第795話 「乱戦」

 空中で魔剣を第四形態に変形させて円盤をばら撒く。

 光線が防がれる以上、攻撃手段は直接的な物の方が良さそうだ。

 それに見た感じ、あの障壁は前面に展開するタイプにも見えたので懐に入れば使えない可能性もある。


 遠距離で撃ち合うよりは至近距離で殴り合った方が分は良さそうだな。

 その辺は連中も想定したのか、雑魚天使が次々と向かって来る。 獲物は光る弓矢のような飛び道具や、ハルバード、槍等の長物が多い。

 空中という広い空間で振り回すのだから剣よりは何かと扱い易いのだろう。


 接触の直前、足元から次々と魔法や銃杖による射撃が敵に向けて飛んで行く。

 下の連中も仕掛け始めたようだ。 雑魚天使も下に向けて光る弓矢で応射し始めた。

 あっという間に街中が戦場と化す。 まぁ、建物等の復興は近々始める予定だったし、どうせ後で直すのだからいくら壊した所で問題ないだろう。


 さて、雑魚は他に任せるとして、俺はさっさとあのデカブツを仕留めるとするか。

 最初に狙うのは後ろにいる朱色の方――シムシエルとか言うダメージを負っている方だ。

 魔剣の光線を防いだ障壁も鬱陶しいし、先に仕留めておきたい。


 雑魚が捕えようと襲いかかって来るが、攻撃は障壁で簡単に防げるので近接してくる奴は第一形態で挽き肉――というよりは残骸か。 粉々になった雑魚天使は残骸を撒き散らして落下していくが、血液の類は出ないな。 どうなっているのかは後で調べるとしよう。


 正面の敵を突破するとシムシエルが見えて来るが、割り込むようにシャリエルが前に出る。

 

 『共に来て貰うぞ混沌の子よ』


 ……まぁ、そう来るだろうな。


 そもそも支援に徹するつもりで来ているのだろう。

 前衛が居る限りは簡単には通してはくれなさそうだな。

 取りあえず以前と比べて、どれぐらい戦闘能力が変化しているかは知らんが、グリゴリの力を測る意味でもいい機会だ。


 ざっと見た限りだと、後衛のシムシエルは陽炎のような防御障壁と撃ち返して来た光線。

 前衛のシャリエルは謎の拘束技ぐらいか。

 間違いなく他にも何かあるだろうが、今の所はどうにか対処できるレベルの攻撃だな。


 ただ、連中の目当てが俺の捕縛と言う事を踏まえると手加減されている可能性もあるか……。

 その辺は戦り合いながら見極めるとしよう。

 シャリエルの背中の光輪が発光。 障壁で防ぐが、サベージが硬直したように動きを止める。

 

 俺に影響がないのは魔剣のお陰か。 恐らく、障壁とは別の手段で防いでいるのだろう。 なるほどと納得した俺はサベージを踏み台にして跳躍。

 <飛行>で空中で姿勢を保ちつつ突っ込む。 視界の端でサベージが雑魚天使に吹っ飛ばされていたが、自力でどうにかしろとだけ伝えて前へ出――咄嗟に魔剣を立ててガード、同時に凄まじい衝撃が腕に伝わる。


 吹っ飛ばされたが空中で体勢を立て直す。何をされたのかと言うといつの間にかシムシエルの腕に鎖が巻き付いており、それで打ち据えてきたようだ。 驚いたな。 あの図体でこんなに速いのか。

 その場で留まらずに急上昇と急降下で捉えさせない軌道を取って飛行。


 一瞬前まで俺が居た空間を無数の光線が薙ぐ。 シムシエルの光線だが、軌道が直線ではなく弧を描いている所を見ると僅かだが誘導性能があると見ていいだろう。

 回避先に雑魚天使が居たが邪魔だったので第一形態で粉砕しつつ敵の群れに飛び込む。

 あの図体なので下手に攻撃すると味方を巻き込むだろうから、この手は有効――

 

 咄嗟に障壁展開と急上昇――間に合わんか。

 障壁が砕かれ両足が千切れ飛んだ。 まぁ、足だけで済んだのは運が良かったと思うとしよう。 

 俺の足を千切ってくれたのはシャリエルの鎖だ。 驚いた事に奴の鎖は味方をすり抜けて俺にだけ当てて来た。


 あの鎖、思った以上に厄介だな。 障壁を抜いて来るのか。

 いや、喰らった感触から威力自体はそこまでじゃないな。 恐らくは付加効果か何かで障壁を破壊したと判断するべきか?


 女王戦での反省を生かして乱戦時は障壁を全方位に展開していたのだが、その分薄くなるのでこれは俺の判断ミスかもしれんな。

 不規則に飛び回り、狙いを絞らせないように気を付けてはいるがシャリエルの動きが速く、逃げた先に現れては鎖で攻撃してくる。 そして合間を縫うようにシムシエルの光線が襲いかかる。

 

 こちらは障壁で防げはするが、数が多いので攻撃に移れない。

 不味いな。 相手の手数が多すぎて防ぐだけで反撃が出来ない。

 

 ――ロートフェルト様!


 俺の状況に気が付いたファティマが連絡してくるが、構っていられないので重要じゃない用事なら後にしてくれないか?と返す。

 

 逃げながら視界の端に入っている戦闘の様子からすると、雑魚天使に割と苦戦しているようだ。

 聞けば例のシャリエルの謎の拘束攻撃で上手く動けないらしい。

 権能や魔法に近い代物なので装備や魔法道具で抵抗できてはいるようだが、完全に無効化はできていないようだ。


 ……つまり現状でまともに動けるのは俺だけと言う訳か。

 

 これはもしかしなくても不味いのではないだろうか?

 

 ――ご不快かもしれませんがお聞きください。 状況は不利ですが、敵の目的がはっきりしている以上、ここは一度撤退するべきです。

 

 確かに。 選択肢としてはありかもしれんな。

 グリゴリの能力は俺の予想以上だった。 このままだと少し厳しいな。

 ちなみにこのデカブツ二体だけでも辺獄に引き摺り込めないか試したが、妨害されているようでできない。


 見た感じ後衛のシムシエルの仕業か。

 光線攻撃といい、さっきから居るだけで鬱陶しい奴だな。

 本音を言うならファティマの言う通り、一度撤退して対策を練った方が良いのだろうが――シャリエルの鎖を紙一重で躱す。


 ……果たしてこいつ等は素直に逃がしてくれるのだろうか?


 さっきから無駄に逃げ回っている訳ではなく、躱しながら第四形態の円盤をばら撒いて撹乱しようとしているのだが、出した端からシムシエルの光線に打ち落とされるので余り効果がない。

 またこのパターンか。 円盤は広げてしまえば対処され辛いが、出現するのは本体である魔剣からなので出した所を潰されると非常に脆いのだ。


 弱点としては割と致命的かもしれんが、こればかりはどうにもならんな。

 展開できない以上、第四ではなく第三――は飛べないので没。 そうなると取れる手はそう多くない。

 余り好きな手段ではないが試してみるとしよう。


 『Περσονα人格 εμθλατε模倣ενωυ嫉妬』、『Ενωυ嫉妬 ις ηαρδ硬く ανδして σαμε陰府 ας ηελλ等し

 

 権能を起動。 限界まで効果範囲を広げる

 青黒の霧が広範囲に広がり、敵の視界を覆う。 同時にシャリエルの鎖が空を切った。

 それを見てふむと頷く。 権能で隠すと見えなくなるのか。


 取りあえず、有効そうな手が見つかったのでどうした物かと考えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る