第1061話 「吸込」
「ここまで聞いて我等に協力する気はないと?」
「寧ろ今までの話を聞いて俺が協力しなければならない理由が見つからんな」
教皇は思った通りに話を進める事が不可能と悟ったのか手に持っていた錫杖を握る手に力が籠り、装飾が小さく鳴る。
「良かろう。 話に応じず、魔剣を持っており、敵の総大将というのなら討たぬ理由はないのぅ」
「そうだな。 無駄な話をせずに殴り倒して力尽くで吐かせるべきだった」
それなりに有用な話は聞けた。
仮に洗脳が効かなかったとしても最低限の情報が手に入ったので死んでも問題ないだろう。
「あ、盛り上がっている所悪いけど、私は行かせて貰うわ? ほら、私ってか弱いし? そっちの人、多分だけど話を聞いてくれないでしょう?」
「聞くだけは聞いてやるが、指示に従わないなら殺す」
今までに手に入れた情報から余計な事しかしなさそうなので取り込むにしても洗脳が必須だな。
どちらにせよここまで来れている時点でそこそこの情報が入っている筈だ。 教皇と同様に記憶と知識は引っこ抜いておきたい。
ファウスティナは大きく肩を竦めるともたれかかっていたオブジェクトに触れる。
「悪いけど疲れるのは嫌なのよねぇ」
「――自分だけ先に行く気か?」
「えぇ、前々から言っているでしょう? 私はやる事はやるけど拘束されるのはごめんなの。 この様子だと仮に勝ててもジオセントルザムはボロボロ。 もうどうにもならないわ。 今回はここまでよ」
教皇の殺気さえ籠った視線をファウスティナは涼し気な顔で受け流す。
「やはりお主が残ったのは間違いだったようじゃな」
「でも、エメスの生き残りで知識を持っているのは私だけ。 どう思っていてもあなた達は私に頼るしかないのよ? ご機嫌を取れとまでは言わないけど好きにはさせて貰うわ。 それに、それを言うならあなたも似たようなものでしょう? そっちの彼の言う通り、逃げるだけで何もする気がないのだから私を非難する権利はないんじゃないかしら?」
おいおい、何を逃げるつもりでいるんだ? 逃がす訳がないだろうが。
戦闘力がないのなら取りあえず手足を落としてその辺に転がしておけばいいか。
ファウスティナは俺が何をしようとしたのかを察したのか、その体が発光し体が透けて行く。
魔剣を向けるがファウスティナは制するように手を翳す。
「それは止めておいた方がいいわ? コレ、要るんでしょう? 壊すと直せないわよ?」
言いながらファウスティナの体の透明度が増していく。 余裕の表れなのかへらへらと締まりのない笑みを浮かべた後、小さく手を振る。
「じゃあね。 魔剣使いさん? 次の世界で仲良くやりましょう? 貴方とだったら上手くやれるかもね?」
そう心にもないであろう事を言い残してファウスティナは光の粒子状の何かに変わってオブジェクトに吸い込まれ、主を失った衣服と所持品がその場に散らばる。
なるほど。 具体的に何をしたのかは知らんがあの中に逃げたという訳か。
自信満々だった所を見ると引きずり出すのは骨が折れそうだな。 まぁ、訳の分からん所に逃げたのではない分、まだマシか。
教皇はオブジェクトを忌々し気に見つめて錫杖を構える。
「一応、最後に尋ねるが我等と手を結ぶつもりはないのじゃな?」
「ないな。 お前こそ素直に降伏するなら今の内だが?」
「……ならばお互いに力尽くと行くとしよう。 幼子と思うて甘く見るでないぞ」
「幼子? 若作りの婆さんが何を言ってるんだ?」
俺は応じるように魔剣を構える。
「グノーシス教団教皇ロヴィーサ・アストリッド・ヘクセンシェルナー。 征くぞ!」
まったく、初めからこうすれば良かったな。 俺は魔剣を第四形態に変形させ、大量の円盤を生み出す。
取りあえず頭さえ残っていればどうにでもなるので細切れにして動きを止めるとしよう。
円盤を嗾けると同時に足元の影を伸ばして拘束を狙い。 邪視で周囲に視線を発生させて同様に拘束を試みる。
「舐めるでないわ!」
教皇がそう吼えると同時にその背に瞬時に五枚の羽が出現。 天国界か。
流石に教皇というだけあって今までに見た連中の誰よりも発動が早い。
そして力の発現はそれだけには留まらない。
「
教皇の背から六枚目の羽が出現したと同時に足元から迫っていた影と視線に対して教皇は錫杖を縦に一閃。 次の瞬間、影が教皇を避けるように左右に分かれ、視線に乗せた付与効果も逸らされる。
見た感じ魔力を伴った攻撃を逸らす効果か? はっきりしないが、物理攻撃ならどうだ?
円盤の群れがそのまま襲いかかるが、教皇は特に焦りを浮かべる事もなく動かない。
「
円盤が教皇を斬り刻む前に七枚目の羽が出現。 これで七種類目。
少なくともここまで使える奴は見た事もない上、知識にもなかった。 伊達に教皇を名乗っている訳ではないという事か。 それに権能の文言に覚えがあった。
さっき始末した子供枢機卿が使おうとしていた奴か。 具体的な効果は見てないから知らんが、防御系と言う事は何となく分かっているので使わせない方がいいな。
『
取りあえず権能使いに効果のある『憂鬱』と視界を塞ぐ『嫉妬』を起動。
効果に個人差があるが邪魔ぐらいはしてくれるだろうと考えていたのだが――俺の予想はあっさりと裏切られる。 教皇の七枚目の羽が齎した効果は絶大だった。
円盤が全て消滅し、嫉妬の霧も消え失せる。 消え方に違和感があるな。
ついでに言うなら『憂鬱』が効いていないのか、権能が揺らがない。
「まさか『憂鬱』とは、面白い力を振るうのぅ。 自殺願望でもあるのか?」
答えてやる義理もないので攻撃方法を変更。 第三形態のワームを発生させてそのまま嗾けるが、光に触れた時点で消滅しそうになっていた。 これも駄目か。 なら仕方がないな。
一通り試して効果がなかったので第二形態に変形させ、そのまま発射した。
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