第1040話 「腕砕」

 「各自連携! 広さを活かして戦え! 数は多いが術師を叩けばどうにでもなる」


 俺が仕掛けたと同時に救世主は全員、権能を展開。 そのまま空中に飛び上がる。

 上が広いと動き易そうだな。 同時に聖殿騎士が散開、聖堂騎士が真っ直ぐに突っ込んで来る。

 戦闘能力が低い聖殿騎士は剣ではなく杖を持っている奴や魔導書らしきものを構えている奴までいた。

 

 上から救世主達の風の斬撃が無数に飛んでくるが、魔剣の障壁で防ぐ。

 流石に権能だけあって数が揃えば威力は中々だな。 三枚重ねの障壁が一枚は破壊される。 まぁ、直ぐに元通りにはなるが。

 ちまちま攻撃するのも面倒なので積極的に狩りに行くべく走り出す。


 ざっと周囲に視線を巡らす。 どれから仕留めるべきかと迷ったからだ。

 救世主は――ヒラヒラ飛び回っているから当て難そうだし保留。 聖堂騎士は当てやすそうなら狙う。

 そうなると消去法で聖殿騎士だな。 第三形態のワームと第四形態の円盤を操作して足止めに集中。

 

 俺は雑魚の処理だ。 こういうのは数を減らすのが手っ取り早い。

 聖堂騎士は無視して後衛の聖殿騎士へと迫る。


 「狙いは後衛か!」


 やらせないとばかりに盾を持った連中が割り込むが、第一形態に変形。

 盾に構わず突き込む。 盾は魔剣と接触して火花を散らすが、数秒で屈して砕け散る。

 魔剣はそのまま盾を持っていた聖殿騎士を粉砕。 足を止めずに後衛へ。


 正面から行っているので当然ながら後衛連中も狙われている事は自覚しており、魔法攻撃を繰り出しながら距離を取ろうとするが逃がしはしない。

 俺の足元から影が伸びて逃げようとした連中の足に絡みついて動きを止める。


 「何だこれ――」


 聖殿騎士達は急に動けなくなった事に驚きの声を漏らしていたが、それが人生最期の言葉となった。

 魔剣の一撃は聖殿騎士の鎧程度の強度では何の問題にもならない。 一度振るうと上半身が血煙と化し、回避できた者も掠った部分が大きく抉れて装備ごと血液が噴出する。

 

 後ろや死角から攻撃が飛んでくるが障壁で防御。


 「な、何だあの武器は――ばっ!?」


 魔剣の威力に動揺したらしい聖殿騎士の頭を左腕ヒューマン・センチピードで刎ね飛ばす。

 

 「まさか、魔剣なのか? ならば例の鎖を使え! 奪えれば戦闘能力は大きく落ちる」

 

 何だ、今頃気付いたのか。 寧ろ何で最初から使わなかったのかと疑問だったぐらいだ。

 聖殿騎士は普通に雑魚だが、聖堂騎士と救世主は流石に動きが良いな。

 連携もかなり滑らかだ。 ただ、救世主は「憂鬱」の権能が効いているのか、動きが鈍いが流石に重要区画を守っているだけあって立て直し始めている。


 どこから取り出したのか数名の聖堂騎士が鎖を振り回し始めた。 

 

 「敵の障壁を崩す。 その隙に魔剣を奪え」

 「邪悪な魔剣を操る賊め! 裁きを受けろ!」

 

 全員が俺を包囲するように距離を取る。 上から救世主達が一斉に剣を振るう。

 風の斬撃が全方位から飛んでくるが周囲に障壁を展開して防御。 「憂鬱」が効いているのか威力にばらつきがあるが、狙いは正確だな。 いくつかの障壁を破壊されたがこっちには届いていない。 

 

 聖堂騎士が救世主の攻撃に合わせて突っ込んで来る。 取り囲んで袋叩きは定石だが、来るのが分かっている上、数で押してくる連中の対処は慣れている。 周囲に邪視を展開し、同時に足元の影を一気に広げる。

