第1041話 「腕継」

 右腕が砕け散った事により魔剣が宙に舞うが空中で動きを停止。 これは俺が魔力で操作しているからだ。 アザゼルとシェムハザの能力で手も触れずに武器を振り回していた応用だった。

 周囲の物体を魔力で操作して振り回すといったもので、慣れればこういった使い方ができる。


 「今だ! 魔剣を奪え!」


 できた隙を突いて畳みかけるように鎖が飛んでくるが魔剣を操作、空中で変形して威力を絞った光線を発射。 絡みつこうとした鎖を焼き払う。

 魔剣を奪われる事はないが――腕がないのは不便だな。


 踏みつけた救世主は集中力が切れたのか背の羽が消えていたので権能は切れているようだ。

 まぁ、切れていなくても接触状態で「憂鬱」を喰らわせて無理にでも解除して貰うが。

 靴――ザ・ケイヴを起動。 踵から杭が飛び出して救世主の頭を粉砕して即死させ、左腕ヒューマン・センチピードを振るって死体から残った腕を引き千切る。


 左腕だがまぁいいか。 千切った腕を砕けた俺の欠損部分に当てて強引に接合。

 魔剣を握る。 やはり左右が逆だと違和感があるな。

 

 「な、馬鹿な――」


 おいおい、驚いている場合じゃないぞ。 さっきので建物の強度は掴んだので崩さない程度に光線を発射。

 救世主達はヒラヒラと躱しはするが、いい加減に動きの傾向が掴めてきたな。

 操っている円盤の軌道を変える。 手近な奴に嗾ける形だったのだが、的を絞って包囲。


 逃げる方向を誘導して光線で円盤ごと消し飛ばす。 やはり、光線はいいな。

 当たれば即死なので面倒が少ないのは実に良い。 ただ、死体が残らないので見える位置で当てないと仕留めたかの確証が得られないのが難点か。 そんなどうでもいい思考をしている間にくっつけた腕の改造が完了。 左腕だったが右腕に組み直した。


 さて、この調子で一人ずつ仕留めて――そこでふと閃いた事があった。

 なんだ。 もっといい手があるじゃないか。 信仰だか何だかと高尚な事を言っているが、実際にそれを試される時、果たしてこいつ等は行動に移せるのだろうか?


 ……なるほど。


 こいつ等の知識に面白い言い回しがあった。 折角なので使ってみるとしよう。

 俺は魔剣を構えて奥へ――階段の先へと向ける。 教皇はこの先にいるんだろう?

 すぐに発射はできるが状況を理解させる為、見せびらかすように魔力を充填させる。

 

 「ちょっとお前達の信仰心を試してやろう」

 「なっ!? ――貴様ぁぁぁ!」


 発射。 時間をかけただけあって中々の威力の光線が大聖堂の奥へと飛んで行く。

 見せびらかしただけあって救世主連中は何とか間に合い、射線に割り込んだ。

 俺へあらん限りの憎悪の視線を向けながら救世主達は全力で光線を防ぐべく、持ちうる防御手段を全開。 流石に全員で防いでいるだけあって、光線はしっかりと遮られていた。


 かなりの威力が出ている筈なんだがしっかりと防いでいるな。

 流石は救世主だ。 取りあえずこの調子で頑張って防いでくれ。 建物が崩れるのは俺としても困るからな。

 当然ながら聖堂騎士や聖殿騎士達も黙って見ている訳ではなかったので、間に円盤とワームを挟んで近寄らせない。

 

 『うぉぉぉぉぉ!!』

 

 救世主達は合唱の練習でもしているのかと言いたくなるレベルの揃った叫びをあげ、光線に抗うがジリジリと焼かれ始めていた。 まだ燃え尽きていないとは頑張るな。

 そろそろ充填した魔力が切れるので光線が途切れそう――あ、切れた。


 何とか防ぎ切ったようだが半端に防いだ所為で、救世主達は悲鳴を上げながら殺虫剤を喰らった羽虫のようにボトボトと落下していく。

 どうやらゴラカブ・ゴレブの固有能力である激痛に苦しんでいるようだ。

 

