第960話 「方策」
「――その為、奥に行けば行く程、聖騎士や見習いの数は減り、逆に聖殿騎士や聖堂騎士の割合が増加します」
特にジオセントルザムは精鋭で固めているとの事で、今まで出くわした連中よりは格上がゴロゴロしているだろう。
「聞いた限り、首都付近になると一番の雑魚でも聖殿騎士の上位ぐらいの実力者って事?」
「その認識で正しいかと。 もしかしたら聖堂騎士しかいない可能性すらあります」
今となってはクリステラと同格の聖堂騎士でもない限り少数なら問題ないが、数で来られると少し面倒だな。 それに俺は出くわした事はないが聖堂騎士以上の連中もいるという話もある。
「後は
「はい。 最低でも二種以上の権能を操る事が肩書を与えられる条件です」
救世主になるには聖堂騎士である事と二種類以上の権能に対する適性があり、発現まで至った者が資格者らしい。 ただ、複数展開の弊害なのか威力自体はそこまでではないといった話もある。
それに関しては何となくだが分かる。 俺が大して威力を出せないのと同じ理由だな。
基本的に権能は該当する感情の強さで威力が決まるので、複数展開なんてやれば分散するに決まっている。
複数の思考を走らせる事と同じだからな。 威力や効果が一定で頭打ちになるのは目に見えている。
俺も「虚飾」を下敷きにして感情を無理矢理発生させて使用しているが、所詮は偽物だ。
本物の感情には遠く及ばない。 結局、俺は「虚飾」以外の権能は本当の意味では扱えないという事だろう。
つまる所、安定した威力を出したいなら一つの感情に集中するべきという話で、それをしない連中は複数展開の利点を得る代わりに威力を犠牲にしているという訳だ。
「普通に厄介だと思うけど、あんまり威力が出ないんだったら魔法の上位互換程度の規模に留まるのかな?」
「そうでもないだろ」
アスピザルの楽観をバッサリと切るのはヴェルテクスだ。
「あの連中の扱う権能はたかが知れているのは間違いないだろうが、その辺は道具で補えばどうとでもなるだろう」
「道具――あぁ、魔導書か。 例の珍獣さんの妹がクロノカイロスに持ち込んだんだっけ?」
「あれでブーストすれば肉体の負担を抑えられる上、威力に関してもかなりマシになる筈だ」
「オフルマズドとも繋がりがあるっちゅうんやったら、臣装使えば燃費の悪さも問題ないしなぁ」
……あぁ、そういえばそれもあったな。
聖剣と魔剣があるなら設備関係を整えれば再現はそう難しくない。 高い確率で使って来ると見ていい。
「あぁ、そっかー。 聖剣と魔剣があるもんね。 最低、二セットはあると見て良いけど、三セット目に関してはどう思う? 辺獄に穴が開いてるんでしょ? 過去の例を考えるともうない感じかな?」
「……充分にあり得ると思うが、ないよりはあると考えた方が無難だろう」
ないと決めつけて蓋を開ければ実はありましたなんて展開は間抜けすぎる。
……とは言っても最後の聖剣と魔剣――要は第一とナンバリングされた二本に関しては気になる事があるのも確かだ。
筥崎の話では他とは扱いが違うような印象だったが、何かがあるのだろうか?