 邪視と影による拘束に同時に対処するのは初見では難しかったようで半数以上の動きが止まった。


 防ぎきった連中は位置も良かったが、何かしらの魔法道具を常備していたおかげだろう。

 まぁ、数が減れば対処は楽になるから効果としては充分だ。 周囲に散らした円盤を一気に俺に向かって飛んでくるように操作。 動きが止まった奴は何とか拘束を剥がそうとしているが遅い。

 

 ほぼ棒立ちだった連中は次々と後ろから円盤に斬り刻まれ、やや遅れて来た闇のワームに丸呑みにされる。

 味方が次々と死んでいる有様だったが、慎重に隙を窺っている者も少ないが居た。

 拘束を逃れた連中の内、数名が大きな動きで俺の注意を引き、残った連中が死角から鎖を振り回して魔剣を引き剥がそうとしていたが見えているのでそこまで脅威とは感じられないな。


 向かって来る連中は障壁を張って魔剣から一気に炎を噴出させ、周囲にまき散らす。

 同時に左腕ヒューマン・センチピードを複数伸ばして逆に鎖を絡め取る。 ちょっとした綱引きになるが、魔剣による強化とグリゴリの強化系の固有能力で身体能力を大幅に伸ばして鎖を持っていた連中を引っ張って体勢を強引に崩す。 これはかなり強化の倍率が高いが、代償に体のあちこちに負荷がかかって崩壊するといったデメリットもある。


 ……まぁ、壊れた端から治すからあってないような物だが。


 「クソッ、この人数で力負けだと!?」


 逆に絡め取られた鎖を必死に手繰ろうとしている聖堂騎士がそんな事を言っていたが、暗に力で敵わないと言っているような物だ。 取りあえず、力のない順番にこちらに来て貰おうか?

 左腕ヒューマン・センチピードを一気に引いて最後まで鎖を手放さなかった連中の足が床から剥がれてこっちに飛んでくる。


 咄嗟に鎖を手放そうとした奴もいたがもう遅いな。 綱引きになる前に手放した奴は賢明だったが、そうでなかった奴は――魔剣の第一形態で血煙か挽き肉になって貰った。

 お仲間がくたばった事がショックだったのか何人かが名前らしき単語を口走っていたが、そんな事をしている余裕があるのか? 魔剣を第二形態に変形。


 切っ先をやや上に向ける。 地下があるからあまり使えなかったが、構造も大雑把に掴んでいるのでこの角度と位置なら行けるだろう。 この建物もかなり頑丈だし多分問題ないな。 発射。

 飛べない奴は邪視と影の二重拘束を防げても無効化はできていないので、少なからず動きが遅くなる。


 闇色の光線は回避が間に合わなかった連中の上半身を消し飛ばし、部屋の壁を大きく削りとった。

 

 「貴様ぁぁぁ!」


 一人の救世主が羽を震わせて突っ込んで来る。 回避を考えていないのか軌道は矢のように真っ直ぐだ。

 だったら正面から磨り潰してやろう。 迎え討つように魔剣を真っ直ぐに突き出す。

 救世主は己を鼓舞する為なのか「うぉぉぉぉ!」と咆哮を上げ、右で持っていた剣を左に持ち変える。


 お互いが間合いに入る瞬間に救世主は軌道を一気に落とす。 地面を這うように飛行。

 だが、魔剣の攻撃範囲からは逃げられていない。 魔剣は救世主の右腕と背の一部を大きく抉り取る。

 

 ……足狙いか。


 そう判断した俺は魔剣を掻い潜って斬りかかって来たタイミングに合わせて足を上げて、下ろす。

 

 「が、はっ」


 下ろした俺の足に踏みつけられて救世主が地面に縫い留められる。

 頭を踏み潰すつもりだったが、若干ズレて首のやや下を押さえる形になってしまったな。

 とどめを刺そうとしたが救世主の表情には苦痛を堪えつつ笑みを浮かべていた。


 「かかったな! 救世主の力を思い知れ!」


 ――ρετριβθτιωε ξθστιψε正義


 瞬間、俺の右腕が砕け散り、魔剣が回転しながら宙に舞った。

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