第1038話 「試撃」
真っ先に「憂鬱」の権能を使用して敵の権能を阻害。
崩れた所にサベージを先頭に洗脳した聖堂騎士と聖殿騎士達が切り込む。
「裏切者共が! 教団へ背を向けた事、命を以って贖え!」
グノーシスの救世主は調子を崩したが他にはそこまで効果がないのでそのままサベージ達を迎撃。
権能を使わない連中は違和感を感じる程度の効果しかないようなので、やはり使い勝手は今一つだな。
まぁ、取りあえずさっさと仕留めるとしよう。
建物への被害――ここは外が近い事もあって光線を使うと崩れかねんので第四形態に変形させる。 バラバラと回転する刃の円盤がその数を増やしていく。 乱戦になった所で射出。 円盤は手近な敵に襲いかかる。
「貴様が首魁かぁ!」
一人の救世主が背の羽を震わせて突破。 一応、憂鬱は効いているのか羽が不安定に明滅していた。
ちょうどいい。 使えるようにはなったがあんまり試せていないものがあったんだ。
実験台になってくれ。 俺は体内に魔力を流して力を解放する。
同時に俺の周囲の空間が歪み――あちこちに切れ目のような物が入って
影響範囲内を埋め尽くすように現れたその視線に射貫かれ、動きが大きく鈍る。
権能や装備に守られている状態でこれか。 思った以上に使えそうだな。
隙だらけとなった救世主を魔剣の第一形態で粉砕し、その手応えに内心で頷く。
今のは現在進行形で剥ぎ取り続けているグリゴリ――その内の一体であるサリエルとかいう奴の固有能力だ。 一応、グリゴリの中では上位に位置する奴だったらしい。
俺の知らない所で勝手にやられたらしいので、どの程度の強さだったのかはさっぱり分からんがアザゼルと同格というのならかなりの強さだったのだろう。
アザゼルとシェムハザの能力は単純に強いといった印象だったが、こいつは搦め手に特化しているようだ。
悪魔がよく扱う魔眼――魔法を視線に乗せる器官なのだが、それの上位互換である邪視といった面白い能力を使う。
さて、この邪視、どういった物かと言うと自分の周囲の空間にある種の結界に近い物を展開。
それ自体には何の効果もないが、この能力の一番厄介な所はそのエリア内に
範囲内ならどこからでも視線を発生させる事が出来る上、範囲を絞れば絞る程に威力を上げられる点も扱い易い。 燃費は悪いが数もかなり自由に増やせるので二十、三十と視線の数を増やして重ね掛けすれば少々の魔法的な防御を突破する事も出来る。
……まぁ、限度はあるが権能持ち相手にこの効果だとかなり使えるな。
あくまで視線に魔法を乗せるものなので、攻撃などにも使えはするが魔剣があるので火力は足りている。
既存のものと比較すると攻撃手段としては微妙なので、相手の動きを妨害するのに使えばいいだろう。
効果範囲を括ればそこまでの集中も必要ないので使い勝手もいい。 こうして考えるとグリゴリって結構使える連中だったんだな。 他にもいくつか能力を取り込んだが、支援系はどれも中々悪くない。
身体能力強化に短時間の未来予知、肉体の崩壊と引き換えだが、身体能力の限界突破。
知覚の拡張や魔力行使の効率化。 用途が被るので使わないものもあるが何かと便利な代物が多い。
……いい機会だし攻撃系を適当に試すか。
ちょうどお試し下さいと言わんばかりに向かって来る連中がいるので相手には困らなさそうだ。
左右から斬りかかって来た複数の聖堂騎士と聖殿騎士を足元から広がった影で拘束。
手近な相手に手を翳すと掌がバチバチと放電。 電撃のような物が聖殿騎士に命中。
喰らった相手はビクリと大きく痙攣、内部が焼けたらしく顔の穴から煙が吹いている。
出は早いが威力は微妙だな。 死んでいない所も更に微妙だった。
取りあえずもう一発撃ち込んでとどめを刺す。 次。
別の奴に手を翳すと掌が発光。 高温の熱波と閃光が狙った奴の表面を焼くが――何だこれは? 電子レンジ? 表面をチンするだけ――あぁ、こうすればいいか。
俺はつかつかと手を翳しながら聖殿騎士の顔面を掴んで熱を送り込むと瞬時に体液が沸騰したのか全身がボコボコと泡立って弾け飛んだ。 接触しないとあんまり威力出ないな。 魔剣や手足に仕込んだドリルがあるから使わなさそう。 更に微妙だな。 次。
影の拘束をどうにか剥がして斬りかかって来た奴が居たので魔力で鎖を生み出して一閃。
上から頭を打ち据えて地面に叩きつける。 同時に空間に魔力を放出して相手を影響下に置く。 立ち上がろうとしているが再度影に拘束されて立ち上がれないでいるが、そのまま頭を踏み潰してとどめを刺す。
シャリエルの拘束能力と鎖だが、サリエルの邪視があるから要らないな。 鎖も
掌から光線を発射。 敵の頭部を消し飛ばす。 出は早いが魔剣と被るな。 威力が出ない代わりに絞りやすいので使い分け次第で使えない事もない、か?
今度は別の光線を発射。 大きく湾曲して敵を射抜く。
軌道を操れるのはいいが出が遅い。 前者がバラキエル、後者がシムシエルの能力だったが、どちらも微妙だった。 シムシエルは支援系の能力も扱えるが、自分には効果がないので多分使わない。
ただ、この拘束に使っているバササエルの影は中々使い勝手が良いな。
自身の影の形を変えて相手に干渉するので体がデカければデカい程、射程が伸びる。
その為、人間サイズだとそこまで劇的な能力ではないが軍勢を相手にしないのなら充分に使えるので気にならない。
他の自己に作用するタイプの支援系は使える事は分かっているので、試し打ちとしてはこんな物だろう。 戦況を確認するとサベージが一番目立つ活躍をしていた。
こいつもこの戦いに合わせて随分と強化を施したので救世主相手でも充分に戦えている。
グリゴリのパーツ移植に始まり、身体機能の強化、とどめに分解した魔導書を直接埋め込んでの権能使用だ。 正直、適性がないから第一位階の強化でも使えれば良い方かとも思っていたが、あっさりと使いこなしていた。 適性を示したのは「暴食」で俺も同じものを試しに使ってみたが微妙だった。
食欲はそれなりにあると自負していたのだが、それだけではダメだったらしい。
残念ながら俺には権能を扱う適性はさっぱりのようだ。 一応、美徳系の権能も一通り試したが、ビックリする程にどれも大した威力が出なかった。
「慈愛」の治癒系に至っては小さな擦り傷程度にしか効果がなかったのは流石にショックだったな。
まぁ、使えないものは仕方がないので、使えるものや能力でやりくりすればいい。
……それにしても思った以上に脆いな。
聖堂騎士はかなり善戦しているが救世主の崩れ方が大きい。
権能が不安定になっている事がここまでの影響を及ぼすとは意外だった。
お陰で思った以上に楽に片付きそうだ。 俺はそんな事を考えながら手近な敵へと攻撃を仕掛けた。
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