既に消滅しているというのであれば考えなくていいので気楽でいいが、そんな簡単な物なのだろうかといった疑問はある。
「魔導書、臣装、聖剣、魔剣に多分、天使の召喚も使って来るだろうから、オフルマズドとグリゴリを足したような感じの相手になるのかな?」
「物量が圧倒的に違う事を考えると、厄介さではグノーシスの方が上だろう」
「どう見ても総人口百万じゃ利かないしねぇ……。 敵戦力の脅威度については何となく理解出来たけど、どうする――というかどう勝つの? まさかとは思うけど皆殺し?」
「だったら馬鹿かと言ってやる。 今までは地の利と情報収集で優位を取れただけで、それがないなら力押ししかないのは目に見えているからな。 いくらジジイの玩具があるからといっても、数で押し潰されるのが目に見えている」
アスピザルはやんわりとヴェルテクスははっきりと無理だろうと難色を示す。
まぁ、二人の言う事にも納得が行く。
「別に僕もヴェルも攻める事自体に反対している訳じゃないよ? 実際、グノーシスに関してはそろそろ放っておけないだろうしね」
聖剣と魔剣の回収に本腰を入れ始めたのか、大陸中央のアラブロストルを越えてフォンターナの方へ大軍勢が向かっているといった情報は既に入っているので、アープアーバンを越えれば即座に侵攻に入るだろう。 報告を受けた限りでは、交渉に来たといったレベルの数ではないらしい。
どう考えても侵攻を前提とした布陣だ。
あの様子だとアイオーン教団の戦力も把握されているだろうし、確殺できる戦力で臨むだろう。
それで連中が全滅すれば満足して帰るか? それはないだろう。
次に連中がやる事は所在が分からない聖剣と魔剣の捜索となる。 そうなればここに来るのは目に見えているので、黙って見ているのはどう考えても悪手なのだ。
……まぁ俺自身、敵が来るのを待つといった事は好きじゃないので、やるならこちらから仕掛けるが。
「いや、まぁ、分かるよ? 前にも似た話をしたかもしれないけど、クロノカイロスへ攻め込むのは命懸けになる。 オラトリアムの為に命を張るのはやぶさかじゃないよ? ただ、勝機ゼロの戦場に放り込まれるのは困るんだ。 だから、僕達としては明確な勝算を聞かせて欲しいんだよ。 なるほど、これなら勝てるなって根拠を、ね」
アスピザルの言葉に夜ノ森は無言で頷き、ヴェルテクスも同じ考えなのか口を挟まない。
首途は最初からやる気満々なので、いつ始めるのかといった事にしか興味がなさそうだ。
エゼルベルトは侵攻を提案するだけあって口を挟まない。
ファティマが何か言おうとしたが手で制する。 視線が集まっているのは俺なので、ここは俺が説明する場面だろう。
「まずは前提の話をしよう。 クロノカイロスという大陸自体を殲滅する気はない。 戦力的に難しいというのもあるが、そこまでする必要がないからだ」
「つまり攻めるのは首都のジオセントルザムだけって事?」
「可能であればそうするつもりだが、恐らくは殲滅までは行かないだろう。 詳しくは後で説明する予定だったが、今回の主な侵攻目的は探し物だ。 真偽は不明だが、連中はある物を隠し持っていてな。 本当にそれがあるのなら場合によってはそれを押さえるか破壊するだけで終わる」
「……ふーん。 真偽が不明って事はあるか怪しいって事でしょ? なかったら?」
「当然殲滅だな。 目的にはジオセントルザムの制圧も含まれている以上、邪魔する連中は皆殺しにする。 それと並行して教団のトップを押さえるつもりだ。 聞けば教団と国のトップは別で居るらしく、それぞれ教皇、法王といった役職に就いているらしい。 連中には色々と喋って貰う必要があるので最低でも片方は生け捕りにする予定だ」
アスピザルはそれを聞いてふむと考え込む。
「勝利条件としては教団の隠している何かを押さえる事と、トップを押さえる事、最後は首都の殲滅か。 取りあえずその三つの達成を並行して行う感じかな?」
「そうなる」
「なるほど。 まぁ、闇雲に皆殺しにして終わりって感じじゃない分、分かりやすくていいよ。 その何かがなくてもトップを人質にすれば黙らせる事は出来るだろうしね」
完全ではないが納得したのかアスピザルは小さく頷く。
俺としても今回に関しては消耗は最小で押さえたい。 何故ならグノーシスはあくまで前座だ。
本命の戦いはこの先にある。 その為に危険を冒してまでクリステラを引き入れたのだ。 恐らく、これ以上の敵はもう出てこないだろう。
それを乗り切った先に何があるのかは不明だが、やると決めた以上は最後まで行くつもりだ。
納得したようなので俺は次に具体的な侵攻プランの話をしろとファティマに視線を向けた。
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