第1039話 「奥歩」
「や、止めろ……止めてく――」
半殺しにした救世主が泣きながら嫌々と首を振っていたが、無視して顔面を掴んで洗脳。
周囲を見ると死体だらけだ。 立っているのは俺とサベージに洗脳した聖堂騎士や聖殿騎士達のみ。
余裕があったので救世主も目の前の奴以外にも何人か洗脳したが、これはしなくても良かったな。
俺の洗脳は対象の魂を破壊して代わりに根を打ち込む事で俺の配下としている。
生前と変わらない思考や挙動をするのは脳に残った情報で肉体を動かしているだけなので、本質的なものは完全に別物となる。
その為、見た目はそのままだが、実質的には限りなく本物に近い偽物――いや、この場合は別人か?
……で、だ。
その洗脳にはちょっとした弊害があった。 別人になる上、感情や記憶は脳からの情報をエミュレートした物なので本物の感情を要求する権能が扱えなくなる。
つまり救世主を洗脳してもそのままの戦力として運用できなくなるのだ。 少なくとも権能使いとしては使い物にならなくなる。 更に困った事に救世主は権能に頼った戦い方をするので、権能が使えなくなると一気に弱体化して、並の聖堂騎士以下にまで戦力評価が落ちてしまう。
持っている情報は他と大差ない上に大幅に弱体化すると良い所がないな。
外も押されているようだし、雑魚でも居ないよりはマシか。 さて、この大聖堂はそこまで複雑な造りはしていないので、このまま奥へと行けば目的地にたどり着く事が出来る。
探し物がありそうな場所も分かりやすいので家探しするには楽な建物だ。
左右は外に繋がっているので無視、この奥は警備の詰所や権力者――枢機卿や高位の聖職者連中の住居だな。 救世主もその括りに含まれるようだ。
奥にはかなり広いホールがあり、教皇のありがたい言葉を聞く場所でもあるらしい。
その奥は限られた者しか入れない区画に繋がっている。 教皇の住居もそうだが――あぁ、これがあったな。 意外ではなかったが面白い情報が洗脳した連中の脳みそに入っていた。
エメス――テュケやホルトゥナの源流組織についてだ。 エゼルベルトや珍獣から大雑把な話は聞いていたので、居るだろうなという事は分かっていた。 ただ、詳細は不明のままだったので、ここに来てはっきりしたのはそれなりの収穫と言えるだろう。
――とは言っても情報としてはそこまで多くはない。
例によって秘匿されているからだ。 ここの隠蔽体質は外様の情報にまで及んでいるらしい。
責任者はファウスティナとかいう女。 聖騎士連中からの評判はあまり良くないな。
グノーシス外の人間にもかかわらず、教団の重要区画に出入りしている事を見れば気に入らんと思う連中は少なからず現れるだろう。
ついでにホルトゥナの生き残りも居るらしい。 そっちはどうでもいいな。
記憶を漁った限り珍獣から盗んだであろう魔導書をせっせとコピーしているだけのほぼ閑職といった扱いだった。 一応、珍獣の妹とやらの顔も分かったがあまり興味がないので、特に感想はない。
ホルトゥナはここでは大した価値はないがエメスはそうでもないようだ。
流石は源流組織というだけあって嫌われてはいたが、その功績は認められている。
裏で色々とやっているのだろうが、はっきりしている分だけでもこのジオセントルザムの周囲を囲んでいる壁や様々な技術提供――この辺はアメリアや珍獣から吸い出した技術だな。
功績としてはエメスの物となっているので、魔導書や魔導外骨格の応用品である天使像、銃杖。
確かにこれだけ揃えれば無視はできないだろうな。 ただ、優遇され過ぎていると感じている奴が多いので評判自体はそこまで良くない、と。
最大の問題は教皇の居住区であるこの大聖堂の深部に足を踏み入れる事が出来るのだ。
聖堂騎士や救世主ですら許可がないと入れない場所を我が物顔で自由に出入りしていれば、面白くはないだろうな。 教皇と城に居るらしい法王は捕獲対象なので生け捕りは決まっている。 そんな訳で探す手間が省けるから引き籠ってくれているのならありがたい。
さて、王城はヴェルテクスとアスピザルが仕掛けているらしいので俺もさっさと片づけるとしよう。
後続が来られても鬱陶しいのでサベージと洗脳した連中にこの場を任せて奥へ向かう。
ここを押さえておけば奥へは行けないからな。
ホールを抜けて一人、通路を歩く。 相変わらずの廊下、足元には足音がしないほど分厚い絨毯。
どこを見ても金がかかっている事が良く分かる。
外は相変わらずだが特に戦況の確認はしない。 今の俺には関係ないからな。 ファティマには任せるとだけ言っておいた。
廊下は静まり返っており人の気配はなし。 どうやら奥のホールで待ち構えているようだ。
固まってるのなら始末するのが楽でいい。 少し歩くと背後で戦闘の物と思われる音と衝撃。
どうやらここの防衛に戻って来た奴が居たらしい。 戻って来れるとは割と余裕があるのだろうか?
そんなどうでもいい事を考えている内に目的地である廊下の最奥。 会議などで使用されるホールの扉が見えた。 扉から魔力が流れているのを感じ何かしらの防御が施されているのは分かったので、魔剣を第二形態に変形。 それなりにしっかり守っているなら少々派手にやってもいいだろう。
発射。 扉は魔剣の光線に数秒ほど抗ったが耐え切れずに砕け散る。
そのままホールへと足を踏み入れるとそこには大量の聖殿騎士、聖堂騎士、救世主が待ち構えていた。
視線を上げれば途切れた階段にその上には枢機卿が二人と――おや? 珍獣の妹じゃないか。
自前の工場にでも引き籠っているものかとも思ったがこんな所に居たのか。
生かしておく価値もないしついでに始末しておこう。
「教団の神域を脅かす賊め! ここまで踏み込んだ事は万死に値する! 祝福されし我等の剣の前に――」
あぁ、はいはい。 似たようなセリフは何回も聞いたからいい加減に聞き飽きた。
欲しい情報もないしどうせ奥の事も知らないだろうから、さっさと死ね。
『
初手で「憂鬱」を展開。 同時に魔剣を第四形態で大量の円盤をばら撒き、第三形態の巨大ワームを出現させる。 第二形態は使わない。
やり過ぎてうっかり教皇を殺してしまうと取り返しがつかないからだ。 使うにしてもこの部屋の強度を確認してからだ。
取りあえずは建物に被害が出ないこれで行くとしよう。
――殺せ。
俺がそう念じると円盤の群とワームが近衛達に一斉に襲い掛かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます