って言うのなら上位互換だろう。


 後者は空間に作用する能力と睨んでいる。 感じから前者が「純潔」後者が「分別」辺りか。

 両方ともまともに使いこなせた奴が居なかったので今一つ良く分からないカテゴリーだった。

 後は使っているであろう残りの「慈愛」「節制」だが、前者は回復、後者は防御に特化しているので必要に応じて使って来るといった感じだろうか?


 遠距離攻撃や拘束、状態異常系の魔法類は効果なし。

 権能は特性上、消耗が大きい筈なのでしつこくやれば削り落とせそうだが、教皇に消耗している様子はない。 運が良ければ通るかもしれないので影による拘束と邪視による妨害は続けておこう。


 飛び道具は効果がない以上、さっさと片づけるには接近戦が有効か。

 つまり正面から殴り倒せばいい訳だ。 何だ、簡単じゃないか。

 物事はやはり単純に考えるのが一番良い。 

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