 それにしても根性のない連中だな。 この前に仕留めた聖剣を持っていたハイ・エルフの女は普通に立ち上がっていたぞ? まぁ、立ち上がっただけで大した事のない雑魚だったが。

 動けないならさっさと死ね。 円盤とワームを嗾けて動けなくなった連中を次々と血祭りにあげる。

 

 激痛で動けない救世主達は碌な抵抗も出来ず、ワームに呑まれ、円盤に斬り刻まれていった。

 さて、一番厄介な連中は消えたので、次は――おや? 今になって気が付いたが、上にいた枢機卿や珍獣妹が居ないな。 外に出られる訳がないので奥へ逃げたか。


 地下に抜け道があるかもしれんが、どちらにせよこの大陸からは逃げられんから放置でいいだろう。

  

 ――街に関しては制圧するつもりなので逃げ切らせる気もないがな。


 

 「――まぁ、こんな物か」


 その場に居た連中を皆殺しにして俺はそう呟く。

 救世主が居なくなった後は消化試合に近い物で、聖堂騎士とそのついでに聖殿騎士を殺しきるまでそう時間はかからなかった。


 この先は奪った知識に情報がなかったので構造が良く分からない。

 誰でも良いから内部の記憶を持っている奴から吸い出したい所だな。 そんな事を考えながら途切れた階段を飛び上がって上る。


 奥の通路へと足を踏み入れた。 転生者でも通れるように配慮されているのか妙に広いな。

 長い廊下を抜けると大きな螺旋階段。 いちいち、降りるのも面倒だったので手摺りを乗り越えて飛び降りる。


 少しの落下時間を経て着地。 見上げてざっと高さを見るが結構、降りたな。

 

 「な、なんだお前は!?」


 やっと誰か出て来たかと思ったがその姿を見て内心で失望する。

 何故なら人間からかけ離れた姿。 明らかに転生者だからだ。 数は二人。 感じからして様子でも見に来たのだろう。

 こいつ等は記憶を抜けないから出て来られても鬱陶しいだけだな。 転生者は俺を敵と認識したのか武器を構えようとしていたが、反応が遅すぎる。

 

 動き出す前に両方とも魔剣で上半身を血煙に変えて粉砕。 残った下半身が消滅するまで待ち、ちゃんと死んだ事を確認して奥へと歩き出す。

 代り映えしない廊下を抜けると広い空間に無数のドアが並んでいる。

 適当に開けて見ると誰かの私室と思われる生活感のある部屋だった。 二、三部屋ほど見たがどれも同じなようなので他の部屋は無視。 どうやらここは居住区画らしい。


 特に面白い物もなさそうなので調べるにしても全部片付いてからだな。

 更に奥へと向かう。 構造もそうだが材質も良く分からんな。 壁は石材のようだが感触は金属とも取れる妙な手触りだった。 魔剣の光線をある程度防いでいる時点で並の強度じゃない。


 例の魔剣や聖剣を拘束する鎖もそうだが、一体何で出来ているんだ?

 首途に調べさせたが、構造は分かっても材質が良く分からないといった結果だった。

 ただ最近、解体したグリゴリの解析をしている内に分かった事もあるらしい。


 どうも連中――というより上位天使の一部は放置すれば勝手に分解されるが、維持されている間は金属とも鉱物とも言えない奇妙な材質の代物として存在し続ける。

 もしかしたら鎖は天使由来の素材でできた何かなのかもしれないらしい。 ただ、常に魔力を流さずに維持する方法がないのであくまで仮説といった事らしいが……。


 歩いている内にまた何かが見えて来たので、何が出て来るのかなと思いつつ俺は魔剣を握る手に力を込めた。

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