第1063話 「勝吼」

 第一形態に変形させつつ一気に踏み込んで魔剣での振り下ろし。

 教皇は動きを読んでいるのか巧みにこちらの攻撃を躱す。

 クリステラもそうだったが、一定以上の技量を持った連中は立ち回りの段階でものが違うな。


 明らかに引き付けてから躱しており、視野が広いのか俺の動きに合わせて即座に対応してくる。

 少し様子を見ようとも思ったがそろそろ畳みかけるべきか?

 詳細が良く分からない防御手段の突破に目途が立つまでは派手な動きは控えつつ近接で様子を見ようとも思ったが面倒になって来たので行くとしよう。 なに、当たるまで攻撃すればいつか当たる筈だ。


 教皇は魔剣を警戒しつつ俺の動き全体に目を光らせており、虚を突くのは少し難しい印象を受ける。

 防御に関しては非常に上手いと思うが、攻撃の方はどうなのか?

 こちらはそこまでではないが、鬱陶しいのは事実だった。 ヒラヒラ躱してこちらの攻撃の合間を狙っての反撃。 権能による風の刃と錫杖による薙ぎ払いや何らかの付与による斬撃。


 前者の威力はそれなり以上に高いが不完全な障壁でもどうにか防げるので警戒度はやや低い。

 後者は確実に当てられるタイミングや体勢を崩す目的で放って来るので回避が難しかった。

 狙って来る個所も手足や胴体とかなり散らしてくるので攻撃行動の傾向も見えてこない。 


 「随分と奇妙な体をしておるな。 急所がどこにあるか分からん」


 教皇の呟きを聞いてなるほど納得する。 どうやら効果がありそうな急所を探っていたようだ。

 俺は構わずに魔剣で斬り返すが教皇は際どい所を見極めての回避。 移動や体捌きにしても動きは最低限。

 教皇っていうのは聖職者の最上位じゃないのか? いくら何でも動きが良すぎる。


 加えて遠距離でも攻撃手段を完全に潰して近接に誘導してからのこの動きだ。

 明らかに戦い慣れている。 そして動き自体も聖堂騎士の水準を大きく越えており、見た目から想像もつかない戦闘能力だった。


 教皇は口の端を吊り上げて笑って見せるが、視線には怒りにも似た何かが灯る。


 「舐めるでないといったであろう? こう見えてもそれなりに場数は踏んでおるのじゃ。 力はあるが技量はお粗末じゃのぅ? それでタウミエルに勝つ? 笑わせるでないわ!」


 こちらの攻撃に慣れて来たのか小柄な体を利用して突きを掻い潜って懐に入ってくる。

 今まで見せていなかったが、意表を突けるかと膝で迎撃を選択。 接触直前に膝からドリルを出して奇襲。 教皇は僅かに眉を動かしただけで動揺は見られない。

 

 どう防ぐかの予想をしたが、教皇の行動は想像を超えていた。

 何かに掴まれたかのように膝が上がり切らない。 ドリルの回転も止まっている。

 正確には止められているか。 何かに掴まれて、強引に止められていたのだ。

 

 一瞬、何が起こったのか理解ができなかったが、ややあって理解が追いつく。

 「寛容」の権能による風の操作で俺の足を押さえ付けたのだ。

 瞬間的な圧は大した物だったが、振り払えないレベルではなかった。 強引に拘束を破って攻撃を続行するが教皇にとってはそれだけで充分な隙だったようだ。


 錫杖を回転させ槍と言うよりは棍のような軌道で装飾部分を俺の首に叩きつけられた。

 それにより視界が一気に傾く。 ただ、骨は頑丈に作っているので骨折には至っていない。

 俺の首を圧し折りたいのならそれでは足り――ゴキリと嫌な音が体内に響く。


 傾いてがら空きになった顎に教皇の膝が叩き込まれた。 何をどうなったらこうなるんだと思ったが、一回転した視界に映った錫杖を見て納得した。

 どうやら教皇は俺の首に一撃を叩き込んだ後、錫杖を立てて飛び上がり傾いた俺の顎に膝を入れて一回転させてくれたようだ。


 構わずに薙ぐように魔剣を一閃。 当然のように躱されるが即座に第二形態に変形させて光線を発射。

 さっきと同様に断ち割られて防がれる。

 

 「一つ覚えの同じ攻撃に身体能力頼りの雑な攻め。 その程度で勝てるのならこんな事にはなっておらんわ! 儂に圧倒されるこの現状を見てまだタウミエルに勝つと吼えるか!? もう一度言うてみよ!」

 

 教皇は怒っているのか怒鳴りつけるようにそんな事を言って来る。

 俺は折れて傾くどころかぶらぶらしている首を修復しながら内心でも首を傾げた。

 何を怒っているんだこいつは? 今一つ良く分からなかったが、質問されているので素直に答える事にした。


 「そうだな。 お前を叩きのめしてタウミエルは始末する」

 「――っ、この――」

 「お前こそ何を勝った気になっているんだ? 俺はまだまだ戦えるぞ」

 

 首を治しながらなので視界が揺れているが些細な問題だな。

 もしかして今の自分に勝てないような奴がタウミエルを倒すなど不可能とでも言いたいのか?

 そういうセリフは俺を倒してから言うんだな。 喋っている間に完治。


 よし、続きと行こう。

 

 「魔剣の加護か? どういう手段で傷を癒しているのかは知らんがその威勢がいつまで続くか見てやろう。 儂も出し惜しみはなしじゃ――煉獄山ペトロス


 何だ。 まだ何か隠しているのか? だったらさっさと見せてくれ。

 教皇の空いていた右肩から羽が一気に三枚出現。 それをみてなるほどと納得した。

 あぁ、大罪系の権能を使ってなかったのか。


 どうでもいいがこいつ等は下には使用制限を出す癖に自分では使うんだな。

 教皇の動きが明らかに速くなった。 目で追えない程ではないが、今まで見て来た中ではかなり上位に入れるぐらいの素早さだ。


 離れた距離を一息で埋めた教皇は錫杖を一閃。 無駄だと思いつつも障壁を展開しながら防御。

 同時に顔面に衝撃。 大きく仰け反る。 見えなかった事から空気の塊か。

 権能の扱いが随分と器用だ。 今までの救世主連中は刃やイメージしやすい形でしか発現できてない事を見ても一人だけレベルが違う。


 ただ、仰け反りはしたが教皇の本命の攻撃である錫杖は認識できていたのでそのまま受け止める。

 こちらは問題なく防御に成功。 このまま第一形態に変形させて武器の破壊を狙おうとしたが、魔剣の刃が本体である柄から分離したと同時に消滅。

 

 これは流石に驚いたな。 刃が消滅した事により錫杖が俺の胴体を捉える。

 体がくの字に折れ曲がって吹き飛ぶ。 地面を転がり壁に衝突。

 即座に起き上がって反撃しようとしたが、足元の水が動いて引き倒される。

 

 「潰れよ」


 倒れた俺の視界に映ったのは飛び上がって錫杖を勢いよく振り下ろす教皇の姿だった。 

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